気になった花言葉

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 福の神


オオホザキアヤメ(福神草) 漢方薬 肝炎に効くらしい


福寿草 漢方薬にもなるが全草 毒性成分


 十八


電波内にある黄金でできた宮殿は、太陽の光を浴びて眩い輝きを放っていた。壁には宝石が埋め込まれ、天井からはシャンデリアが煌煌と輝いている。


貧乏神は目を殺られない様にとサングラスを掛けた。その中心には、悠然と座する福の神の姿があった。


彼は、筋肉ムキムキな完璧な体を持ち、人工知能のような鋭い思考回路を持っていた。


しかし、彼の瞳には、どこか寂しげな光が宿っていた。多様性を訴えながらも、自身の理想の体型を維持するために、


厳格な食事制限と激しいトレーニングを課していた。彼は、人類の未来のために貢献したいという強い使命感に突き動かされていたが、


その一方で、孤独と完璧主義という重荷を背負っていた。その姿はこれまでの牧歌的な袋を担いで打ち出の小槌を持ち、垂れ下がった耳たぶに、満面の笑みを浮かべた旧型福の神とは全く違っていた。


十九


貧乏神は福の神を見て、目をパチクリ。今って、スタイリッシュじゃないと、福は来ないの?格差極まれりって感じじゃーん。


言葉が通じなさそうー。彼はアイアンマスクなのかしら? 無表情だけにねー。洋服は白Tに生地をケチったピチピチズボンかぁ、


それでも作業着屋とかじゃなくってあちゃらか系のお高いお洋服なんだろうなー洋服ってさ、SMLってあって、


お値段一緒なの、解せないわー、生地の量も手間もLが高いはずじゃなーい!だから私、


本当はSサイズでもLを着てんのお得ね。kマスクも大きめ使用中、って、話が逸れたけど、あー、話しづらいなーと、貧乏神が思っていると、福の神が声をかけてきた。


二十


福の神は鼻で笑った。

「君さ、ずっとモジモジしてるけど……まずサングラスを外せ。それ、マナーってもんだろ?」


貧乏神はバツが悪そうに「あー、その……」とゴニョゴニョ言いながら、そろそろとサングラスを外し、ペコッと頭を下げた。


福の神は腕を組み、フンッと鼻を鳴らした。「時間は有限。要件は端的に頼むよ。僕の時給、格安じゃないんでね」


その塩対応に少し怯みつつ、貧乏神はこれまでの経緯を語った。取り憑いた相手が、まさかの廃棄寸前のツチノコお守りだったこと。


自分の勘も鈍ったな……と落ち込んでいたところ、A子ちゃんに拾われ助かったこと。


彼女は心が貧しくない。貧乏神にとっては、かなりのレアキャラだったからか、

そんな彼女に惹かれたが、


皮肉なことに、彼女の人生は不幸の連鎖に巻き込まれ、代わりに自分がどんどん肥えていくという、シュールな事態になり、


「このままじゃマズイ」と、起死回生を狙って、彼女に当たりの宝くじを渡そうと決意したけれど、ここで問題発生——


「アタシ、透視の術が使えないのよ」と、

しょんぼりと事情を説明すると、福の神は額を押さえ、深い溜息をついた。


「……は? 貧乏神が福を運ぶ? それ、完全にバグじゃん。職務放棄? それとも、ただの馬鹿?」


ゴミを見るような目で貧乏神を一瞥し、続けた。「まあ、興味深い問題ではあるな。だが、君は福の神じゃない。

なのに、なぜ“福を運ぶ”ことに執着る?」


