妊娠9週目に入り、再び診察を受ける。
トトトト…トトトト…早い動き。
心臓の動きも力強い。
2週間前は、まだ丸にしか見えない赤ちゃんだったのに三頭身になってる!
手足を動かしながらおしりをフリフリ降ってるぅ長音記号1
かわいいぃ長音記号1長音記号1長音記号1ドキドキ

先生も、元気な赤ちゃんですね!と笑顔で答えてくれた。(この産婦人科の先生は、カーテンを開けて顔を見ながら話す…格好が格好だけに恥ずかしいけど、目を見て話してくれるので質問しやすい)

そう言われ安心して病院を出た。
たった2週間で倍の大きさになり、しっかり手足を動かしていた赤ちゃん。。

「頑張って生きてるよ!殺さないで!」

そう、訴えているように見えた。
涙が後から後から溢れてきた。。
私の赤ちゃん…お腹がふわぁ~と温かくなる。。


ごめんね。本当にごめんね。。最低なママだね。
お腹に手を当てながら、何度も何度も謝った。


私は、あれほど酷いことを言われても、まだ潤ちゃんが好きだった。
潤ちゃんと離れたくないと思っていた。
だから…
だから…自分の意志で堕ろすことができないなら、いっそのこと流産してしまえばいいのにと…何度も思った。
流産だったら、潤ちゃんも私も罪悪感なく逢うことができる。

なんて自分勝手なオンナ。

まだ3センチにも満たない赤ちゃんが、私のお腹の中で必死に生きていた。。
完全に吹っ切れた。
もう、後ろは振り向かない。
潤ちゃんのことはすべて忘れて、赤ちゃんと生きていく決心をした。

区役所に行き、保育所の順番待ちをし、妊婦の間は働けないので、資格を取りに学校へ通うことにした。


2010年も目が回るほど、私自身も私の周りの風景も激しく変わっていった。

激しい流れに逆らわないように、大きな悲しみにと言う試練の波が迫る中、私は溺れないよう…前に進むのに精一杯だった。

妊娠3ヶ月に入り、心拍も確認できて一安心した私は、妹にだけ妊娠を打ち明けることにした。
何度か電話で話はするものの、なかなか妊娠したことを話せないでいた。
うちに遊びに来ることになり、面と向かって話すのはやっぱりムリ!と思い、来る前にメールをすることにした。

他愛もない話の後に何行か改行して妊娠を報告した。

ピンポ~ン♪

妹が来た。
…がいつもと変わらず。。
「メール見た?」と聞くと「見たよ??何?」

あれ…もしかして改行しすぎて見てないのかしらガーン

会話の中で話そうとするけど、なかなか話せない。。
結局、話さないまま…
妹は帰ってしまった。。

帰った後、妹にメール。
「昨日のメールスクロールした?」

返信ナシ……………

30分後…

「えぇ~~~っ!!ビックリw(°0°)wおめでとう!!」

私もこの返信にビックリした。。
妹は、私が未婚で産むことは知らないから、結婚すると思ってるに違いないんだけど…
でも、喜んでくれておめでとうって言ってくれた!

誰にも話せず、潤ちゃんとやりあった苦しかった悪夢が、ぱぁ~と吹き飛ばされた気がした。
誰からも言われたことがなかった『おめでとう』の一言にジーンとし、涙が溢れた。

その後、妹はまた訪れ、父親が誰なのかしつこく聞いてきたけど、頑なに黙ってる私に何も聞かなくなった。
「ウブが言いにくいなら、ママたちに私から言ってあげようか?」
すごく協力的!
毎日のように私の家に入り浸り、子供の名前まで考えお腹をさする。。

