今回、非常に難しいテーマを取り上げたいと考えます。実際にご相談頂くもののなかでは、最も回答に苦しむものであり、また明確な線引きといいますか、これこれこうならばこうです、と言えない部分の多い内容ともなります。

 

 

 

ただ、今回、私自身の勉強にもなることを兼ねて、いったんこのテーマについて自分なりの知識を整理しつつ、色々と調べたうえでこの記事を書くことにしました。

 

 

今回のテーマは、よく問題になることも多く、割と最近もこのテーマについて語られるものを見受けることがありました。ただ、法的にもあいまいな部分が多く、それ故に現在でも明確な回答が出しづらいテーマでもあります。

 

 

タレント等が労働者なのか、事業者なのかで最も違いが出るのは、そのタレント等が芸能活動を行うにあたって、労働基準法が適用されるのかそうでないのか、といった部分です。労働者とみなされれば、当然労働基準法が適用されることになりますが、労働者ではなく事業者(個人事業主)とみなされれば、労働基準法は原則としては適用されないことになります。

 

 

労働基準法が適用されれば、18歳未満の者は午後10時以降のいわゆる深夜労働が禁止されますし、義務教育が終わる前の者については、「映画の製作や演劇の事業」において(いわゆる子役タレントですね)、労働基準監督署の許可を受けることで就労させることができるというようになるわけです。但し、労働基準監督署の許可を受けても、基本的には午後8時までしか就労できず、厚生労働大臣の個別の認定を受けても午後9時までしか就労できない形となります。

 

 

労働者とみなされるかどうかが、18歳未満のタレント等の深夜労働に大きな影響を与えるわけです。この18歳未満のタレント等の深夜労働については、それだけで一つのテーマになりますので、これはまた別に書きたいと思います。

 

 

 

 


 

 

 

【タレント等は労働者なのでしょうか、事業者なのでしょうか】

 

 

結論を先に申し上げますと、これまでの事例を見る限りでは、ケースバイケースとなっております。

 

 

 

この問題のリーディングケース(先駆けとなった事例)は、いわゆる光GENJI通達です。光GENJIとは、1980年代から90年代にかけてとても人気のあったアイドルグループで、ジャニーズ事務所に所属しておりました。SMAPの先輩アイドルグループという位置づけではありますが、今日のジャニーズ系アイドルグループの基礎となったといえる程とても人気のあるグループでした。

 

 

その光GENJIが、1988年において、グループメンバーに14歳の者がいるにもかかわらず、午後8時以降の生放送番組にメンバー全員で出演したことがありました(ザ・ベストテンや歌のトップテン)。午後8時以降については、上記のとおり、15歳未満の労働者は就労できないわけです。

 

 

午後8時以降の生放送番組については、メンバー全員で出演したりしなかったりだったようなので、法的にグレーゾーンであることは事務所側も認識していたのでしょうが、実際に午後8時以降に出演したことがあったため、労働基準監督署が1988年6月にジャニーズ事務所に調査に入りました。

 

 

そこで労働基準監督署は、報酬面や、税法上の取り扱い、事業所得として課税されていること等を考慮して、光GENJIのメンバーを労働者ではないとみなしたのです。労働者ではないとしたら、事業者(個人事業主)ですね。

 

 

 

その上で、労働基準監督署は、いわゆる芸能タレント通達と呼ばれる通達(1988年7月30日基収355号)を公表し、次のいずれも満たす者は労働者ではないという基準を出しました。

 

 

1 当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。

2 当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。

3 リハーサル、出演時間等の関係から時間が制約されることはあっても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。

4 契約形態が雇用契約ではないこと。

 
 

これらに全て該当するのであれば、その者は労働者としては取り扱わないということです。そして少なくとも光GENJIのメンバーは当時これらに全て該当すると判断されたからこそ、労働基準監督署は労働者とはみなさなかったのだと考えます。そして実際に光GENJIは、午後8時以降のテレビ番組にもメンバー全員で出演する機会が増えるようになったわけです。

 

 

上記のように、タレント等が労働者なのか事業者なのかについて、一応基準はだされたものの、これらすべてに該当するのかどうかはタレント等個別にみていかなければならず、その判断が難しいところではあると考えます。特に「当人の提供する歌唱、演技等が他人によって代替できず」というのは、抽象的でややもすると判断する人間の主観的な判断に左右される部分もありそうではあります。

 

 

 

そうした中、1999年に労働者に該当すると判断されたタレント等がその後出てきました。その話は次回に続きます。

 

 

 

 

専属マネジメント契約書の作成、チェック、修正、ひな形提供その他のご相談については、当事務所(藤枝法務事務所)ウェブサイトの専属マネジメント契約書のページをご覧頂ければと思います。