MrKのぼやき

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正直、ドラマネタか医療ネタしかありません

2026年5月のメディカル・ミステリーです。

 

5月2日付 Washington Post 電子版

 

Doctors told her to remove her uterus. The real cause of her pain lay elsewhere.

医師たちは彼女に子宮を摘出するよう勧めた。しかし、彼女の痛みの本当の原因は別のところにあった。

After years of worsening pain, irregular periods and soaring hormone levels, doctors discovered it wasn’t her reproductive organs driving her illness.

長年に渡って痛みが悪化し、生理不順やホルモン値の上昇が続いていたが、ようやく彼女の病気の原因が生殖器ではないことを医師たちは突き止めた。

 

 

医師たちを困惑させていた長年の痛みに悩まされていた女性はついにその答えを得た(イラストは Bianca Bagnarelli〔ビアンカ・バニャレッリ〕氏により作成、ワシントン・ポスト紙に)

 

By David Wahlberg(デヴィッド・ウォールバーグ)

 

大学を休学して息子を出産した後、Brittany Pope(ブリタニー・ポープ)さんは卒業し、福利厚生を備えた仕事に就いた。その後、28歳の時に再び妊娠したが、それは彼女と長年連れ添っているパートナーにとって大きな喜びだった。

しかし、今回の妊娠は最初の時よりも辛かった。Pope さんは激しい腹痛に悩まされていた。会議に向かう車の中で吐いてしまうこともあった。また仕事から帰宅すると、疲れ果ててリクライニングチェアに倒れ込むこともあった。つわりの薬も効かなかった。

医師らは彼女の両側の卵巣に嚢胞を発見し、その後彼女は流産した。嚢胞は悪性ではないようだったが、流産したあとも腹部の張りや痛みは続き、生理は不規則になり、およそ3ヶ月に1回程度しか来なくなった。生理の数日前には、陣痛のような痛みを感じた。

医師たちは画像検査で彼女の嚢胞を経過観察し、hysterectomy(子宮摘出術)、つまり子宮を取り除く手術を受けるべきだとの意見も出て、場合によるとそれには卵巣や卵管の摘出も含まれる可能性もあるとされた。

しかし、9人兄弟の末っ子である Pope さんは、家族を増やす能力を失いたくなかった。

「私はまだとても若かったんです。本当にそれが唯一の選択肢だったの?」と彼女は言う。

しかし専門家たちは最終的に彼女の症状の原因となる稀な疾患にたどり着くことができ、その結果、それとは異なる手術が行われることになったのである。

 

Anatomical discovery 解剖学的発見

 

現在36歳の Pope さんは、何人か子供をもうけることを望んでいた。彼女とパートナーの男性は 17歳の頃から一緒に暮らしている。

2011年に大学を休学して息子を出産した後、Pope さんは2017年に心理学の学位を取得した。彼女は知的障害のある人々への支援サービスを統括する機関で働き始め、現在もその職に就いている。

 

Pennsylvania(ペンシルベニア)州 Erie(エリー)市在住の Brittany Pope さん(36歳)は、長年にわたり自身の健康上の問題の原因を探し続けてきたあげく子宮摘出術を受けるよう勧められた。(Brittany Pope さん提供)

 

Pope さんの生理は規則的だったが、いつも出血が多いという特徴があった。息子が生まれたとき、その理由がようやく判明した。医師たちは陣痛誘発を試みたが、破水が得られなかった。そのため緊急帝王切開を行われたがその際、彼女が、子宮が septum(中隔)と呼ばれる膜によって2つに分かれているまれな先天性異常である septate uterus(中隔子宮)であることが判明した。

それから数年後、2018年初頭に子宮筋腫の検査のために受けた超音波検査で、Pennsylvania(ペンシルベニア)州 Erie(エリー)市の住人である彼女は、さらに稀な先天性異常である uterus didelphys(重複子宮)と診断された。これは、洋ナシのような形をした1つの子宮ではなく、バナナの形に似た2つの独立した子宮がある状態を指す。この異常では2つの子宮頸部を伴う場合があり、ポープさんの場合もそれが確認された。

重複子宮は健康な妊娠を妨げるものではないが、月経時にそれぞれの子宮内膜が同時に剥がれるため、過多月経の原因となり得る。また一方でそれぞれの子宮の出血時期が異なる場合もある。

2018年11月、Pope さんは妊娠していることを知り、大喜びした。しかし、その翌月、肺の血栓症で入院する直前に流産してしまったため、当初は再び妊娠することを躊躇していた。その後4年間にわたり、彼女は不規則な生理の合間に悪化する腹部の張りや痛みのため、Erie 市や Pittsburgh(ピッツバーグ)市周辺で少なくとも8人の医師の診察を受けた。

