ブロ友のコトラーさんが2月9日に、小出楢重展を見に行った、と記事を出されて、「小出楢重かあ、見たいなあ。府中か、遠いわぁ…」と少し逡巡していましたが、一昨日の18日、思い切って出かけてきました。
小出楢重(こいで ならしげ 1887~1931年)
私のお出かけの黄金パターン、平日のラッシュ前に地元を脱出。
現地に早く着いてから、美術館が開くまでモーニングなどとりつつ、時間を潰すつもり。
地元駅を、中央総武線の黄色い電車が発車したのが朝6時頃。今の季節はまだ空が暗い。
車内のお供に連れてきた文庫本も読まず、寝ているうちに乗り換えの新宿に到着です。
ここで、アプリの乗り換え案内に添って、3番線に乗り換えれば府中……。
なのに、なにか変。
JRから一旦外に出て、京王線に乗り換えずに、危うく埼京線で埼玉に向かうところでした。
あっぶな。ふぃ~。
最近よく見かける外人さんは、よく間違えずに乗り換えられるものだと感心しつつ、今度こそ間違いなく府中に到着しました。
(注*つくもさんは、人の顔の認識と、方向感覚に大変難があります。温かい目で見てください)
時刻は8時を少し過ぎたところ。
乗り換えのわたわたでロスがありましたが、2時間かかっております。
下手に、こじゃれたカフェなど検索して移動すると遭難しますので(朝8時じゃ無理ですし)、駅構内のPRONTOでお世話になることにします。
チーズトースト、美味しかった。
サッカーを応援するお店らしく、店内のあちこちにテレビが据え付けてあります。
画面では冬季オリンピックのパシュートと、女子フィギュアスケートの様子が流れていました。
今回五輪はカケラも見ておらず、開催地も知りませんで、前日知り合いに呆れられたところです。
バスの時間があるので、そろそろ移動します。
改札階から外に出ると高架になっていて、バスロータリーに行くには地上に降りねばなりません。
ここは2階なのか、3階なのか?
高架が回廊のようにつながっています。
藤沢駅に似ています。
現在7.3℃。寒い。
この位置からだと、バスロータリーの上が高架の回廊になっているのが、よくわかります。
調べたら、ペデストリアンデッキ(pedestrian deck)と言うようです。
わが千葉でも、千葉駅や柏、海浜幕張、津田沼などがペデストリアンデッキの例だそうですが、千葉駅はイメージ違うな。
さらにAIで調べると、完全円環型、半円環型、馬蹄型、放射連絡型(非円環)といった種類があり、年代や用途で方式が違うようです。
私が似ていると思った府中と藤沢は半円環型で、違うと感じた千葉は放射連絡型…。
すいませんねえ、脱線しないとブログが書けないんです。
府中市美術館の開館は10時。
コトラーさんは駅から「当然」歩いたそうです。なにが当然なんでしょうね。
駅から「ちゅうバス」という、コミュニティバスが、100円で美術館前まで連れて行ってくれます。お安い。
ちなみに運転手さんは氷室京介と1字違いの方でした。
妙にテンション上がったわ。ファンでもないのに。
バスで7分もかかる道を、コトラー女史は歩いたんだって。
でもどうやら、利用できるのは3月までのようですね。
わが千葉市にも、同様の「C-bus」というのがあったんですが、2020年で廃止になりました。
さあ、着きました。一番乗りです。
正確には、一緒のバスで、やはり府中市美術館に来るのは初めてらしいマダムが一緒でしたが、美術館周辺の写真を撮りに行ってしまいました。
立派な美術館です。
何事にせよ、一番になるなど滅多にない機会なので、入口前で仁王立ちで、開くのを待ちます。
ところがです。
入口を通ったのは、確かに一番でしたが、事前にチケットを購入していたらしい男性が、こちらがチケット売り間に向かう隙に、先に会場に入ってしまいました。しくしく。