私の深く傷ついた心と、これから先の不安が薄れていくのを感じた。

あぁ~姉妹がいてよかった!
久しぶりに楽しい穏やかな日々を過ごした。。


でも…やっぱり、罰は待っていた。
赤ちゃんは、私にたくさんの試練を与えた。

私は、また深い悲しみに引き込まれてしまった。

ひどい罵りだった。
潤ちゃんとは良くケンカをしたけど、今思い出しても、心が痛む…正直思い出したくないケンカだった。

仕事が終わって飲みに行った潤ちゃんは、帰りのタクシーから必ず電話をしてくれる。
午前2時過ぎ、潤ちゃんから電話が来た。

「ウブ、産む気持ちに変わりはないの?」

私は、産みたいと…潤ちゃんに反対されても赤ちゃんを産みたいと、伝えていた。

「うん…変わらないよ。前にも言ったけど、潤ちゃんには絶対に迷惑かけないし、子供が大きくなってパパの事聞かれても、お空の星になったって言う。。ウブの両親や姉妹、友達にも潤ちゃんが父親だって話さないよ。」

潤ちゃんは黙って聞いていた。
そして、こう言った。

「そんな子供は絶対に可哀想だよ。幸せになれない。幸せになれないとわかってて子供を産むなんておかしいよ。」

「片親でも、立派に成長して幸せに暮らしている子供はたくさんいるのに…それに、両親揃ってたって幸せじゃない子供だっているよ!」
私が反論すると…

「スタートラインからマイナスなんて絶対に苦労するし、子供もいやな思いをたくさんする。子供ひとり育てるのにどれだけお金がかかるか、どれだけ大変か、ウブはわかってるの?産んでしまったら、大変だからって戻せないんだよ!俺が反対してるからムキなってない?せっかく宿った生命を大切にしたいって言うのはわかるけど、その気持ちだけでは育てられないんだよ!堕ろすのはいやだって言うけど、堕胎するのが怖いから産む選択しかないって思ってるんじゃないの?もう一度もう一度、じっくり考えてもいいんじゃない?ウブが子供を失うことになって心が傷ついても、俺も一緒なんだよ。一生ウブの傍で、失った子供のことを背負って支えていくよ。」

一気に畳み掛けてきた。

確かに、子供を育てるのは想像以上に大変だろう。しかも未婚で…。
でも、お腹の中に宿った生命を殺すことはできない。
堕胎…考えただけでゾッとした。

胸がジンジンと腫れるように大きくなってくる。
そしてめまいのようなつわり。。
お腹に赤ちゃんが居ることや愛しさはまだ感じないけど、自分の身体を守らなきゃいけない…そんな思いは強く感じる。

私は、潤ちゃんが言うように、堕胎することが怖いから赤ちゃんを産もうとしているんだろうか…

潤ちゃんの強い話し方に、自分の気持ちがわからなくなってきた。
そんな迷いを感じとったのか、潤ちゃんはまた私を堕胎させる方向へ引っ張って行く。

「ウブが産むことになったら、もう俺とは逢えないんだよ。関西旅行にも、約束してたディズニーランドもゴルフも海外旅行も…」

潤ちゃんが言ってる、物質的なものよりも、精神的に、今この状況で逢えなくなるのは辛かった。
深く心の奥底に眠っていた不安がムクムク出てきて、これから先を想像できた。
なんでも潤ちゃんに相談してきたのに、一番大変な時に相談できない。。

それに、未婚で父親が誰かも話さず子供を産みたいって言ったら、両親は反対するだろう。
誰にも頼れず産むには、きっと試練が山積み…考えただけで苦しくなる。。


「うん…もう一度考えてみる…」


私は、潤ちゃんにそう答えていた。

「今日はとことん話そう…。家の近くまで行ったら、どこか適当にお店に入るから、ウブ寝ないで待てる?」

潤ちゃんからの連絡を待つ間、カーテンから漏れる青い光を見ながら、赤ちゃんのことを考えてみた。

潤ちゃんの話を聞くと、堕ろした方がいいかもしれない…と気持ちは動くものの、ひとりで考えると、堕ろせない、堕ろしたくない、この世に産まれて来たくて私の下にやってきた生命、一生この子の為に生きていく、全ての人に反対されても命を掛けて育て上げる。
赤ちゃんを守りたい強い気持ちが沸き上がってきて、産むことを決意させる。


