近代の時代小説を読んでいる中で出てきた著書について、気になっていたので読んでみました。
本書はアメリカが日本と戦う前に、国民性を調査したものです。
まず何が凄いって現地に行かずに調査したこと。
まあ「行かず」というよりは「行けず」が正確な表現です。
対立している国にノコノコ行けたものではないですからね。
ですので、在米日本人からの聞き込みや古い資料等を頼りに調べ上げたと思われます。
現代の日本人の国民性にも名残があると思いました。
少々長いですが下記の通りまとめてみます。
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●日本人の特徴
・恩義
日本人は受けた恩に対して、返済義務感が強すぎる。
(御恩と奉公など…)
恩は過去から蓄積されるものと考えているから債務が膨らんでいくことに人は耐えられない。
特攻していく兵士についても、天皇に対しての無限の感謝を返すべくの行動心理である。
返済義務があるから、他人からの恩はかえって迷惑な場合がある。
(「この恩返済できません」=「済みません」)
・義理と義務
義理は不本意な内容が多く、比較的契約的である。
(義理の父とか…)
裏切ると面目がなくなる。
武士道に近く、義理を返す事が美化されがち。
ただ義務と違って有限であり、しばしば量子化される。
(返礼品は同等程度で…)
義務と両立できないケースが多い。
(主人の仇討ちを幕府に無断でするとか)
・恥
「汚名をすすぐ」といった言葉がある通り、義理を重んじるのは名声を汚さない為。
現代では法が整備されているため復讐ができない場合があり、自分を攻撃しがち。(自殺…)
・人情
日本人は肉体的快楽を肯定する。
例えば結婚(家庭的義務)と恋愛(人情)は別である。
孝行の疲れに人情は慰安を与える。
普段は義務を果たしているのだから、人情という緩みも肯定しようじゃないか。
【まとめ】
上述のとおり、日本人は行動基準が多く、全てを両立できない。
よって日本人はその時々で行動指針を上手く使い分ける。
他国(善悪基準などの傾向にある)から見ると一貫した行動がとれず個人に矛盾を感じる。
両立できないため、追い込まれた場合、最悪死をもって償う。
※
強者とは日本人にとっては義理堅い人間であり、西欧人にとっては個人的幸福者である。
よって個人的成功を日本人は良しと思わない。
(金儲けは汚い?)
恥と罪。恥をかきたくないので定石を選びがちである。
●背景
・長く続いた世襲的階級身分制
武士の子は武士。
長男が家督を継ぐ。
家族でも敬語や礼儀。
天皇が世襲階級のトップ。
立場別でシバリが強く、「●●らしさ」の固定概念の形成が根付いたと考える。
・明治維新により二重統治が終わる。
身分階級の改め、藩の廃止を行い天皇一強の中央政権へ。
ただし個人主義ではなく、あくまでも伝統の階級制をキープ。
将軍でも藩主でもなく、天皇(と閣下)のみを崇拝すれば良いというシンプルな構造。
宗教の自由を認めつつも、国家神道(天皇がトップ)は宗教では無いため、教育方針として成立。
・自己訓練と教育
日本人は「後々のため」といい自己訓練をする。
相互義務なのだから自己犠牲ではないと思い他人に親切する。
自己訓練の末、無我の境地(悟り)に至るのが禅宗。
痛みも寒さも感じない苦行。
答えのない問いを自問自答。
他力でなく自力。
神秘ではなく神秘的。
目指すは落ち着いて事にあたり、取り乱さない心。
無我の境地とは恥の壁すらも無く自由であり、義務感もゼロで行動できる。
日本人の場合、生活曲線の自由度は赤ん坊と老人が最大である。
(老人は恥や外聞に惑わされない)
赤ん坊は、親から将来恥をかかないように立ち回りなんかを教育され自我の抑制を習得する。
中学や軍隊以降のカーストや成績競争に揉まれ、立ち回り方に磨きをかける。
※
日本人の矛盾した行動は両立できない要素に、この「自由気ままな赤ん坊時代の面影」と「自制心を鍛えられた大人な自分」による性格の二元性からくる事がある。
この二つの割合は当然個人差があるが、遊び心、童心なんかは前者が顔を出すのであろう。
●結論「なぜアメリカは日本政府を取り潰さなかったのか」
アメリカは降伏した日本の占領方針を調査した国民性を踏まえ「既存の政府機関を残し利用する」事にした。
忠誠の唯一の対象である天皇の号令こそが正義であり、それに倣って国民も回れ右をし「戦争は終わったのだ。これからは平和な日本国を作っていくのだ」という方針を理解する。
よってアメリカへの反逆心も薄れると考えたのであろう。
また、アメリカにとって一から組織を形成し、運営を始め場合は時間、費用、労力がかかってしまう。
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現代の日本では多様性が認められつつあるとはいえ、昔からの国民性の名残は広く見られます。
「自分こそ日本人の殻を破ってやる!」というのは難しいと思いますが、国民性を理解するだけで、客観的に物事をとらえられ「義務」や「義理」と少し気楽に付き合えるのではないでしょうか?
