というわけで、まずはNY Bar(New York Bar)について、概略と私の経験などについて書いていきます。

 

NY Barとはどういうものか、といったことについては、最近はブログの他にTwitterやNoteなどでも新しい情報が出ているので、深く触れませんが、ごく基本的なことだけ触れておきます。

(なお、NY Barに関するブログ等としては、以下で御紹介するものが有益かと思います。

弁護士の酒井貴徳さんのNote:https://note.mu/t_sakai/n/nb78feb6f5904

弁護士の松田悠希さんのNote:https://note.mu/yuki07161986/n/n006ed3a9eb9a

弁護士の増田雅史さんのBlog:https://masudalaw.wordpress.com/2017/05/20/new-york-bar-exam/

上の二つが、情報としては最新のものかと思います。

カリフォルニア州については、弁護士の田中真人さんのNoteを御参照下さい。

https://note.mu/sumiyosiiti/n/n9c35269be25a

 

I. ニューヨーク州弁護士になるまで

ニューヨーク州で弁護士として登録するまでには、MPRE、NYLE、そしてNY Barの三つの試験に合格し、かつ、50時間のプロボノ要件を充たす必要があります(なお、2019年5月以降にロースクールを卒業する学生には、さらに登録のための要件が追加されるようです。詳細については、こちらで御確認ください。)。

MPREとNYLEについては、そこまで重要ではないので、ここでさらっとだけ触れておきます。

MPREは法曹倫理に関する全米試験で、2時間で60問の四択式試験です。3月、8月、11月の年三回実施されます。どの州の弁護士を目指すかによって合格点は異なります。一般的には「簡単だ」と言われていますが、これは「合格点が低いため、結果的にはあっさりと受かる場合が多い(合格率も非常に高い)」という意味であって、時間制限や問題の中身は決して甘くはないと感じます。私自身、1回で通ったものの、試験勉強は非常に苦労しましたし、私の周りでもげんなりしている人は多かったという印象です。落ちる人も少なからず見かけるので、「簡単だ」という言葉を真に受けない方が良いでしょう。早い人は、渡米してすぐの8月に受けて受かってしまいますが、多数派は11月に受験するようです。

NYLEはニューヨーク州法に関する試験です。3月、6月、9月、12月の年四回実施されます。後述するように、NY Barは全州共通の試験(UBE)を採用しているため、ニューヨーク州法についての知識は問われません。そこで、ニューヨーク州で弁護士として登録する人には、このNYLEという試験を通過することが求められます。受験するに当たっては、まずNYLCというニューヨーク州法に関するオンライン講義を任意のタイミングで全て受講し(講義中に、単元ごとの確認テストもあります)、受講し終わると、NYLEの受験登録ができるようになります(試験日の1か月前までに登録する必要があります。)。試験自体は合格点も高くなく、また講義資料を通読しておけば解けるレベルの問題なので、そこまで難しくはありません。こちらは、渡米後、年が変わって3月に受験する人が多かったように思います。

 

II. NY Bar

ニューヨーク州で弁護士として登録することを目指す人にとって、一番気になるのはこれだと思います。上記のブログ等で既に触れられているところではあるので、あまり深入りはしませんが、簡単に御説明します。

(1) 受験資格

日本人等の「外国人」の場合、まず受験資格があることを確認してもらう必要があります。受験資格についてはときおり変更があるので、詳細はこちらで確認していただければと思いますが、日本で弁護士資格をお持ち方や、法科大学院を卒業された方は問題なく受験できます。法学部卒の方は受験資格確認の結果、「受験資格なし」と返ってくることがありますが、自分が通っているロースクールの学務課などを通じてPetitionを出すと受験資格を認めてもらえる場合が多いようです。非法学部卒の方は、アメリカのLL.M.を卒業しても受験資格は得られないようです。

