僕は店長経験がある。
入社して2ヶ月で、大阪にある約200坪のツタヤの店長をやるように言われた。
アルバイトは20名いた。
何も知らないド新人に店を任すなんて、ある意味無謀。あの頃、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(ツタヤのフランチャイズ本部)が株式上場前で、新人教育システムが出来ていなかったのか、ただ単に放任主義だったのか、とにかく今では考えられないことだと思う。
ちなみにこのとき、僕と同じくいきなり店長をやるように言われた同期が数名いる。彼らは今では、会社の執行役員や支社長や室長など、とにかく現在のカルチュアを支えるほどの出世している。
僕はこの会社で映像製作がやりたいから入社した。
同じく店長をやることになった同期も同じような理由だった。でも、お店に行かされた。本当に僕たちは何も知らなかった。
損益分岐って何? 在庫ってどう管理するの? CDってどう発注するの? お金があわないんだけど、どうしたらいいの? 赤字が出てるんだけど、どうするの? 店長、中学生に商品を盗まれています! 店長、お客さんにストーカーされているんですけど、どうしたらいいんですか? などなど毎日毎日がトラブル続きだった。
でも一番大変だったのは、20名近くのアルバイトさんを仕切ることだった。
店長がダメなお店は、ツタヤに限ったことでなく、どの店でもすぐに分かる。
とにかく仕事中にアルバイトの無駄話が多い店だ。
こういった店は大抵、店長がアルバイトに舐められている。
僕はこのアルバイト20名にどう接するかで苦労した。
男同士は楽だった。飯食って、酒を飲んで、腹割ってしゃべれば、「店長、ド新人だけど、協力して盛り上げていこう」的な雰囲気が出来るからだ。
ただ、女性が厄介だった。
どちらかというと、女友達が多い僕はなんとか男性と同じように接しようと試みた。
そんなあるとき、古株の生意気なアルバイトの女の子にこう言われた。「店長は人当たりええけど、私は店長のそういうとこが嫌いや。ていうか気に入っている子とそうでない子に対しての接し方、あきらかに違うで。私には無理してるんが見え見えや」
「なら辞めろ。お前な、面倒な仕事をおとなしいアルバイトの子に押し付けてるんが、気にいらんのや。俺がアルバイト面接してたら、お前なんかとってないわ」と、よっぽど口に出かかったが、耐えた。
ただ一言、「僕は**さんのこと認めてるで。生意気やなと思うことはあるけど、やることやるし、仕事できるからな。あとはリーダーとしての責任感が欲しいところやな」とニッコリ笑った。
そう言われると彼女が黙り込んだ。
とにかく、本当に大変だった。
その後、アルバイト面接を幾度となくやったけど、重視したのは人だった。
今から思うと社会経験は僕にとって大事なことだった。脚本家人生でも、糧になっている部分は大きいと思う。
今年の夏で、会社を辞めて10年になる。僕も脚本家になり、同期は会社でバリバリ働いている。そして会社に残った同期と僕の収入には、大きな開きも出来た。
え、どっちが大きいかって?
それは……
一応、内緒というこで……。