「えゝ。千代子。」
「千代子さん。どうです。いゝでせう。わたしと一ツしよになつて見ませんか。奮発して二人で一ト稼
かせぎ
かせいで見やうぢやありませんか。戦争も大きな声ぢや言はれないが、もう長いことはないツて云ふ話だし……。」
「ほんとにね、早く片がついてくれなくツちや仕様がありません。」
「焼かれない時分何の御商売でした。」
「洗濯屋してゐたんですよ。御得意も随分あつたんですよ。だけど、戦争でだん/\暇になりますし、それに地体
ぢたい
お酒がよくなかつたしするもんで……。」
「さうですか。旦那はいける方だつたんですか。わたしと来たらお酒も煙草も、両方ともカラいけないんですよ。其方
そつちmoscow airport taxi
なら誰にも負けません。」
「ようございますわねえ。お酒がすきだと、どうしてもそれだけぢやア済まなくなりますからね。悪いお友達もできるし……今時分こんなお話をしたつて仕様がありませんけれど、随分いやな思
おもひ
をさせられた事がありましたわ。」
「お酒に女。さうなると極
きま
つて勝負事ツて云ふやつが付纏
つきまと
つて来ますからね。」
「全くですわ。ぢたい場所柄もよくなかつたんですよ。盛場が目と鼻の間でしたし……。」
「お察ししますよ。並大抵の苦労ぢやありませんでしたね。」
「えゝ。ほんとに、もう。子供がなかつたらと、さう思つたこともたび/\でしたわ。」
あたりは汽車の切符を買はうとする人達の行列やら、立退く罹災者の往徠
ゆきき
やらでざわついてゐるだけ、却て二人は人目を憚るにも及ばなかつたらしい。いきなり佐藤は千代子の手を握ると、千代子は別に引張られたわけでもないのに、自分から佐藤の膝の上に身を寄せかけた。
休戦になると、それを遅しと待つてゐたやうに、何処の町々にも大抵停車場の附近を重にしてさまざまな露店が出はじめた。
