「吉本新喜劇には、営業というものがありまして」
「地方の会場を回るんですね」

「明石の営業で、『池乃めだか』さんと一緒やったんです」
「公演が終わったのが、18時」
「そこから、バスに乗って帰るんですけど」

「めだかさん、ああみえて、せっかちな部分もあって」
「難波に早く戻って、一杯、呑みたいんです」
「バスが大阪に入ってから、『この辺で降ろしてくれ!』って、言いだして」
「それを言うのが、高速道路の上なんですねタラー


「めだかさんには、お姉さんさんの居る高級なお店にも連れて行ってもらってて」

「歌が好きな方で、僕も良く、めだかさんの前で歌わせてもらうんです」


「お店で一緒に飲んでいる、ある時なんですけどね」

「『何年目や?』って聞かれるので、『16年目』と答えると」
『よう、頑張ったな照れ
『もっと頑張ったら、もっと良いことがあるから頑張れよ照れ
「そう言うてくれて、嬉しかったんです」

「その話をしている時なんですけど…」

「めだかさんがメモ用紙に何か書いて、僕に渡してきて」
「人生の教訓かな、とか思ったり」
「それがこれなんですけど」
と、めだかさんが書いたメモ用紙をポケットから取り出す。


『五木ひろしのレパートリーを増やしてくれ』
「頑張るって、そういうこと?タラー


「NGKの一週間出番では、代役を立てるというケースが良くありまして」
「誰かがスライドして、その方の役を演じるんです」
「誰が代役をするかは、座長が決めるんですけど」

「『若井みどり』さんに、代役が必要な時があって」
「みどりさんは、高橋靖子さんが相応しいと思ったみたいなんですけどね」

「いざ、私に決まると、みどりさんは驚いて、慌ててましたびっくりアセアセ

「…当然やないか、と思いましたけどねニヤリ

 

「私は、代役の話があった時、きっと自分やろうと思ってました」
「普段、女役もしますし、みどりさんはあんな面白い顔の人ですからニヤリ



「みどりさんは昔気質な人なので…」
「代役のお礼に、高島屋の鰻弁当をくださって」
「鰻弁当には、小さな紙が添えられていました」
「それがこれなんですけど」
と、みどりさんが書いた紙をポケットから取り出す。

 

『今別府君、ありがとう』
「歳を取ると、小さな紙に書いて渡すのが好きになるんですかね?タラー

 

 



「このように、吉本新喜劇というところは、年齢層の高い場所で」

「『島田一の介』さん、なんですけどね…」
「昼ごはんで、蕎麦屋に連れて行ってもらったんです」

「お店の主人に食べ方を指示される場所で」
「『最初は蕎麦だけ食べてください』と言われて」
「食べたら、蕎麦の味しかしないタラー
「でも、一の介さんの反応は違って」
「『こんなん、初めてや。蕎麦だけでいけるびっくり』、と」
「人それぞれなんやな、と思ったんです」

「『次は、蕎麦にワサビを塗って食べてください』と言われて」
「食べたら、蕎麦とワサビの味しかしないタラー
「でも、一の介さんの反応は違って」
「『新食感やないか!全国展開できるで!びっくり』、と」
「改めて、人それぞれなんやな、と思ったんです」

「…その後、一の介さんがその店に行った形跡はありませんニヤリ


「一の介さんと言えば、昨年、『歌ネタ王決定戦』で決勝に出場しました」


「決勝戦の前に、一の介さんが僕に聞いてくるんです」
『別府(今別府さんの呼ばれ方)よ。M-1の賞金、幾らやったっけ?』
『一千万円です』
『R-1は?』
『500万円です』
『歌ネタ王は?』
「…金のことばかり、気にしてましたタラー


「決勝当日、一の介さんがNGK出番で楽屋に居たんですけど」
「明らかにいつもと様子が違って、緊張してて」
「とても、声を掛けられない」
「ずっと、鏡に向かって、決勝のネタを忘れないように、頭の中で回してるんです」

「私は空気に耐えられなくて、外に出て」
「帰ってくると、一の介さんが皆と競輪中継で白熱してました」
「でも、私には分かってました」
「現実逃避してるな、と」タラー


「大ベテランをここまで追い込む番組って、何なんでしょうね?タラー

「歌ネタは、結局、準優勝でしたけど、僕らにとっては誇りなんです照れ


「吉本に『親指ギュー太郎』っていう芸人が居て…」

「ご存知の方も居るかもしれませんが」
「一の介さんは、彼のことを『親指』って、呼ぶんです」
「みどりさんも、彼のことを『親指』って、呼ぶんです」
「歳を取ると、『親指』って呼びたくなるんですかね?タラー

 

 

その4に続く