福の神は椅子をクルリと回転させるCEOムーブで続けた。「まずは、君自身の役割を見直せ。最適化が必要だ。


場合によっては、システムのアップデートも視野に入れるべきだろう」貧乏神はポーカンと口を開けた。

「……アップデート?」


福の神は身を乗り出し、真顔で言った。

「そうだ。“福”とは何だ? 金か? 名声か? それとも、心の安らぎか?」


A子ちゃんのことは置いといて、君が本当に望んでいるものは何なのか、

しっかりデータを整理して考えることだ。方向性がズレると、


リソースの無駄遣い……つまり——時間の浪費だ」


貧乏神は、「な、なるほど……?」と、うっすら理解したような、してないような顔をした。でも、妙に説得力がある気もした。


福の神はニヤリとして「知恵袋?イヤイヤ、AIジェミニかChatGTPに聞いてみな!」と、渾身のギャグを言って一人で笑った。



二一


貧乏神はもう一押しだと感じて、土下座。まぶしくってこぼれた涙の効果もあり、クールな福の神も彼を気の毒に思い、透視の術の秘儀について語った。


君、頭を上げてください。同じ神同士が、お互いを好きかどうかはとても大切だ。さもなければ、


私たちの神生と仕事は、とても惨めなものになるだろうよ。よく聞いて、透視とは、過去のデータを読み解き、未来を予測するのと同じだよ。


それは株の投資のようさ。過去のチャートを分析し、将来の株価を予想する。しかし、いくら分析しても、必ずしも的中するとは限らない。


重要なのは、その予測に基づいて行動し、結果を受け入れる『闘志』を持つことだ。常によりよくする方法を考え、


自分に問いかけ続けることが、唯一でありベストな方法だと私は考えているよ。変化を恐れず、新しい価値観を受け入れられるモノだけが、勝利を手にする。


透視する前に両眼を閉じて、いま正に透視しようとしている宝くじの発表後の姿をじっと思い抜くんだ。これで答えになっているかな?


二十二


貧乏神は、福の神ーーーーリスペクト!

と、その知識と心根に本物の輝きを見た気がして、ジョーカー(マジ)泣。


福の神は少し考えるように顎に手を当て、それから淡々と話し始めた。


「うん、まあ、ちょっと考えてみようか。君の役割って何? 貧乏神だよね? それってつまり、人に試練を与えて、進化させる存在ってことだよ。


でさ、A子ちゃんに宝くじを当てさせて引っ越しさせる? うん、それは可能だね。でも、問題はそれが本当に彼女のためになるのかってこと。


人間ってね、運に頼るとすごくダメになる。完全にね。成功ってのは試練を乗り越えて手に入れるものだから。


スペースXもテスラも、全部そうだった。だから、A子ちゃんにもそれを経験させるべきだと思うんだ。


むしろ、公園で四つ葉のクローバーを見つけさせる方が、彼女の未来にはプラスじゃない? それなら彼女は『自分で見つけた』って実感できるからね。


まあ、最終的な判断は君に任せるけど、覚えておいてほしい。幸福ってのはお金では買えないんだ。そして、世の中のすべてには光と影がある。それは物理法則みたいなものだから。」


福の神は金の杯を手に取り、真珠の酒を一口飲みながら続けた。


「もっとも、まあ……イーロン・マスクならだいたいのものは買えちゃうけどね。でも、彼が目指してるのは火星での人類の未来だから。金で解決できること以上のものを追求してる。


