⒊
⑴
看護師の幸恵(鮫島幸恵)が下手奥通路から現れる。
幸恵「大島さん。父は帰ってきましたか?」
大島「いえ、まだです」
茂造が幸恵を見て、
茂造「誰?」
大島「院長の娘さんです」
茂造「アルバイトの茂造です。ヨロピク~」
幸恵が下手端の入り口通路を見て、
幸恵「あっ、話してたら帰ってきたわ!」
⑵
幸恵の父で、花月病院の院長・高井(高井俊彦)が戻ってくる。
高井は白髪混じりの髪をしている。
高井「ただいま」
高井は茂造を見て、
高井「誰?」
茂造「今日からアルバイトに入った茂造や」
高井「…?」
高井「院長です」
茂造「まあ、頑張りたまえ」
高井「…?」
茂造「院長の高井です」
茂造「デカイさん?」
高井「たかい!」
茂造「デカイ!」
高井「た、か、い!」
茂造「デ、カ、イ!」
高井「なんでや!」
茂造「自分、めっちゃ顔デカイな!」
高井「(顔の大きな)お爺さんには言われたくないです」
茂造「ワシは背ーあるから。あんたはチンチクリンや」
高井「とにかく、顔はデカくないんで」
茂造「二頭身やん」
高井「そんな人、見たことあります!?」
茂造「今、見てます」
高井「そんなん言うなら、測ってみてください!」
茂造「測んのー?…傷付くだけやで?」
茂造「1、2ー」
と頭を1、首から下を2で計測する。
高井「2、伸ばしとるやないか!」
高井「(2が)こんなにあったら、イースター島のモアイや!」
茂造「えっ、モアイさん?」
高井「高井です!高井俊彦!」
高井が大島に対し、
高井「こんなん雇って大丈夫か!?」
茂造「大丈夫。オムツも一人で替えられるし」
大島「茂造さん、オムツ履いてんの!?」
茂造「もう、びちょびちょ」
大島「あかんでしょ!」
茂造「大丈夫。夜用やから」
大島「そういう問題ちゃう!」
高井が大島に対し、
高井「患者様や見舞いに来られた方に失礼がないようにお願いします」
高井「君のことを信頼して任せているんだから、頼むよ!」
大島「はい」
茂造「はいは一回!」
大島「…」
大島「一回しか言うてないわ!」
⑶
永田(=友梨)が売店のバックヤードから現れる。
永田「院長、おかえりりなさい!」
永田を見て驚く、茂造。
茂造「ニューハーフ!?」
永田「れっきとした女よ!」
永田「乗っていたバスが土手で横転して、この病院に運びこまれて、」
永田「気が付いたら、男の身体になっていた」
永田「元の身体で見つけるまで、院長の計らいで売店で働かせてもらっているの」
永田「私は女よ。友梨って呼んで?」
茂造「そんな、映画みたいな話、あるわけないやろ」
⑷
その時、診察室に続く下手端中央通路から北代医師(北代祐太)が現れる。
北代「友梨さん、興奮して、どうしたんですか?」
永田「私の言うこと、信じてくれないの!…女なのに!」
北代が皆に対し、
北代「友梨さんの話していることは本当です」
北代「MRI、カウンセリング…」
北代「総合的に勘案し、『解離性同一性障害』と診断しました」
茂造「…解離性同一性障害?」
北代「説明しましょう!」
ここから、Wikipediaに書かれているような内容の長ゼリフの場面に。
早々に、2度、3度と噛み、
茂造「もうアウトです!(苦笑)」
と、セリフを止められる。
茂造「何回も我慢したわ!(苦笑)」
茂造「何のために一ヶ月練習してきたんや!(苦笑)」
茂造「後もう一回、あるな?」
後の場面を示唆する、茂造。
茂造「次失敗したら、どうなるか…」
北代「分かりました」
※
補足。
この場面で用意された長台詞は、
『茂造の覚悟』時の北代さんの長台詞の2倍近いものでした。
観客が固唾を呑んで…というよりも、半ば噛むことを期待しながら見守る中、
千穐楽では、一度も噛まずに見事に言い切り、
感嘆の声と大きな拍手が起こりました。
茂造「凄いなー!…全く理解できんけど。(苦笑)」
⑸
物語に戻る。
茂造「つまり、多重人格ってことね?」
長台詞を四文字で要約する、茂造。
北代「はい。友梨さんという別人格が現れているのだと…」
永田「違うわよ!」
永田「私は、女として生まれ、女として生きてきた!」
