僕は人生で二度、ラブレターの代筆をしたことがある。
一度目は高校生のとき、二度目は社会人になってから。とにかく一度目の高校生のときの代筆は忘れられない。
僕は女友達の頼みで、男に向けてラブレターを代筆したのだ。
代筆することになった経緯は、「ハマちゃん、そういうの得意そうだから、一度書いてみてよ」といったいい加減なものだったと思う。
女性に向けてのラブレターの代筆ならともかく、男に向けて書くなんてどうしたらいいのか。
僕は手紙に向かった。
「……書けない……」
彼女が好意をもつその男性のことを僕はよく知らなかった。翌日、彼女から彼の魅力を延々聞くというリサーチした。そして校庭で野球に勤しむその彼を僕は観察した。さらに本屋にいって、銀色夏生さんの詩集を読みまくってから、手紙に向かった。
内容はよく覚えていないが、『……放課後、野球部の練習の音が聞こえてくると、いつもあなたのことを想う……』といった、おそろしく寒いものを書いたように思う。
とにかく、女友達の気持ちになり、手紙を書こうと努力した。
これって、今から考えると、脚本と同じようなことなのかもしれない。
リサーチを重ねて、キャラクターの気持ちになって、考える……。
そうして苦心の末に書上げたラブレターを女友達に見せてみた。
彼女からのいくつかのダメ出しがあった。まるで脚本の直しのように何稿か重ねて、ようやくOKがでた。そして彼女は代筆したラブレターを彼に渡した。
普通、ラブレターは靴箱とかに入れるものだと思うけど、彼女は何を思ったか、「あの、私、前から**さんのこと好きなんです、これ読んでください」と直接、手渡した。
しかも彼はラブレターを読まずに「あ、僕も前から……」とその場でOKの返事を出してしまった。
僕が苦心して書いたラブレターは何の意味もなさかった……。
青春の苦い思い出だ。