A子ちゃんもそういう視点を持てるといいんだけどね。」


しかし、浮かれた貧乏神は、その言葉を上の空で聞いているだけだった。



二十三


「ふむふむ…、AIか。なかなか面白いな。」

渋い表情でマウスを操作する貧乏神。何故かスマホのYOU!TUBE?からは松田聖子のライブ映像が映し出されている。それはどこか場違いな雰囲気を醸す。


「しかし、こんな機械が導き出す数字よりも、神の心の奥底から湧き出る直感が大事なのだよ。」


そう呟きながら、ライブ映像に映る聖子の笑顔に目を奪われる。「うわッ、なに、なーに、可愛い❤ セーコー!セーコー!成功させてー」


貧乏神は、松田聖子のライブ映像に合わせて、ノリノリで踊りながら、マウスを片手に宝くじの番号を選んでいる。


「このパソコンは、人間が作ったものではあっても、神々の知恵が宿っているのかもしれない。


だが、やはり、神の本質は数字を超えたところに存在するのだ。」

そう言いながらも、心配でAIに尋ねる。


「AI様、お願いだから、私の直感と一致する数字を出して!」

AIからの返答は厳格。


「あなたの直感ですか?過去のデータに基づいた統計学的分析結果と比較しても、的中率は非常に低いと思われます。」


「ふふ、AI様もなかなか面白いことをおっしゃる。しかし、よし、この組み合わせなら勝てるはずだ!」と、


スマホに映し出された聖子ちゃんに熱視線を送りながら「我は勝つジョーカーーーー」と叫びつつ、キーボードを強強打した。


二十四


A子ちゃんが寝ている間に、貧乏神は彼女の枕元に近づき、「これは、夢の中で見た幸運の数字だよ。


きっと、君を幸せにしてくれる」と囁きかけた。念の為に、A子の手に、数字の書かれた小さな紙切れをそっと置いた。


A子の顔を眺める。寝顔までカワイイ!でも、彼女、少し痩せたんじゃない?と思うと、それはひとえに、自分の存在がそうさせていると感じて、泣けてきた。


翌朝、A子ちゃんは不思議な夢を見たことを思い出し、枕元を見ると、クシャクシャのメモが置かれていた。開いてみると、自分の字で数字が書いてあった。


A子ちゃんはこの数字が宝くじの当たり番号だと確信した。神様に私の姿が見えますようにと、勝負服に着替え、念入りにメイクをして、


方位を調べてから、宝くじ売り場へと向かう。道中、何度も数字を確認し、高まる期待感を抑えきれない。



「神様、どうかこの数字が当たりますように!」

そう心の中で願いながら、途中、神社にも寄って、宝くじが当たりますようにとお願いし、お賽銭も弾んだ。


二十五


しかし、賢明な彼女は宝くじを2,000円分だけ買うことにした。その金額は、ちょうど1カ月分のオヤツ代だ。


「オヤツを1カ月我慢できたら、健康にもいいしね」


そう自分に言い訳しながら、悪い咳を一つ。


それにしても、こんなにお金が必要なわけでもないのに、私ったら馬鹿みたい――。


そんなことを思いながら、彼女は薄く笑い、また咳をしつつ、慎重に数字を書き写した。


5つの番号が揃えば555万円。ビンゴファイブ。


嗚呼、GOGOGO!語呂も完璧、これは当たる気がする!


彼女が選んだ数字が、きっと当たることを知っているのは自分だけ。だが、彼女に知られてはいけない。これは、ただの偶然でなくてはならないのだ。


宝くじを握りしめた彼女の横顔は、どこか晴れやかだった。その笑顔を見られただけで、貧乏神は満足だった。


たとえ、自分の存在に気づかれることがなくても――。


二十六


ソワソワした気持ちで当選番号発表の時を待つ。そして、ついに発表の時。A子ちゃんは、スマホ画面に映し出される数字を食い入るように見つめる。


心臓の高鳴りを感じた。何度も数字を確認し、自分の持っている宝くじと見比べ⋯⋯⋯。


「当たった…!」


その言葉が、彼女の口からゆっくりと漏れて出た。信じられないような出来事に、頭の中は真っ白。


しばらくの間、呆然と画面を見つめていたA子ちゃん。徐々に意識が戻ってくると、全身に力がみなぎってくるのが感じられた。


A子ちゃんはこれはツチノコお守りのおかげだと思い、宝くじをお守りの中に大切にしまった。


その様子を見ていた貧乏神は、 ガッツポーズ 。 「やったべ!!!」彼は誇らしげに胸を張った。


「今まで散々不幸を運んできたが、ここでまさかの大逆転プレゼント!!! こんな粋な計らい、そうそうできるもんじゃねぇ!!! 不幸ばっか運んでたら、そりゃ嫌われるべ! だが、ここで! オレは!! 奇跡を起こした!!!」


「貧乏神、まさかの神越えぃぃぃ!!!(ドヤァ)」 彼は天を仰いで仁王立ちした。


「フッ……どうだ、A子ちゃん……オレを見直したか……?」 しかし、A子ちゃんは当然のように 彼の存在を認識していなかった。貧乏神は 


「ま、まぁ、いいんだべ!!!」 と自分に言い聞かせ、勝利の余韻に浸った。そして、そのまま 満足げに眠りについた。


しかし、A子ちゃんの運は尽きた。


二十七


A子ちゃんはその夜、壮絶な吐血をし、翌朝には自力で起き上がることすらできなくなっていた。


這うようにして救急車を呼び、病院へ。採血、レントゲン、CTとフルコースの検査を終えると、担当医はカルテを見つめながら、 「はぁ~……」 と深いため息をついた。


「両肺が真っ黒ですね。……ていうか、あなた、死んでますよ!」


「へ?」


「いや、マジで。普通の人間なら、昨日の夜の時点で即死ですから、成仏して下さい!」「……え?」


医者はペンをくるくる回しながら、 「あの、質問なんですけど」 と続けた。「もしかして、昨日、めちゃくちゃ運のいいこととか、ありました?」


「……え? あ、あの、宝くじが……」「ですよねぇ~~~~!!!!」バンッ!!!

