はちみつをかけると美味しいものは?
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合理主義者の俺にとって、ハチミツは砂糖よりも理にかなった甘味料だ。だから、摂取するなら余計な装飾は一切省く。
朝の目覚めに飲む熱いブラックコーヒーに、ほんの数滴垂らす。ただそれだけ。
風味や栄養価を損なわないよう、スプーンでかき混ぜることもない。カップを軽く揺らし、自然に溶けるのを待つ。熱でハチミツの成分が変質するのを防ぐためだ。
これで俺の神殿(肉体)に、最小限のコストで最大限の活力をチャージできる。無駄なカロリー摂取を避け、効率よくエネルギーを補給する。それが富豪への第一歩だ。
百十
ヘソクリスの言葉に、猪野は大きく頷き、深呼吸。空気中に漂ってきた新たな匂いに、彼の食いしん坊センサーが過敏に反応していた。
鳥居をくぐると、霧はさらに濃くなり、足元はほとんど見えなくなった。道なき道を進む二人の鼻をくすぐるのは、香ばしい肉が焼ける匂いだ。
「うわー、ヘソクリスさん、すごい良い匂いですね!これ、間違いなく上質な肉ですよ!どんなご馳走が待ってるんでしょうか!冥界の料理って、どんなものがあるのか、ワクワクしますね!すき焼きなんかもいいなー!」
猪野はケガをした腕をブンブン振り回しながら、今にもよだれを垂らしそうな勢いでまくしたてる。
一方、ヘソクリスはここが『冥界支店』の別のロビーであることに気づき、顔をしかめた。「なんだ、部屋の廊下から来れば早かったのに、忘れてたな」
冥界支店に広がる、甘く香ばしい匂いにヘソクリスは「オエッ」となった。彼は一連の事件を経て、肉は鶏胸肉しか口にしないと誓っていた。
この匂いは彼にとって、油臭く胸焼けを催すような悪臭に感じられたのだ。「焦げ付いた肉」という門番の言葉を思い出し、嫌悪感が募る。
足元がぬかるみ始め、一歩踏み出すごとに「ぐちゅり」と音が鳴る。霧の合間から、ぼんやりと赤黒い水面が見え隠れする。

その水面は、時折、気泡が弾けるたびに、下水のような、焼肉のタレが焦げたような、ヘソクリスにとっては不快な匂いを立ち昇らせる。
「……ここだな。『嘆きの沼』だ」。
ヘソクリスが低い声で言う。その言葉とは裏腹に、猪野は期待に胸を膨らませる。
「ついにご馳走にありつけるんですね!」と、目をキラキラさせて沼の奥を見つめた。霧の向こうからは、さまざまな種類のうめき声が重なり合って聞こえてくる。
それは苦悶の叫びにも、恍惚のうめき声にも聞こえる、奇妙な響きだった。