ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ボーダーライン』は、表向きは麻薬カルテルを追う捜査映画だが、実際には「戦争映画」としての側面が強い。FBI捜査官ケイトが特別部隊に加わり、アメリカとメキシコの国境を越えていく過程は、観客にとっても「正義と無法の境界線」を体感させる仕掛けになっている。

印象的なのは、メキシコでの人質引き渡しシーン。黒いSUVが鎖のように連なり、橋に吊るされた死体を横目に進む車列は、派手さよりも緊張感で観客を圧倒する。ここでケイトが「自分の知っているルールが通用しない世界」に足を踏み入れたことがはっきりと示される。

映像と音楽の演出も特徴的だ。ロジャー・ディーキンスのカメラは、砂漠の乾いた風景から夕陽に染まる山並み、夜視スコープのざらついた緑へと滑らかに移行し、観客を現場に引き込む。ヨハン・ヨハンソンの低音のスコアは、まるで心拍をコントロールするかのように緊張を高めていく。

キャラクターの対比も鮮明だ。ケイトは「法と正義」を信じる存在だが、次第に利用され、無力さを突きつけられる。一方、アレハンドロは復讐のために人間性を捨てた冷酷な殺し屋として描かれ、彼の行動は恐ろしいのに「理解できてしまう」危うさを孕んでいる。

また、並行して描かれるメキシコ警官の家庭は、暴力の連鎖に巻き込まれる「沈黙する大多数」を象徴している。最後にサッカーを続ける子どもたちの姿は、日常と非日常が同居する現実の重さを静かに伝えていた。

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