吉田裕さんが担当した祇園花月公演の吉本新喜劇

『お父ちゃんはチャンピオン』(2018/06/19~25)で、

とある曲が流れてきました。

 

JOHN BARRY - Game of Death / 'Main Theme' (1978)  


ブルース・リー『死亡遊戯』のメインテーマ。

この曲は、日本プロボクシング界・最大級のスター選手、

辰吉丈一郎さんの入場曲でもあります。
 

 


平成の日本のプロボクサーで、

辰吉さんを技術で上回る選手はたくさん存在しても、
辰吉さん以上にファンの絶大な支持を集めた選手は存在しないのではないでしょうか。

 

辰吉さんの、愚直なまでのボクサーとしての生き方が

その後の日本のトップボクサーの輩出に凄まじい影響を与えているように思います。

 

00年代以降の名王者である内山高志さん、山中慎介さんも

辰吉さんの姿に憧れて、ボクシングを始めた選手ですね。

 

リアルタイムで試合を観ていないであろう、23歳の田中恒成選手も、

「最強より最高でありたい」と、理想とするボクサーとして、辰吉さんの名前を挙げています。

 

『強い相手に挑み、尚且つ、KO決着を目指す』

辰吉イズムは、目覚ましい技術進歩を見せる現役選手に脈々と受け継がれており、

現在でも非常に影響力の強い方ですね。

 

 



以下の動画は、

辰吉さんが生きる伝説となった、『作品』と言ってもよい、命懸けの試合です。

 

'97.11.22 シリモンコンvs辰吉(7RKOシーン&インタビュー) 

 

ボクシングファンが国内の名勝負を語る時、

必ずと言っていいほど上位にランクされる、歴史的な一戦ですね。

 


辰吉さんはダメージの蓄積が目立ち始め、「引退すべき」の声も上がった時期。
対するシリモンコンはバンタム級現役最強選手との評価で、
「戦ったら殺される」・「自殺行為」と、マッチメークを批判されました。

私も辰吉さんが勝利する姿はイメージできず、

この時は、入場曲『死亡遊戯のメインテーマ』が

死地に赴くかのように、たいへん重苦しく聴こえました。

 

辰吉さんの体を心配し、被弾するたび、「もう、試合を止めて!」と思いながら、
TVの前で声を上げ、涙し、この試合を見守っていたように思います。


対戦相手の減量苦など、辰吉さんに味方した部分もありましたが、
劇的な勝利を飾りました。

冷静沈着な浜田剛史さん(=元世界王者)がこれほど熱を入れて解説したのは、
最初で最後ではないでしょうか。

また、勝利時の観客席の異様な盛り上がりも、
決して、この時代のスタンダードではなく、極めて特別なものでした。

それだけ、辰吉さんが

元世界王者やボクシングファンを虜にしたということですね。

 

「自分のわがままでやってきて、ファンのためにやっているわけじゃないんです」

「それでもこうやって応援してくれて、僕みたいな人間を…ありがとうございます」
激闘の後にも拘らず、亡くなった恩人の名前を挙げる勝利者インタビューも素晴らしいです。

当時27歳でこの発言が出来るのですから、凄いですよね。

 

 

何故、20代の青年が幅広い世代から絶大な支持を集めたのか、

それには、時代や人としての魅力等、様々な要素が絡んでいると思いますが…

 

ボクサーとして見ると、辰吉さんは元々、華のある選手でしたが、
作られた世界王者ではなく、
プロボクサーとして、ファンに愛されるためのプロセスをきちんと踏んでいます。

 

それは、プライベートでファンに優しく接する等、

『ファンに媚びる』という意味ではありません。

 


①当時国内最速4戦目で日本王座に挑戦→タイトル奪取
②6、7戦目で世界ランカーと対戦
③当時国内最速8戦目で、不利予想された世界戦に快勝

と、理想的な手順を踏み、文句無い形で世界王者になりました。

 


その後、網膜裂孔・網膜剥離を患い、

波乱万丈のキャリアとなりましたが、

岡部選手、リチャードソン、ラバナレス、サラゴサ、シリモンコン、アヤラ、ウィラポンと、
その時その時、常に『強い相手』に挑戦していたように思います。

 

ボクシングファンの考える理想のボクサー像に、高次元で応えようとした人ですね。

 

 


一方、資金力や政治力で世界王者になった選手、

実質的に負けていた試合をホーム判定で勝利して、世界王者になった選手、
与し易い対戦相手を選び、世界王者になった選手等、

ファンに愛されるためのプロセスを欠いた形でトップに立ってしまった選手は、
(選手本人に責任が無いとはいえ)その後、どれだけ優れたパフォーマンスを見せても、
ファンの大きな支持を得たケースは無いように思います。

 

 

⒍ 終
プロは、人間離れしたパフォーマンスでファンを魅了することはもちろん最重要ですが、

同時に、ファンから愛されることも非常に重要な要素ではないかと思います。

どのような世界でも、

ファンに愛されるためのプロセスを大事にしてほしいですね。