医者は机を叩いて立ち上がった。


「おかしいと思ったんですよ! だって、医学的には死んでるのにピンピンしてたとかありえないでしょ!? 


で、急に宝くじ当選!? 不運の帳尻合わせが来るに決まってんじゃん!!!ヒャヒャヒャー」「は???」


「いやいや、こういうのはね、大体ね、神の仕業なんですよ! 貧乏神とか、その辺のね! 


で、ほら、あなたお亡くなりになった、? これ、どう考えても調整ミスでしょ!?」


「え、え、ちょっと待って、何言って——」


「看護師さん!! お祓いの塩持ってきて!!!」


医者は、患者たちのカルテを次々と処理し、さっさと帰ってビールでも飲もうと考えていた。


「さて、次の患者は……」


医者は、パソコンの画面を凝視した。すると、そこに現れたのは、長い黒髪を剃り落とし、つるりとした坊主頭にした貞子だった。


「え?貞子?しかも坊主!?」


医者は、思わず二度見した。しかし、時すでに遅し。貞子は、画面の中からヌルヌルと這い出し、医者の腕を掴んだ。


「南無阿弥陀仏……。煩悩まみれの医者よ」貞子は、念仏を唱えながら、医者を画面の中に引きずり込んだ。


「悟りの境地へ行くぞ」そしてパソコン画面は秒で通常の画面に切り替わり、使われたことのない聴診器だけが残っていた。


A子ちゃんは、頭が混乱しながらも「具合悪かったから、もっと早く来ればよかったなー」とぼんやり反省する。


しかし、医者の暴言には一切耳を貸さなかった。処置なしで彼女は家に帰された。


一方、貧乏神は大慌て。渋団扇を振り回しながら、「せめて新鮮な風を!」と彼女に扇ぎ続けるものの、それ以外の対策は思いつかなかった。



二十八


貧乏神は、渋団扇をぽとりと落とし、「ア゙ア゙ア゙ア゙ーーーー!この団扇で扇ぐと不幸は竜巻並みの暴風となって、人に襲いかかるんだったー、動転して、扇いじゃったよ。


私は、実際、実にリアルに、リア充に大馬鹿与太郎の三太郎だよ!A子ちゃーん!ごめんよぅ、ごめんなさい! 私が居るから君をどんどん不幸にさせる。


君が宝くじを当てた直後にサヨナラをしなくっては行けなかったのに、別れがたくって、愚図愚図してしまった


どうして私はこんな因果な神になってしまったんだろう? 嗚呼、でも、生命の危機にあるA子ちゃんを置いて行けるわけ、ないじゃないか⋯⋯⋯。


分かった!もう一度、福の神に縋って、どうすれば君が助かるのかを聞いてこよう そして、今度は必ず君を幸せにする。そのためなら、どんなことでもする!」


貧乏神は息をゼイゼイ切らして横になっているA子ちゃんの布団を肩まで掛け直しつつ、涙を流していた。


二十九


そこに訪ねてきた神がいた。彼はだらしない体型で、でっぷり太り、太った腹をさすりさすり入ってきた。


「どーもー、貧乏神ちゃん、おげんこー?」貧乏神は親しく声をかけてきた相手が誰なのか、一瞬分からなかったが「エ゙ッ⋯⋯⋯⋯。ジョーカー(マジ)


その声は同業者の死神! どーしたのよ、その姿! 痩せてて、フード被って、鎌を持ってるのがトレードマークじゃなかったけ?


太っちゃってさ、まるで福の神!ハーン、さては、新手の営業手法でしょう?福が来たように装ってからのデス!


怖いわー、最近流行りの闇バイトの親玉みたーい」と、言った。


すると、死神は鼻にしわを寄せて「人が気にしていることを、ズケズケ言うなぁ、旧型福の神に化けてるわけじゃあないんだよ。


このところ、戦争だ、多死社会だーって忙しくって、ストレス太り。早く食べられる丼ぶり物とラーメンが止まらないよ。糖尿とかに罹ったら、労災認定されんじゃないのー


それより、君こそ変だよね、目尻が下がって、カワイイアピールを全面に打ち出してさ、君本来の姿ではないじゃないか!