ちなみに、この受験資格の確認申請に当たっては、学部や大学院の修了証明、弁護士の方であればさらに司法研修所の修了証明などを提出する必要がありますが、これは出国前に済ませておくことを強くお勧めいたします。私はぼんやりしていて渡米後に取り掛かったのですが、日本の大学や大学院からアメリカに修了証明などを送付してもらう場合、大学や大学院は送付用に「国際返信切手券」の同封を求めてくるのですが、どうもアメリカの郵便局は国際返信切手券の取扱いを止めてしまったようです。ですので、渡米後に証明書をかき集めて手続しようとすると、日本の友人や親族にお願いして大学から取り寄せてもらった上で、友人や親族からアメリカに送付してもらうという煩雑な手続が必要になってしまいます。私はこれで非常に苦労しましたので、受験する可能性のある方は、ぜひとも出国前の早い段階に住ませておいてください。

(2) NY Barの中身

ニューヨーク州は、全米統一タイプの司法試験、いわゆる"UBE"を採用しており、このUBEを受験して合格すれば、ニューヨーク州の司法試験に合格したことになります。UBEは、MBE(択一試験)、MEE(論文試験)、MPTの三つの試験からなり、400点満点で、MBEが200点満点、MEEとMPTの二つの筆記試験が合わせて200点満点となっています。MEEとMPTは200点満点中「3:2」の配点になっており、まとめると、400点満点のうち、MBE、MEE、MPTのそれぞれが占める割合は、50%、30%、20%になっているわけです。ニューヨーク州の場合は、このUBEで266点以上を取れば合格となります。
(a) MBE(択一試験)

二日間の試験日程のうち、二日目の午前と午後に実施されます。出題される分野は、憲法(Constitution)、契約法(Conctracts)、民事訴訟法(Civil Procedure)、刑法(Criminal Law)、刑事訴訟法(Criminal Procedure)、証拠法(Evidence)、不法行為法(Tort)、不動産法(Real Property)の8つです。午前の3時間で100問、午後の3時間で100問の合計200問が出題されますが、このうちの25問はいわゆる「ダミー」で採点の対象になりません。したがって、175問中の正解数(Raw Score)に若干の調整を加えつつ、200点満点に換算した点数(Scaled score)がMBEの点数になります。点数の大体のイメージについては、こちらを御参照下さい。

ちなみに、問題冊子と解答用紙(マークシート)には全て番号が振られており、その番号に応じて、問題の順番がバラバラになっているようです。なので、最終的に解かされる問題は(ダミーを除いて)同じですが、正答の並び方は座席に割り当てられた問題冊子によって異なることになり、カンニングができないようになっています。人によって解くペースが違うのは、これに起因するところもあるようです。

上記の配点を見ても分かるように、MBEはNY Barの中でかなりの割合を占めているので、MBEで点数を稼ぐのが基本戦略と考えて良いでしょう。

(b) MEE(論文試験)

二日間の試験日程のうち、一日目の午後に実施されます。出題される分野は、MBEの8科目の他に、Trust(信託法)、Agency&Partnership(代理・組合)、Conflict of Laws(適用法選択の問題)、Corporations(会社法)、Family Law(家族法)、Secured Transactions(担保権)、Wills(相続)が加わります。午後の3時間で6問が出題されます。大体は1問で1科目を扱っていますが、最近は融合問題も多く、大問中の複数の小問でそれぞれ異なる分野を問うパターンがあります。

3時間で6問なので、単純計算で1問につき30分という計算になり(時間配分は自由です。)、問題文を読んで構成して書き終えるという全ての作業を30分で終えるという目安で問題が作られていると考えていいでしょう。ですので、問題文はそこまで長くなく、問われている論点も大体すぐに分かります。おおよその採点のイメージについては、こちらこちら役に立つと思います