北代「友梨さん、落ち着きましょう」
北代が診察室に去っていった。
茂造「落ち着くんはお前や」
北代がセリフを噛んだ件に繋げる、茂造。
長台詞が失敗した時に追加の笑いを取るために用意された台詞にも思える。
⑹
永田が男口調で、
永田「何で分かってくれへんねんっ!!」
今度は女口調で、
永田「どうしたらいいの?」
茂造「多重人格やん」
永田「だから、違うの!」
⒋
⑴
高井が幸恵に尋ねる。
高井「景子は戻ってないんか?」
幸恵「彼氏とデートしてるみたい」
高井「高2で彼氏って、早過ぎるやろ!」
⑵
高井の娘で幸恵の妹の高校二年生・景子(松浦景子)、
景子の彼氏で高校三年生・翔太(北野翔太)が
手を繋いで戻ってくる。
二人は学生服を着ている。
景子「ただいま」
茂造「景子ちゃん、おかえり」
景子「…?」
大島「あんたは知らんやろ!、今日来たばっかりやのに」
大島が景子に茂造を紹介する。
大島「アルバイトの茂造さん」
景子が茂造に自己紹介する。
景子「高井景子です」
茂造「ヨロピク!」
⑶
(翔太・景子→←高井←茂造、という立ち位置で)
景子が高井に翔太を紹介する。
景子「こちらは、NGK学園・三年生の翔太君」
翔太「はじめまして」
高井「手!(、離せ!)」
景子と翔太は手を離そうとしない。
高井「…」
高井「手ーっ!」
高井「…」
高井「手えーっ!!」
すると、茂造が女口調寄りに、
茂造「もう〜!、分かった!」
と、高井に近付き、手を握り、
女性のようにキラキラした目で高井を見つめる。
高井「…!?」
高井「そうじゃなくて、あっち(=景子と翔太)や!」
高井が景子達に対し、
高井「手ー繋ぐなんて、早過ぎる!離しなさい!」
景子と翔太が手を離す。
⑷
高井が景子を諭す。
高井「亡くなったお母さんも、景子がバレエで日本一になるのを楽しみにしていた」
高井「今は恋愛してる時ちゃうやろ」
すると、茂造の体に異変が起こる。
茂造「バッ、バッ、ボッ、バッ、ベッ、ボッ」
と、変顔で異変を言葉で表しながら、体を動かし、椅子に座り、俯く。
茂造が顔を上げ、優しい顔で高井・幸恵・景子を見る。
茂造は女口調で、ゆっくり優しく語り掛ける。
茂造「幸恵。景子。天国から見てるわよ」
茂造「あなた達はいつも綺麗ね」
茂造「俊彦さん。あなたはいつも顔がデカイわね」
茂造「久しぶり。私よ?」
高井「もしかして、麻里か!?」
茂造「そうよ。麻里よ」
茂造「景子なら必ず日本一になると信じているわ」
茂造「だから、安心して…バッ、ボッ、ベッ、ボッ」
と、ここで体に異変が起こり、茂造に戻る。
茂造「…ワシ、なんかやっとった!?」
大島「院長の奥さんになっとった!」
大島「あんた、イタコか!」
麻里が茂造に憑依したのか、
茂造のおふざけか、
どちらだったのだろうか?
⑸
幸恵「景子は去年、コンクールで入賞したのよ?」
茂造「凄いな。踊ってみて?」
景子「みんなの前で、恥ずかしい」
しかし、音楽が流れると、景子が華麗にバレエを踊り始める。
ターンを繰り返すと、遠心力でスカートがパラソルのような綺麗な形になる。
決めポーズの手前で、
茂造「もしもしー」
景子や皆がズッコケる。
音楽は茂造の着メロだったよう。
景子のバレエについて、
茂造「これは凄い。日本一になれる!」
⑹
高井が景子を叱る。
高井「バレエの先生から電話があったぞ」
高井「『いつから練習再開できるか?』って」
高井「練習、休んでるみたいやないか!」
景子「風邪気味で…」
高井「それで彼氏とデートか」
景子の肩を持つ、永田。
永田「たまには息抜きも必要よね?」
⑺
景子「翔太君、部屋に行きましょ!」
景子が翔太の手を引き、上手端通路に向かう。
翔太「お邪魔しまーす!」
すると、茂造が翔太の手を取り、
茂造「お邪魔しまーす!」
と、一緒に部屋に行こうとする。
大島が茂造を連れ戻す。
⑻
高井「景子に彼氏…」
高井「なんてこった…パンナコッタ」
茂造「今のなんですか!?」
茂造「聞きました?、『なんてこった、パンナコッタ』」
客席にアピールし、高井を恥ずかしめる、茂造。
その5に続く