昔は、誰の魂を先に奪うか競い、丁丁発しし合ったのにさ。俺たち、若い頃はもっと違った世界が見えてたよな」と、言った。


貧乏神は「うん、お互いに老眼だから仕方ない」とため息一つ。


三十


貧乏神は腕を組み、「ところで、あんた、何しに来たの? よくここが分かったわね」と尋ねた。


死神は真剣な顔になり、軽く咳払いをすると、少し疲れた様子で口を開いた。


「実は、様子を見に来たんだ。最近、貧乏で苦しんでる奴が増えてるせいで、絶望した魂が後を絶たない。そのせいでこっちの仕事も大行列さ。ノルマは増えるし、こっちはウンザリするほど忙しいのに、大入りが出るわけでもない。バカらしくてやってられないよ!」


貧乏神は目を細め、「この世界ってセンセーショナルに報じられがちだけど、実態は零細な業界よね。噂の広まるのも早いわ」と呟いた。


死神は肩をすくめ、「そんな愚痴をこぼしてたら、お前の動きが最近おかしいって噂を聞いてな」と続けた。


貧乏神はふっと鼻で笑い、肩をすくめた。「私はね、ただツチノコお守りに取り憑いただけよ! 私の本質は、人から財産を奪い、不幸にすること。現に見てごらん、今、死にかけてるのは、こんなに若くて純粋な子だよ……」


そう言いながら、貧乏神の目からは涙があふれ、ついに畳に突っ伏して泣き出した。


死神は長い福耳をぴくりと動かしながら、静かに言った。「お前、やられてるよ。早くツチノコお守りから出てこい。そのお守りは商売のために作られたただの玩具みたいなものだが、どうやら微弱な精霊が宿ってるらしい。その精霊の影響で、お前は弱気になっているんだろう」


貧乏神は涙を拭いながら顔を上げた。


「神ってのはな、嫌われても、時には厳かに人に引導を渡すのが役割だ。それを忘れたら、お前の存在価値はなくなる。神には神に与えられた使命がある。それを全うしなければ、お前は消滅することになるぞ」


死神の低い声が、部屋の中に静かに響いた。



三十一


貧乏神は畳からガバっと顔を上げ 「ツチノコお守りのせいだって?そんなの言い訳だ。私は昔からそうだった。人の不幸を喜ぶ反面、


疚しい気持ちが消えなかった。それは、このお守りなんかなくても、変わらない。ただ、このお守りが私のその心をさらに弱くしてしまったのかもしれない。


でも、だからって、私がA子ちゃんを不幸にしたことを正当化するつもりはない。私は、神としての役割を放棄して、


A子ちゃんに幸福を授けようとしたのだから。それは、身の程知らずな行為だったと今、痛感している。


A子ちゃんのような貧乏知らずの魂を傷つけて、彼女を瀕死の状態にしている。それが私の罪だ。神としての使命だなんて、


そんなものは関係ない。私が今、すべきことは、A子ちゃんを救うことだけ。お前になどA子ちゃんを渡さない!」



三十二


いやいやいやー、全然好みじゃないし、何よりも今、仕事はパニック状態なんだよ。それに、君と私の関係じゃないか!


君はこれまで、疚しい気持ちを抱えつつも、しっかり職務に専念してた。それだけでも偉いよ。


今、それを捨てようとしているのか? 私はこう見えても死神だ。命の取引を繰り返してきた男だよ。ここで君と取引をしようじゃないか。


もし、君がA子ちゃんを救いたいなら、君の命を私がもらう。それでどうだ? 君の魂はあの世で精神的に病んでしまうかもしれないけど、それでもいいのか?


利に聡い貧乏神は、死神の足にヨヨっとしがみついて言った。


「わかったよ、君の言う通りだ。神様なんて呼ばないでくれ。ただの色ボケ耄碌爺だよ。A子ちゃんを助けるために、命を捧げる……。


死神様、私を地獄に連れてって。そして、その時には、ちょっとだけ優しくして。あ、地獄って熱いんだっけ?