ちなみに、MEEと後述のMPTのいずれも、基本的にはパソコンで専用のソフトを使って答案を作成、提出することになります。ソフトの不調については現場にいるスタッフが対応してくれますが、日本のパソコンだと対応しきれない可能性があるので、アメリカで安いノートパソコンを買う人も少なくありません(日本のパソコンで受験する人ももちろんいます。)。私も渡米後、最低限のスペックのものを買いました(あまりスペックが低すぎると、ソフトが対応しないかもしれませんので、そこは要注意です。)。そうすると、日本のパソコンとはキーボードの配置が若干異なるので、試験に向けてタイピングに慣れておくことも、試験対策としてある程度の重要性を持つと考えて良いでしょう。渡米して早い段階でアメリカのパソコンを買っておけば、定期試験で慣れることができるのでオススメです。

(c) MPT

二日間の試験日程のうち、一日目の午前に実施されます。これは、その場で仮想事例の資料(仮想の法令、判例、クライアントとの打ち合わせメモ等)を基に、ボスの指示に従ってメモランダムや契約書を作るという、その場で起案するようなイメージの試験です。3時間で2問が出題されます(時間配分は自由です。)。

(3) 試験地、試験当日の大まかなイメージ

LL.M.の場合は、基本的にニューヨーク州のバッファロー(Buffalo:ナイアガラの滝の近くの街。バッファローウィングという料理の発祥の地です。)にあるバッファロー・ナイアガラコンベンションセンターで受験することになるかと思います。出願手続完了後、1ヶ月ちょっとくらい経つと、メールで受験地選択のウェブサイトへのリンクが送られてくるのですが、どうもJD生(ネイティブ)に優先的に選択させているようで、LL.M.生が選択できるようになる頃には、バッファローとオールバニー(ニューヨーク州州都)しか空きがなく、歴代のLL.M.生はバッファローで受験した人が多いので、バッファローを選ぶことになる、といった感じです。

試験会場のバッファロー・ナイアガラコンベンションセンターのすぐ隣には「ハイアット・リージェンシー・バッファロー」があり、大体の受験生はここに宿泊します。そのため、ここのホテルは受験生対応に慣れており、申し込めば試験当日の昼食(有料)も手配してくれるほか、フロントでお願いすればジップロック入りの鉛筆数本と鉛筆削りを渡してくれるなど、手厚いサービスがあります。受験すると決めている方は、早めに予約しておくことをお勧めします。

試験会場周辺は飲食店などは少なく、またあまり治安も良くないので、食事する場所には予め目星をつけておくか、ホテル内で済ませるのが賢明かと思います。また、数少ない飲食店も閉まる時間が早く、日曜は多くのお店が閉まるので要注意です。2019年2月の時点では、まともなドラッグストアは1店舗のみで、受験生が集中する結果、色々と品薄になっていましたので、必要な物は極力、試験地に入る前に揃えておきましょう。特に、後述のジップロックについてはドラッグストアの店員が「すぐ売り切れる」と呆れながら笑う有様です。

試験当日は、8時に開場になるためそれよりも前から受験生がコンベンションセンター前に並びますが、7月の試験は特に長蛇の列になります。時間に余裕を持って行動するようにしましょう。開場すると、パソコン(一日目のみ)、ジップロック、鉛筆、鉛筆削り、消しゴム、ペン、おやつ、簡単な薬、受験票、身分証明(パスポート等)などの持ち込み可能の物以外は、コンベンションセンター内の荷物スペースに【自己責任で】置くようにと言われるので、出来る限り荷物は少なくしてからホテルを出るようにした方が良いと思います。必要なものを持ったら、セキュリティチェックを受け、手首にリストバンドを付けてもらい、試験会場に入ります。試験会場に入った後は、これと言って特別なことはなく、ただ試験を受けるだけなので、特に説明は要らないかと思います(二日目のマークシートの受験者情報の記入が若干特殊ではありますが、聞けば監督員がちゃんと答えてくれるので、心配はいりません。)。

上記の増田先生のブログにも試験当日のことは書かれていますので、御参照ください。

 

簡単に、と言いつつ長くなってしまったので、一旦ここで切ります。

次は、NY Barの私個人の経験と、それに基づく勉強方法について御紹介いたします。