大学生1年生の頃、アルバイト先で僕は伊東という同じアルバイト学生と知り合ってときどき話をするようになった。


無口な男で話をするようになるまでにずいぶん時間がかかったが、そのうち僕らは仕事が終わると近所の店でビールを一杯飲んでいろんな話をするようになった。


彼も本を読んだり音楽を聞いたりするのが好きで僕らは大体そんな話をした。あまり多くを語らなかったけど、きちんとして好みと考え方を持っていた。


彼は長崎の出身で故郷の町に恋人を置いて出てきていた。彼は長崎に帰るたびに彼女と寝ていた。


「でも最近はなんだかしっくりといかないんだ」と言った。


「なんとなくわかるだろ、女の子ってさ」と彼は言った。「二十歳とか二十一歳になると急にいろんなことを具体的に考え始めるんだ。すごく現実的になり始めるんだ。するとね、これまで可愛いと思えていたところが月並みでうっとうしく見えてくるんだよ。僕に会うとね、だいたいあのあとでだけどさ、大学出てからどうするのって訊いてくんだ」


「どうするんだい?」と僕も訊いてみた。


「彼女は長崎に戻って美術の先生になれっていうんだよ。彼女、英語の教師になるつもりなんだよ」


「彼女のことがもうそれほど好きじゃないんだね?」


「まぁそうなんだろうな」と伊東は認めた。


「それはともかく、その人とは別れた方がいいんじゃないかな?お互いのために」


「僕もそう思う。でも言い出せないんだよ、悪くって。彼女は僕と一緒になる気でいるんだもの。別れよう、君のこともうあまり好きじゃないからなんて言い出せないよ」