【はじまりは、ecstasy?】
第一印象は、とんでもない美形、だった。
ミルクティみたいな色素の薄い髪、
色白の肌に、整った顔立ち。
整った、なんてもんじゃない。
男女かまわずすれ違ったものは
思わず立ち止まって見とれてしまう、
なんて尋常じゃない。
入学後すぐに彼は学園で知らぬ者はいないほどの
人気者となった。
そんな彼の右隣。
神様が何を考えているのかさっぱりわからないが
私はクラスの、いや全校女子の羨望のまなざしを
一身に受けることとなった。
とはいえ、ぶっちゃけ部活命、女子力は皆無に等しい
私に女子は構わないようだ。
むしろ白石君の隣が私でよかったとまで言われる始末だ。
おい、それはいくらなんでも失礼じゃないか。
もし白石君が芋女がタイプだったらどうするんだ。
まあそれはないか。
見た目通りさわやかで人当たりの良い彼は
いい隣人だった。
苦手な数学であてられたらこっそり助けてくれるし
日直の仕事もサボらず真面目にこなす。
いわゆる普通のクラスメート。
どうやら運動部で頭の固い私は真面目な子、と彼の目に映ったようで
席が離れてからもそれなりに仲が良かった。
というか白石君が何かと声をかけてくれる。
そうこうしているうちに夏休みが始まるころには
すっかり彼の友達の謙也とも仲良くなっていた。
彼は部活でも早い時期から頭角を現していて
学年性別の関係なく好意を集めている。
よくできた優等生かと思いきや忍足君と
はしゃいだりして意外と年相応な面もあったり。
第一印象から比べてだいぶ私の彼への印象は変わった。
気配り上手で案外いたずら好き。
飄々としているように見えて非常に真面目な努力家。
ある日私は部活後にテニスコートで白石を見かけた。
とっくに練習は終わって他に誰もいないのに、
ひとりで何本も何本もサーブを打ち続ける彼の姿を。
ああでもないこうでもないと呟きながら、
フォームを直して打ち続ける彼のすがたを。
汗だくで、よろよろしながら打ち続ける彼からは
恐ろしいほどの気迫が漂っていた。
おもわずぶるりと身震いすれば、全身に鳥肌。
すごい。
ただその一言だった。
目が離せない。
ふと彼の口癖を思い出した。
「無駄をなくして、基本に忠実に」
これはスポーツの基本だ。
ああ、彼は今無駄をそぎ落として、基本に忠実に、
理想のテニスに近づけているのか。
中段に構えるときの心境に似ている。
心を落ち着かせ、重心を腰に。
ブレず、曲がらず、剣先を相手にまっすぐ向け、はずさない。
これが剣道の基本。
常に中心をはずさず、心を乱さず、基本に忠実に。
正しく、美しく。
無駄のない構えは、美しくまた強かった。
そして目の前でラケットを振る彼もまた美しかった。
日を重ねるたびに彼の構えはきれいになっていた。
あくまで私の主観だが。
しかしそれに比例して彼は力を伸ばしていたようで
中一の秋、三年生が引退してから、彼は部長に任命された。
内心、私は嬉しくてたまらなかった。
仲のいい友達が部長になったことも、
彼の実力が認められたことも。
いつの間にか彼は「聖書」と呼ばれるようになっていた。
それを聞いたときは思わず吹き出して白石にどつかれたが。
なにもかも円満にみえた彼だって、その称賛を
手放しで喜んでいる訳じゃない、とその時私は知らなかった。
その称賛に苦しんでいるなんて、思いもしなかった。
二年生になってまたもや白石と同じクラスになった私は
またもや彼の右隣の席に収まった。
そして回ってきた日直の日、たわいもない会話の中で
ぽつりと彼がこぼした言葉に、衝撃を受けた。
「俺のテニス、このままでええのかな」
「え?それってどういう・・・」
「決め技があるわけでもなければ明確なプレイスタイルがあるわけでもない。
全国には俺なんか比べモンにならんような化けモンが仰山おった。」
「そう、なんだ・・・」
「このまんまで、ええんやろか・・・俺なんかに部長勤まるんやろか」
「何、そんな弱気になって。白石らしくもない。」
あんた強いじゃない、と笑ったけれど、彼の反応は芳しくなかった。
「まあ聖書やなんや言われてもぶっちゃけ地味やしな。
しゃあないやろ。」
いつものように人の好い、少し自嘲的な笑みを浮かべて
いった彼に、ふつふつと体の奥底から何かがこみ上げた。
それが怒りだと気付いたのは、口を開いて言葉を発した後だった。
「ふざけんな・・・!なにがしゃあない、や!」
「え。」
「地味だろうがなんだろうがあんたは基本に忠実なテニスが好きなんでしょ。」
だったら、
「そんな風に自分のすきなもん貶すな・・・」
私は、あんたのテニスが好きなんだから。
「Simple is the best! Simple is beautiful! んんーっエクスタシー!!」
「!?」
「これくらい胸張って言いなさいよ!」
「・・・・・」
ああ、やってしまった。
見よ、この白石のひきつった顔。
「と、とにかく!」
いまだに硬直している白石をしり目に、私は教室を飛び出した。
どうしても言いたかったことばを捨て台詞にして。
「私はあんたのテニス、好きだから!」
これだけは覚えておいてほしい。
自分の信念を見失わないで。
翌日、私は重い鞄を背負って、同じくらい思い気持ちで
登校した。
そして門をくぐった直後。
「んんーーっ、えーくすたしぃいっ!!」
ずっこけた。
え!?なに今の!?
聞き覚えのありすぎる声に嫌な予感が止まらない。
おそるおそる除いたテニスコートで見たものは、
気持ちよさそうにドヤっている白石だった。
私、とんでもないことしたかもしれない。
これ以降完璧な王子様キャラだった彼に
「変態」の二つ名が名づけられるわけであるが、
それは彼の決め台詞のせいだけではなく。
「おはようさんっ!」
「ぐえっ」
がばりと抱き着かれてガマガエルのような声が出る。
「いい加減にせえや白石!おい、窒息死するで!」
謙也の渾身の足技に白石が卒倒。
私は解放されぜーはー息を吸う。
「今日もええ香りやな!ほんま自分最高やで!」
「ねえ謙也、」
「おん」
「白石どうしちゃったんだろう」
「お前、それ言うか」
「だってただのへんt「言うたらアカン!!」
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謙也は言えない。
あの日から白石が彼女に仕掛けているセクハラ行為は
彼の必死のアピールだなんて。
白石自身から思いは彼女に伝えるべきで、
自分が口出しすべきではないと考えている
彼はさすが、男前である。
「はやく気づいたれ。」
白石もお前も、気持ちだだもれやねん。
見てるこっちがもどかしいっちゅー話や。
それからさらに月日がたって。
白石と彼女が手をつないで下校するようになったのは
また別の話。
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最後まで読んでいただきありがとうございました!
お目汚し失礼いたしました。
なんか無性に書きたくなっちゃったんです。
すいませんでした。
こんな白石違う!ってかた、全国の白石ファンのみなさま
すみませんでした。