　さて読書中の夏目漱石の「坑夫」は、およそ中盤以降に差し掛かっている。

　実は中盤以降になっても、まだ新入社員の態で先輩坑夫に銅の採掘場を案内されている場面が延々と続いている。

　これには主人公の「自分」の回想が細やかなのが起因しているのだが、さすが文豪、滑稽さを織り交ぜ読者をまったく飽きさせない。

　「自分」は「シキ」という銅採掘の隧道を延々と連れられて行くのであるが、これがまた「ドラクエ」のダンジョン探索のようで、細やかな解説が一層面白い。

　ただし、隧道を廻る新人の「自分」を見る周囲の目は決して歓待の意を表していない。

　「お願いしますね!」「頑張って下さい」などの言葉はさもあらず、どちらかというと「こんなとこに来ても儲からねぇぞ」といったようなの罵声の方が先立っている。

　そんな新人の「自分」は、坑夫の先輩が促すまま先へ先へと歩を進め、とある深い穴ボコの空いた室へと行き当たる。

　そして、先輩作業員にけしかけられながら、カンテラ片手に恐る恐る踏板を前へ前へと進み、先の見えない真っ暗な鉱物袋の落し穴を覗くのである。

　惜しげもなく、重い鉱物袋を穴へ放り投げる先輩作業員を横目に、呆気に取られる「自分」の返事は「そうなんですか。」の一辺倒。

　その「自分」の初々しい姿に、嘗ての新入社員時代や職場異動の時にだけ感じるあの独特の緊張感を感じる読者もきっと少なくない筈である。

　これはこの小説のある一部分を自分なりにクローズアップしたものに過ぎないが、小説「坑夫」は時代こそ異なれど、まるで「自分」が自分のように身近に感じさせてくれる妙がある。

　いや、つくづく分かりやすい文章を組み立てるのは難しい。

まだまだ私の文は支離滅裂で、何も満足できるところはない。

　時々他のSNSで、自意識の塊で結局言いたいことが読み取れない文章を目にかけることがある。

そうなると、読み手側が恥ずかしさを感じたりするもので、嘗てそうであった自分も気をつけないとと思ったりもする。

「自分」、穴の先を恐る恐る覗いてみる