小学二年生の給食時間、その日は毎週水曜日に訪れるパンの日でした。
パンの日は大嫌いでした。なぜかってそれは、給食に出る食パンのパンの耳がパッサパサのモッサモサだからです。
毎週揚げパンだったらどれだけ良かったことかと水曜日が訪れるたび思っていました。
「手を合わせてください、ごちそうさまでした。」
その号令とともに、みんな一斉に片付けを始めて校庭へと駆け出していきました。
僕は、いつも通り教室に残りパンの耳をひたすらに咀嚼しています。給食居残り仲間のなつこちゃんも早々に食べ終わり、とんでもないスピードで廊下を走り去っていきました。教室には、僕と先生の二人だけです。
窓の外を見ると、みんなサッカーして遊んでいます。当時は、1秒でも多くみんなと遊んでいたかったのです。
早く校庭に行きたい、早く食べなきゃという焦燥に駆られて頭の中ぐちゃぐちゃでどうにかなりそうでした。過去に、デザートのプルーンで居残った際に焦燥に駆られて鼻血を出しながらプルーンをかじっていた経験があります。
なんでパンの耳はこうも喉に通らないのか…
その時、先生が立ち上がり教室を出ました。僕はチャンスだと思いました。
そして決意しました。”パンの耳をゴミ箱に捨てよう”
いや待てよ、これ見つかったら絶対速攻でバレんじゃん。
ティッシュに包むことも考えました。でも、いつ先生が帰ってくるかわからない。
そこで目に入ったのが、絵具箱でした。
みんな、統一された絵具箱でケースで覆われている中、ひとつ変わった形で剥き出しの絵具箱がありました。多分、兄弟のお下がりかなにかでしょう。なにを血迷ったのか、とっさにそこに放り込みました。
そこには、見つかったらどうしようという焦りや罪悪感などは微塵もなく、謎に達成感を得てすっきりした顔で校庭へ走っていきました。その後そのことはすっかり忘れていました。
次の日の美術の時間になり、
「先生、私の絵具箱にパンの耳が入っています」
僕は、硬直しました。
クラス内が一気に鎮まり、先生が犯人探しを始めました。
「やった人は正直に手をあげなさい」
心臓バックバクで冷や汗だっらだらの僕に、給食居残り仲間のなつこちゃんはこう言いました。
「ちょもらんま君だと思います」
僕は自分がやったことを素直に言いました。
当時は、些細なことでも大罪を犯してしまったように感じていました。
いい思い出です。