枕元の母が僕の顔に耳を近づけている。


 激しい痛みの中で何か話そうとするが、
僕の喉はヒューヒューと風が通り過ぎるだけだ。


 (これでいい。分かっていたよ。初めから決まっていたことなんだ。)


 「親より先に死ぬなんて親不孝ものが!」


 母が泣きながら僕を揺さぶる。
用意されていた台詞に少し感動してみる。

 笑ってみせたいが、ままならない。
口を歪めるのが精一杯だ。

 母が何かに気付いて、バッグの中を覗き込む。
ペンと手帳だ。


 「言いたいことがあるのでしょう?書ける?書きなさい。」


 僕は母に握らされたペンで、最期の言葉を書いた。



 イ
 タ
 イ

 シ
 ニ
 タ
 ク
 ナ
 イ


 (格好悪いな。)


 と、思ったところで、
僕は、死んだ。


 予想どおり、誰のことも思い出さなかった。

 後の祭りさ。