サマセット・モームの短編『冬の船旅』のテーマは、「女性の過剰なお喋りは欲求不満の表れ」だ。こんな話だ。

英国で喫茶店を営むミス・リードは冬の間は店を閉め、ドイツの貨物船で南米への船旅を楽しんでいた。他の船客が全て下船した後は、上級船員と同じテーブルで食事をするようになる。自分では社交と会話の達人だと自負していたが、ドイツ人の船長達は彼女の退屈なお喋りに苛立っていた。なんとか、あいつを黙らせる方法はないか?
「必要なのは愛人だな」と船医は言った。
その処方を先生が試されては、と船長が言うと、船医は辞退する。
「患者のために処方するのが医師としての義務だが、直接実践するのは仕事外だ」
船長自身も一等航海士も辞退したので、金髪美男の通信士に命令が下った。
「今夜11時にミス・リードの船室に出頭せよ」
その後、彼女のお喋りはピタリと止んだ。

ウーム、あまりに深い真実を突いているので、胸に短刀を突き立てられたような衝撃を受けた。モーム一流の観察眼と皮肉が冴えている。
本作を読んで以来、傍で聞いているだけでうんざりするほど中味のないお喋りを延々とする人達を見ると、「私は欲求不満」という声なき声を聞くようになった。他人事ながら気恥ずかしい。
そう言う自分だって、女同士で何時間もお喋りをすることはあるのだが…。

"Winter Cruise" is my favourite of W. Somerset Maugham's works.