医師たちは卵巣癌の可能性を否定し、polycystic ovary syndrome(多嚢胞性卵巣症候群)かもしれないと言った。これは比較的よく見られる疾患で、testosterone(テストステロン)などの男性ホルモンが影響して多発性の嚢胞ができこれによって月経不順が引き起こされる可能性がある。彼女は痛みのために Midol(マイドール;生理痛の OTC 薬)を服用したがあまり効果はなかった。医師たちは hysterectomy(子宮摘出術)を提案したが、彼女はもっと子供が欲しかった。MRI検査や定期的な超音波検査の指示が出される中で彼女は苛立ちを募らせていった。

「私の症状は悪化する一方だったのに、彼らは皆、写真で経過を観察するだけだったのです」と彼女は言う。

 

High hormone levels ホルモン値が高い

 

 2022年10月、Pope さんは Erie 市から西へ2時間足らずの場所にある学術医療センターである Cleveland Clinic(クリーブランド・クリニック)を訪れた。彼女が最初に診察を受けたのは、生殖内分泌専門医であり、不妊症やホルモン障害の治療を専門とする産婦人科医の Stephen Mooney(スティーブン・ムーニー)氏だった。

 Mooney 氏によると、Pope さんの血液検査の結果、4種類のホルモン値が高いことが判明したという;それは、testosterone(テストステロン)、女性ホルモンである estrogen(エストロゲン)、母乳の分泌を促す prolactin(プロラクチン)、そして副腎で生成されるステロイドである 17-hydroxyprogesterone(17-ヒドロキシプロゲステロン、17-OHP)だった。彼女の17-OHP値は基準値の約8倍に達していた。また、estrogen 値は基準値の20倍以上だった。

 「これらのホルモン値が個別に上昇している例はこれまでにも見てきましたが、それらすべてのホルモンが同時に、しかもこれほど高い数値で上昇しているのはめずらしいことです」現在 Cleveland 南部で個人クリニックを開業している Mooney 氏はそう話す。

 彼は彼女に dexamethasone(デキサメタゾン)というステロイド薬を投与した。本来ならこれにより testosteroneと17-OHPの値が低下するはずだったが、抑制されなかった。

 2023年10月、Pope さんは、右卵巣が捻転を起こしそれを支える組織が捻じれて血流が遮断され激しい腹痛に襲われるという不幸に見舞われた。Erie 市で緊急手術を受け、右の卵巣と卵管を摘出することになった。これにより妊娠の確率は低下したものの完全に失われたわけではなかった。

 回復後、彼女は Cleveland Clinic の内分泌(ホルモン)の専門医である Laleh Razavi(ラレ・ラザヴィ)氏の診察を受けた。Razavi 氏は、Pope さんの17-OHPの高値が、晩期発症型の先天性副腎過形成に起因しているのではないかと疑った。この疾患は通常、出生直後に発見されるもので、腎臓の上に存在する副腎にから産生されるホルモンのバランスに異常を来す。しかし、Razavi 氏が依頼した遺伝子配列解析を含む検査の結果は陰性だった。Pope さんは生まれつき腎臓が一つしかなかったが、副腎は二つあった。

 続いて Razavi 氏は Pope さんの頭部のMRI検査を依頼した。2024年11月の検査で、脳の底に位置し多くのホルモンを産生・調節する豆粒ほどの大きさの腺である下垂体に小さな腫瘍が見つかった。下垂体腫瘍は比較的よく見られるが、その多くは過剰なホルモンを産生するものではない。頭痛を引き起こしたり視力に支障をきたしたりしない限り、通常は経過観察にとどめ外科的に切除されない。

 しかし、下垂体腫瘍の中にはプロラクチンを分泌するものもあり、Pope さんはこのホルモン値が高かったため、母乳の分泌がみられていた。医師がプロラクチンの分泌を抑える薬である cabergoline(カベルゴリン)を投与したところ、ホルモン値は低下し母乳の分泌も止まった。しかし、7月に行われた経過観察のMRI検査では、カベルゴリンによって腫瘍が縮小しているはずだったにもかかわらず、下垂体腫瘍に変化は見られなかった。

 この間、ポープさんの左側の卵巣嚢腫は 22cmまで大きくなり、サッカーボールほどの大きさになっていた。彼女の下垂体腫瘍が、何らかの形でその増大を助長していたのだろうか?医師団は集まり彼女のケースについて協議した。

 

