いつかの想い出。
長島町に行く途中に立ち寄る薩摩川内市の西方海岸には人形岩があります。
今まで知らなかったのですが,少し悲しい物語があるのだとか。
遥か昔の話です。
島の洞穴に働き者の若い夫婦が可愛い赤ん坊と一緒に住んでいました。
若い男はいつものように,丸木舟を操りながら漁をしておりました。ところが,天候が変わり,一瞬のうちに小舟は転覆し,男は水中深く沈んでしまいました。
若い母親は赤ん坊を抱きかかえ,じっと座ったまま夫の無事を祈りつづけましたが,そのまま息絶えてしまいました。
それを不憫に思った海底の守り神は,乳飲み子を抱いた母親が座っているような形の岩を造りました。また,海の底に沈んだ若い男も小舟と共に岩の塊に変えました。
長い時が流れ,浸食の果てに崩れた洞穴の近くに,乳飲み子を抱いた母親の形の岩が現れました。
いつの頃からか定かではありませんが,人々はその岩を「人形岩」と呼ぶようになりました。
夕焼けの美しい引潮の時刻には,人形岩に会いに小舟に乗った人の形に似た岩が海底から現れて,親子水入らずで語り合う光景を見られるかも知れません。