3時過ぎ、マックしかお店が開いてなかったらしく、ガヤガヤした雑音と潤ちゃんの声が携帯から聞こえた。

「潤ちゃん…ウブ考えたんだけどね…やっぱり産む。。」

「えっ!?なんで?さっきは堕ろす方に話が向いてたよね??」

「潤ちゃんと話すと、潤ちゃんに引っ張られるからだよ…ひとりで考えるとやっぱり産みたい。。大好きな潤ちゃんの子供だし…」

すると、潤ちゃんは声を荒げて怒りだした。

「あぁ~もうヤダ!ウブに考える時間与えなきゃよかった!あのまま話して、堕ろすこと説得すればよかった!そうだよ!俺の子なんだよ!だから産んでほしくないんだよ!ウブが産んだら、俺の家族がメチャクチャになっちゃうんだよ!」

「…なんで?…なんで潤ちゃんの家族がメチャクチャになっちゃうの?ウブは、産んだら潤ちゃんの前から姿を消して、恭一朗にも連絡取らないし、潤ちゃんのこと誰にも話さないんだよ?」

涙が溢れてきた。。
潤ちゃんの声が怖かったのもあったけど、私と潤ちゃんの赤ちゃんより、潤ちゃんの家族がこれほど大切でこんなにも怒ってることがショックだった。。

そう思ったら、どんどんその気持ちが膨らんできて、話すことができないくらいの嗚咽に変わっていった。。

潤ちゃんは、私より…私との赤ちゃんより家族が大事なんだ。。。
心の奥で、やっぱりね。。
そう小さくつぶやいた。。

嗚咽にむせぶ私に構わず、潤ちゃんは激しくまくしたてた。
「子供が大きくなって、俺のことを調べたら?俺の子供にわかったら?ものすごく傷つくよ!奥さんは絶対に許してくれないから離婚になる。ウブは俺の家族をメチャクチャにするんだね。」

「そんな風にならないよぉ~…。なんで潤ちゃんは悪い方悪い方へ考えるの?悪いことばかり考えちゃうと本当にそうなっちゃうよぉ。心で思って頭で考えたことは、実現するんだよ。だからウブはいいことしか考えない!!潤ちゃんの家族には絶対に迷惑掛けないから…信じてください。」

お腹の中心が熱くなってきて、潤ちゃんに怒りが湧いてきた。
自分勝手な考え…
私のこと、赤ちゃんのことより、自分の環境を守りたいんだ。。


今現在、この記事を書きながら考えると、お互いに自分のことしか考えていなかったのかもしれない。


私は嗚咽をこらえ、締め付ける喉の奥から声を絞りだし、潤ちゃんに反論した。否、反撃した。
潤ちゃんの酷い言葉にもめげず、必死に産みたいと訴えた結果、潤ちゃんが根負けする形となった。

産むにあたって、潤ちゃんが誓約書を書いてくれと言うので承諾した。

簡単に書くとこんな内容…
子供の父親のことは誰にも話さない。潤ちゃんの家族に関わらない。今後、潤ちゃんに一切連絡をしない。金銭を要求しない。責任を持って子供をしっかり育てる。等…
潤ちゃんから送信された誓約書の内容を、そのまま便箋に書き写して押印して郵送した。

潤ちゃんから、誓約書が到着しましたと、こんな文と一緒にメールが届いた。

「連絡を取らなくなっても、自分の知らないところで自分の子供が生きていること、そのことが家族にわかってしまう恐れがあることの苦しみは変わりません。
ですが、ウブは元気な子供を産んで幸せになってください。そう願っています。」

