先日の体操教室で、静力学と動力学ということについて話した。

 日本では、物理学のなかの力学をひとつの分野のように教えるが、諸外国では2つに分けて教えている。それが静力学と動力学である。

 静力学は、動かないものが対象の力学で、シーソーの右と左に物を置いて釣り合うかどうか。滑車の先に物を吊り下げてその紐を引くときにはどのくらいの力が要るかといったことを計算する。大学に入ると、橋の強度計算や、ビルの強度計算など、様々な構造物の強度計算に使われる。

 動力学とは、動くものについての力学である。等速直線運動は、並行して動いて見ていれば、静止しているものと同等であるため、動力学における「動く」とは加速度運動のことである。動いている物体を扱うために、運動量という概念を用いる。運動量とは、その物体の速度とその物体の質量を掛け合わせたものである。ゆっくり動いていたとしても質量の大きな物体は運動量が大きく、逆に、質量が小さい物は高速で動いていても運動量は小さい。

 日本では銃が規制されているので、次のような知識はあまり一般的ではないが、銃弾はこの運動量によって対象物を破壊するので、なるべく重い銃弾を使った方が威力がある。この運動量(質量と速度を掛けたもの)は、力とその力を加えていた時間との積と等しい。このために、銃弾を発射する際に火薬の生じる圧力が一定であれば、銃身が長く長時間にわたって加速が行われた方が、その銃弾の持つ運動量が大きくなる。

 これが動力学である。この関係性を逆に解くと、質量の大きなものを短時間で加速するには大きな力が必要になることが分かる。人間の体操や体の使い方で言えば、慌てて急ぐと大きな力が身体各部に加わり、関節や筋肉や靭帯などを破損する。僕の体操教室で、ゆっくり動くことを練習するのは、この動力学的作用によって人体各部が損傷するのを防ぐためである。特に、関節の動き難い方向に慌てて動くと関節を痛める。先日の体操教室で、足関節の20度角度の異なる方向への動作をゆっくり練習するのは、こういうことである。この練習で、膝の故障などをかなり防ぐことができる。

 先日の説明ではちょっと舌足らずだったので書いて置く。