2025年1月のCT検査で、Pope さんの卵巣腫瘤の大きさは186mm(18.6cm)と計測された。10月の手術前には、サッカーボールほどの大きさとなる22cm(8.6インチ)にまで増大していた。(Brittany Pope さん提供)

 

 「下垂体腫瘍が過剰なシグナルを放出し、それによって卵巣が活性化されるケースは極めて稀です」と、この協議に参加した Cleveland Clinic の神経外科医、Varun Kshettry(ヴァルン・シェトリー)氏は話す。「これまで誰もそのような症例を見たことがありませんでした……しかし、それが唯一我々に残された考えられる原因だったのです」

 不確実性が残る中、Kshettry 氏は10月に手術を行い、開頭することなく Pope さんの鼻孔から腫瘍を摘出した。検査の結果、この腫瘍が機能性性腺刺激ホルモン産生腺腫であることが判明した。すなわちこの腫瘍が follicle-stimulating hormone(卵胞刺激ホルモン、FSH)を産生しており、それが卵巣を過剰に刺激してエストロゲン値を急上昇させると同時に testosterone と17-OHPも増加させていたことを意味する。Kshettry 氏と Razavi 氏によれば、このタイプの腫瘍は下垂体腫瘍全体の1%未満と考えられている。Kshettry 氏は、Pope さんの腫瘍は当初疑われたようなプロラクチンを産生していなかったが、別のホルモンである dopamine(ドーパミン)の放出を阻害することで、プロラクチンのレベルを上昇させていた可能性があると説明する。

 

Return to normal 正常に戻る

 

 腫瘍が摘出されるとすぐに Pope さんのホルモン値は正常に戻った。エストロゲンの主要なタイプである estradiol(エストラジオール、E2)は、手術一年前の11,378 pg/mlから、術後1週間で41 pg/mlまで低下した。彼女は再び規則的な生理を取り戻した。卵巣の腫瘤は7cm、テニスボールほどの大きさに縮小し、腹痛も消失した。

 「調子はいいです」と最近 Pope さんは話す。「かなり長い間することのできなかったストレッチや腹筋運動をしています」。

 先月のCT検査の結果、腫瘤はさらに縮小して正常な大きさに戻っており、彼女は近いうちに再び血液検査を受けることになっている。検査結果でホルモン値が正常範囲内であれば Pope さんは再び妊娠を試みるのに十分な健康状態にあると判断されると Razavi 氏は言う。Pope さんは、今年後半には妊娠を試みたいと話す。

 Pope さんは、流産してから問題の根本原因が判明するまでに7年近くもかかってしまったことを残念に思っている。しかし、彼女は子宮摘出術を受けずに済んだことを喜んでいる。Razavi氏によると、卵巣を摘出していれば痛みや合併症は軽減されたかもしれないが、問題の根本的な原因には対処できていなかったであろうという。下垂体腫瘍がホルモンの不均衡を引き起こし続け、他の面でも彼女に影響を及ぼし続けていたとみられると彼は言う。

 Pope さんは、今後さらに子供を授かるかどうかに関わらず、妊娠できる可能性を持ち続けられて良かったと話す。

 「彼らは自分たちにとって安易だからという理由でその選択肢を私から奪おうとしたのです。」と彼女は言う。「でも、私にその選択肢があるということがわかっていれば安心できるのです」

 

 

 

 

本記事の疾患に関連する参考資料を以下に示す。

 

 

第31回日本間脳下垂体腫瘍学会Proceedingより『機能性FSH産生性下垂体腺腫の特徴と治療成績』

 

 

厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル(卵胞過剰刺激症候群)

 

 

 

女性ホルモン(E2:エストラジオール)が非常に高くなることが

原因で起こる卵巣の腫大、腹水の貯留により腹部膨満感、体重増加、

下腹部痛、悪心、嘔吐などを来す病態は

Ovarian hypersensitive syndrome(OHSS、)卵胞過剰刺激症候群と呼ばれる。

これは主として不妊症治療で用いられる排卵誘発剤の副作用として起こる。

 

一方、卵胞刺激ホルモン(FSH)を産生する下垂体腫瘍(腺腫)は

きわめて稀ではあるが、閉経前女性に発生した場合には高率で

卵胞過剰刺激症候群を来すことが知られている。

多嚢胞性卵巣を呈しそれによる腹部症状や不妊・月経不順がみられる。

これらの症状のみでは下垂体が原因となっている可能性が想起されない

恐れがある。

しかし、適切に診断されれば、下垂体腫瘍の摘出のみで

卵巣嚢腫、不妊ともに改善を得ることができる。

OHSS を呈する患者の中には、卵巣腫大そのものに対する不要な手術を

回避することができるケースもあることに留意しておく必要がある。