私が子供を産むことで、潤ちゃんが一生苦しんで生きていくと思ったら、心が痛く切なくなった。

いつの間にか年が変わって、2010年…私は今までとは全く違った人生を歩みだしていた。

潤ちゃんに妊娠したとメールした。

電話での報告は、反応がすぐにわかるから怖かった。。


「本当に妊娠したの??ウブどうするの?」


返事はすぐにきたけど、潤ちゃんも電話で話すのが怖いのか、いつもなら電話をくれるのにメールだった。


「今日病院行ってきたよ。5週目だって。。。」


「そっか・・・。仕事終わったら電話するから、そのときに話そう。」


困ってるには違いないと思ったけど、メールからは潤ちゃんの反応は読み取れなかった。



10時過ぎ・・家に帰る車の中から潤ちゃんが電話をくれた。


「ウブ・・どうするの?」


潤ちゃんの子供でもあるのに、まるで・・人事みたいな言い方だった。


「・・・わからない。。どうしていいかわからない。」


本当は産みたいのに、潤ちゃんの冷たい反応が言葉を飲み込ませた。


長い沈黙の後、私は潤ちゃんは産んでほしくないと思っていることを感じてしまい、心が押しつぶれそうになった。

このままだと泣いてしまいそうだったので

「少し考えてみる。。。」

と言って電話を切った。


誰にも相談できない。。。

ひとりでこの子を守っていけるのだろうか。。。

どうして潤ちゃんはあんなに冷たいのだろう。。。


ものすごい孤独感に襲われた。。

怖くて不安で苦しくて・・・これでもかというくらい泣いた。

泣くときの力を借りないと、生きる元気がなくなってしまうと思った。


私の赤ちゃん・・・

子供は親を選んで生まれてくるなんて言うけど・・

なんでこんな私の元へやってきたの?


でも、今思えば、この赤ちゃんのお陰で今の私がいるんだ。

今現在、私は幸せだ。

赤ちゃんが私を選んでくれたから、人生の選択を間違えていることに気づかせてくれた。


人生、楽しいことも苦しいこともすべて意味がある。

私は、毎日起こるひとつひとつの出来事を大事に噛み締めて生きている。




体調が悪い。。。

常に熱っぽくて、だるい。。。

かれこれ2週間続いていた。


お酒を飲み過ぎてるし、抵抗力が弱くなって風邪でも引いたかなぁ。。

そんな風に思っていた。


でも、心の隅っこで心配していることがあった。

そう・・・めずらしく生理が1週間遅れていた。


「まさかね・・・」


生理が遅れて妊娠検査薬をしようと薬局で買うと、生理がくる。。。

またこのパターンかな。。

そう思っていたけど、なんかいつもと調子が違うような気がしていた。


金曜日の夜、酔った勢いで検査薬を試した。

反応はなかった。

「な~んだ。。やっぱりね・・・」


ほっとしてるけど、残念と思っている私もいた。

「潤ちゃんの子供・・ほしかったな。。。」

そう思っていた。


検査薬を捨てる前にもう一度見ると・・・

「あれ??」

うっすら陽性反応が出ていた。

検査薬の説明書には、薄い反応は陰性と書いてあったし、時間が経ってからの判断はやめてくださいとあったから子供ができているとは思わなかった。


でも、私のお腹の中には潤ちゃんの子供がいた。

小さな命が芽生えていた。。。


胸の張りが益々増してくる。

私は産婦人科へ行った。


「おめでたですね・・おめでとうございます」

その言葉を先生から聞いたとき、私は正直嬉しかった。


潤ちゃんに言ったら・・・どんな反応が返ってくるんだろう。。。

このときは、潤ちゃんなら産んでいいって言ってくれると思っていた。。。



だけど・・・潤ちゃんの家族への愛がこれほど強いとは・・・

結婚て・・・家族の絆って・・・

やっぱり私は、ただの愛人でしかなかったんだ。。。


潤ちゃんの冷たい言葉を聞くまでは、私と潤ちゃんとの赤ちゃんがお腹にいると思っただけで私は幸せだった。。。