もし私が火に油を注ぐようなこと言ったら、もっと熱くなっちゃうかな?でも、君の労働環境改善のためなら、貧乏ダンスを踊る覚悟もあるぜ!」


貧乏神は、死神に手を差し伸べながら、覚悟を見せた。


三十三


二人はしっかりと抱きしめ合い、互いの不幸を静かに慰め合った。貧乏神は、当選クジが入ったツチノコお守りを窓から無造作に投げ捨てた。



ツチノコお守りは小さな声でブツブツ言いながらも、ちょうど通りかかったゴミ収集車に拾われ、夢の島へと運ばれていった。


死神は貧乏神の目を真っすぐに見つめ、「本当にいいのか?」と尋ねた。「二千年以上も働き続けてきたんだぞ」と、軽くため息をつく。


貧乏神は静かに頷きながら、「うん、いくつになっても定年も退職金も年金も約束されていないから、


自分の最期くらいは自分で決めた方がいいよ」と、少し寂しそうに笑った。「次に生まれ変わったら、


人の笑顔を見る仕事をしてみたいけど、まぁ、仕事放棄したから、そんな都合よくいかないね」と、苦笑いを浮かべる。


死神はうんと頷き、何も言わずに鎌を高く振り上げた。そして、無情にもその鎌で貧乏神の胴体と首を切り離した。貧乏神はすぐにキラキラと輝く砂塵となり、風に吹かれて舞い上がっていった。


首が飛ぶその瞬間、貧乏神はふと、A子ちゃんの笑顔を見たような気がした。彼女が命を全うし、


幸せに暮らしていることを心から願う。その瞬間、彼女の笑顔を見て、貧乏神は確信した。


この世には多くの不条理と矛盾があるけれど、それでも人は希望を持って生きる力を持っていると。


穏やかな気持ちで、そのまま首をはねられた。


三十四


A子は昨晩、昼に医者から「お前はもう、死んでいる」と、言われ 家に帰され、横になったが、絶望感と不安から寝られはしないと考えていたけれど、ドロのように寝てしまった。


そして今朝になって、布団の中で伸びをすると、よく寝たー、スッキリしたー、と清々しい気持ちで起きられたので、昨日の出来事がキツネにつままれたようだった。


一連の事件は夢だったかも? と、思ったが、元気になれば金が必要になる。温泉にも行きたいし、引っ越しもしたい。


少し贅沢をするのには丁度いい金額だ。どうせ、額に汗して稼いだ金ではないのだから、楽しく使ってしまおうと考え、ツチノコお守りを探す。


何処にもない!彼女は半狂乱になって、昨日の足取りを辿り、病院にまで行ったが、恐ろしがられて、いぼ地蔵のように塩を浴びせられた。


私はお相撲さんでもありませんよーと、アッカンベーして、帰る途中に交番にもよってみたが、当たりくじを無くした話は真剣に聞いてはもらえなかった。



三十五


ガッカリして帰り、ショックから立ち直れず、ボンヤリと日々を送っている内に日常のペースが戻り


アクシデントも減り、健康も取り戻すと、宝くじはツチノコお守りが、命と引き換えに持っていったんだと思うようになってきた。


あーあー、自分の命の値段は555万円かと思うとおかしくもあった。宝くじを買った日の興奮がよみがえり、


もう一度だけ!とも思ったけれど、縁はないと思い、彼女はもらったボーナスで気になっていた洋品店の株を買った。


その株は見る見る値上がりし、彼女をお金もちにしたけれど、彼女は株を売ることも、贅沢な暮らしをする事もなかった。


なぜなら、また、奇病に掛かった時にそのお金がどんな形で必要になるか分からなかったから。


それに、自分に必要がないならば必要な人に届けたいとも思うようになった。彼女は、棚ぼたな幸せに戸惑いを隠せないでいた。


自分にはもったいないような幸せが、どこか不釣り合いだと感じていた。自分の幸運を誰かに分け与えたいと思ったのは、


もしかしたら、その気持ちの表れなのかもしれない。


彼女は、貧乏神を知らない。貧乏神は砂塵となって神界に戻った。そこで、長年の功績と、人を助けたいと願う心根が神統括センター長に認められ、


準福の神として、彼女の生涯に連れ添い、見えないところで、彼女を助け続けていた。


見えないけれど神はいる。だから泣かないで。見えないけれど神は見ているだからご用心。