覚醒①
ある日のこと。
わたしが学校の実習で、ある他の教師に意を唱えたことが問題になり、その次の日の講座に複雑な気持ちで参加をした。
わたしはただの一生徒で、わたしの立場で教師に意を唱えるなど、ふつうとてもできないことだったと思う。
だけどわたしには、このことは講座や関係者にとって必然で起こったことで、わたしとその問題があった教師との、何か個人的な繋がりが原因で起きたわけではないと思っていた。
だけど、周りの人達は、それぞれの立場や保身を考えて、起こった問題やわたしの話をまともに聞いてくれる人はいなかった。
自分の本意が伝わらないことも、その起こった問題そのものや様々な周りの反応も、私にはショックで、とても傷ついていた。
だけどその日、先生の講座の授業中に、その渦中の問題のことを考えて俯いていたわたしが、ふと顔を上げると、
ずっと俯いていたわたしを、教壇から見つめていたであろう先生のその目と、わたしの目が、
”バチッ!” っと音を立てるようにして、合ったのだ。
その瞬間先生が、 "全てをわかっている" ということがわかった。
ほんとうに驚いた。
前日に、わたしがその他の教師と問題を起こした場面を、まるで先生がその場に居て、一部始終を見ていたかのような目で、わたしを見つめていたのだ。
そして先生は、その時のわたしの気持ちに完全に共感しているような、とても優しい、慈悲深い眼差しをしていた。
私は、泣きそうになるのと同時に、その目に胸を射抜かれたような強い衝撃を感じた。
だけど次の瞬間、先生は黒板に向き直り、授業が始まった。先生は何事もなかったように、いつものように落ち着いた様子だった。
先生と目が合っていたのは、ほんとうに一瞬の出来事だった。
そして、その授業の代議を話す先生の言葉の端々に、そのわたしの渦中の問題について、先生がわたしのことを庇ってくれるようなフレーズを織り交ぜてくれていたのだ。
わたしは俯いたまま先生のその言葉を聞き、嬉しくなって
「先生、好きー!」、、 と、心の中でつぶやいた。
するとまたその瞬間、黒板に何かを書きながらお話をしていた先生が、思わずぷっと、吹き出すように笑ったのだ。
え…?、、、、 もしかして、わたしの心の声が、聞こえてる…??
またしても、驚いた。。
もともと先生には、日頃からすべて見透かされているような感じがしていたし、いろいろなことがわかってしまう方なのだろう、とは思っていたけど、
先生の霊能力が、まさかこんなにすごいとは思っていなかった。
だけど考えてみたら、精神世界に精通しているお仕事をしていて、その専門家である先生なのだから、こういう能力があって当然だし、
わたしは特別な霊能力を持った人たちに、30歳前後から出会い、親しくなることも多かったし、その講座に通う前も、様々な精神世界やスピリチュアルなコミュニティにも関わっていた。
だからそういう人たちには慣れていて、やはりそういう人と出会うご縁が自分にはあるのだろう、とか、先生のような特別なお役目のある立場の人なら、強い霊能力を使えるのも当然のことだ、と思った。
ただ、先生と目が合った時のあの強烈な感覚が、わたしにはあまりにも衝撃的で、その時のことをどう捉えて良いのかわからなかった。
あの瞬間、先生とわたしが二人だけの世界になり、お互いのハイヤーセルフが繋がったような、先生とまるで一つになったような感覚がしたのだ。
あの瞬間、"全ての合意のもとに、今ここでこうして出会い、自分たちがこの現実を起こしている”
ということを自覚したような感覚がした。
そして先生もあの時、私と同じことを理解したのではないかと思った。
よく知らない誰かと、こんなふうに一瞬目が合ってそんな風に感じたのは、初めてのことだった。
先生とわたしは、何か深い繋がりがあるのだろうか…? と、一瞬頭をよぎった。
いや、そんなことはない、これは先生が特別な立場の人だから、講座の中で問題が起きて、わたしに助け舟を出す必要があったためだろう。お立場的に、きっと他のいろいろな人たちとも似たようなことはよくあるのではないか。
と、すぐに考え直した。
それ以前から、先生が他の生徒さんとテレパシーでコミュニケーションをとっている様子も見かけたことがあったし、先生と親しそうに話をしている生徒さんたちもたくさんいたし、
だけど、わたしと先生はそれまで一度も二人で話したことさえなかったのだ。
わたしが、特別であるはずがない。
だけど実際は、わたしはあの瞬間、雷に打たれたように先生に恋に落ちてしまったのだった。
だけどその体験が初めてのことで、またあまりにも突発的で、非日常的で、また自分にとって恋愛対象としてはあり得ない相手であったため、それが恋なのか何なのかもわからず、ただ混乱していたのだと思う。
それまで誰かを好きになったり、この人とは特別なご縁があると感じた時とは全く違っていた。
ただ、自分の中の深いところでは、それが真実の愛だと伝えてくれている声がしていた。
それがきっと愛だということは、わたしにもわかっていた。
だけど、それを今の現実、社会一般的に、私と先生の関係性で、どういう種類の愛だと受け取れば良いのか、その時のわたしには見当がつかなかった。
だから、先生に感じるこの気持ちは、一体なんなのだろう?というところで、思考が止まってしまったのだ。
そして先生の方も私に対して、単に一生徒に対する先生としての、一人の人間としての愛情ゆえだったのだろう。
そして私はそこで自分を納得させたのだった。
ただあの時に、先生がわたしを理解してくれて認めてくれたように感じ、自分が救われたような気持ちだった。
誰にも理解されなかった自分を、この人はわかってくれる。
その喜びと安堵と幸福感に、満たされていた。
私にはそれだけでも十分なことで、自分の人生が大きく変わった感覚がしていた。
そして、先生がわたしを理解してくれるのなら、この講座でまだ頑張れる、と、前向きな気持ちになっていたのだ。
続く。