「ほんとは結婚してほしい。ずっと、ずっと一緒に居たい。キスだってしたいし、子供も残したい。でもな、早く決着をつけないとなんだよ。悪魔は力を増してる。追い払うために破壊しなきゃいけない回数が増えてきてる。吸血鬼が全員消えるってなれば、その前に絶対誰かが、破壊を始める。吸血鬼だって善人じゃない。それに、星が暴走してるんだ。いつ、何が起こるか分かったもんじゃない。だから、早くしなきゃいけないんだ」
「理解。私。同感」
言いながらそれでも納得できなそうな顔をビオレータはする。その顔に、胸をまたしても締め付けられた。
ああ、世界よ。なんで吸血鬼に。化物に。こんなものをくれやがった。
――恋なんてくれやがった。
苦しいだけなのに。
それともあれか? これが呪いだって言うのか?
たとえば、だ。僕たちはずっと、先、絶対に会える。その時、僕たちはすぐにお互いを大切だって思って、恋する。そう思ったら、幸せなのかもな。
でもさ、僕はそれじゃ我慢できないんだ。
未来なんてくそ喰らえなんだ。
結局のところ、僕の心の中ではもう結論は決まっているのだと思う。
でも、遺志があるからと。これまで何度もその遺志を盾に仲間を殺した。その罪があるからと。そう、理性が言い聞かせなければならない。
……でも、ダメだ。
もう、我慢できない。
ああ、世界よ。恋なんてくれやがったんだ。責任は、全部、お前が取るべきだろ?
「ビオレータ。僕と結婚してください」
我慢なんてしねぇ。過失は全部、世界にあるんだ。人にあるんだ。
もういい。僕は、これでも頑張っただろ?
それにさ、何かのために犠牲にできる愛なんて、そんなもん愛じゃねぇよ。
「不合理。私。案。有為男。否定」
「……そうだな。でも、もう僕、無理だ。我慢できない。〝したい〟じゃ無理だ。〝したい〟を全部〝した〟に替えて、その上で死ぬまでずっとビオレータといないと、先祖に繋いだりしたって意味無い」
「理……解」
ビオレータの頬が赤らむ。一番可愛い。癒される。愛おしい。3Iで最高だ。無理矢理Iをつけたとかじゃないからなっ!?
「だからさ、なすがままにいこうぜ。ビオレータさえ殺さずに済めば、もう僕はどうでもいい」
「……有為男。満足。……ならわ、た……しもい……よ」
たどたどしい、けれど単語じゃないその言葉で、僕は再び決意した。
世界を滅ぼそうとも、この子と生きることを選ぶと。
かつて、僕たちの子孫の身体にも人と同じ血が通っていた時代があったらしい。
その頃は、僕たちの歯も鋭くはなく、血を吸うことを宿命とされずに生きることができたらしい。
人と同じように学び、大地を駆け、笑った時代があったらしい。
でも、今の僕たちは、そんな過去を信じることなど出来ない。
子供が作り出した御伽噺なんだろう、と。そう思ってしまう。だって、今の僕たちは人とは違う。
人とは異なる血が流れている。故に、人とはかけ離れた力を持つ。世界を破壊させることもできるほどの、すさまじい力だ。
吸血鬼。
僕たちはそう言われて恐れられる。
僕たちは不死身だ。人の血を吸い、力を手にして、魔法さえ使う。
何より、僕たちは本能として世界を破滅させようとしてしまう。人を見れば、殺意が湧く。人のことを嫌いなわけではないのに、喰らうためにどんなことでもしようとしてしまう。寝ている間に町を、国を崩壊させることだってざらだ。
破壊。それこそ、吸血鬼の真の宿命。
なら、抗う方がおかしいだろ?
それにさ、誰かが自分を騙して、愛を捨てて、自己犠牲を賭した果てにある真実なんてくだらねぇ、じゃん。
だから、僕はそうする。
吸血鬼の御伽噺は。破壊の伝説は変わらない。
かくして、ウィオラーケウスとビオレータは世界を破壊するという自らの宿命と抗うことなく従い、愛のために世界を壊すという、究極の自己満足を果たした。
その代償として、彼らに与えられたのは呪いだ。
吸血鬼の血は決して絶えないこと。
悪魔の子孫を必ず合間見えること。
そして永久に子孫が出逢うこと。
力をなくし、どちらがいなければ本来、生きていけない体になること。
これらが呪いである。
しかし、この呪いをかけた新たなる神は予想もしない。
未来の吸血鬼が科学の力で辛うじて生き残り、元神の子孫以外と子供を作ることで偉大な才能を生み出すことを。
そしてその偉大な才能と元神の子孫が合わさり〝ウィオラーケウス〟と〝ビオレータ〟の名を冠する神の予想を超えるタッグが誕生することを。
これは恋人のいない朝を生きることになるかもしれない、少年と少女の物語。
の、序章の序章。