会場内は一切、撮影禁止なのです。
▼このサイトが、画像がきれいかな。展覧会の雰囲気が伝わります。
ここで、小出楢重の簡単な略歴を。
1887(明治20)年、富裕な大阪の薬屋に生まれ、西洋画の前に日本画の手ほどきを受けます。
東京美術学校(現東京藝術大学)で志望した西洋画科では、木炭素描の準備が間に合わず不合格でしたが、定員に余裕があった日本画科に入学(20歳)することになります。
その後木炭画を研究所で学び、西洋画科に転科。
同校卒業時(27歳)には、西洋画科50人中5番の成績でした。
卒業後は大阪に戻り、文展などへ作品を出品しますが、落選が続きます。
1917(大正6)年 30歳で結婚。
不遇の時代から、転機を迎えるのは32歳の時です。
「Nの肖像」を見た広津和郎が二科会への出品を勧め、これが樗牛賞を受賞。
1921(大正10)年 34歳、渡仏。翌年帰国。
ここから、日本独自の油絵の確立を目指し、本格的に油彩に取り組みます。
風景画も得意でしたが、体が弱く、戸外よりも自然と室内での静物や裸婦の制作が中心となります。
ここから、日本独自の油絵の確立を目指し、本格的に油彩に取り組みます。
風景画も得意でしたが、体が弱く、戸外よりも自然と室内での静物や裸婦の制作が中心となります。
特に裸婦は「楢重の裸婦」「裸婦の楢重」と言われたほど当時から評価が高く、また年を経るごとに芸術性が高められて行きます。
今回の展示では、渡仏前の裸婦とは別に、最晩年に描かれた、最高の境地を示す7枚の裸婦像がコの字型のスペースに飾られています。
そこに立って、まわりを裸婦に囲まれた時の幸福感。
そこに立って、まわりを裸婦に囲まれた時の幸福感。
滅多にできない経験でした。
1931(昭和6)年2月逝去。満43歳4か月。
約180点の展示、一通り見て1時間。じっくり見ると疲れてきます。
でももう少し見たい。
聞くと再入場可能とのことで、一旦休憩することに。
庭が見える、開放的なカフェが、併設されています。
府中の森コーヒーと、小出楢重展限定メニューだという、檸檬バタークリームケーキ(計1050円)で、ほっとひと息。
甘すぎずクリームが濃厚で、自家製らしくずっしりしたスポンジが、ウマウマでした。
さて、糖分と水分を補給し、再入場します。
開場直後は空いていた展示室は、戻ると人で満たされていました。
どうやらこの日曜に、NHK「日曜美術館」で楢重を扱ったらしく、帰りにもバスから沢山の人が吐き出されていました。
訪れている人は、老若男女……と言いたいところですが、若いお姉さんだけ、見かけませんでした。
あとは、若いお兄さんや、中くらいのお兄さん、お姉さん。大きなお兄さん、お姉さんまで、色々。
(若いお姉さんはどこに行ったのでしょう。アーティゾン美術館に、モネを見に行ったのかも。笑。モネ展、大層混んでいるそうです)
やはり再入場して、正解でした。
途中疲れたのと、方向音痴が災いして、目玉作品を見ずに通り過ぎていました。
見逃した作品と、印象に残っている作品を中心に、もうひと巡りします。
見逃した作品と、印象に残っている作品を中心に、もうひと巡りします。
1928年「卓上静物(西瓜のある静物)」
ガラス大好き人間、小出楢重らしく、果物が盛られたガラスのコンポートの質感が見事です。
置いたら、ゴトリ、と音が聞こえそうな、重さと厚み、ちょっとヒンヤリしていそうな温度や空気感まで。
どうして油絵具でここまで表現できるのか…。
また、スイカの赤を抑え、下に並んだ野菜を暗くすることで、視線がコンポートに向かうようにされています。楢重はこういう計算が、とても上手い。
また、スイカの赤を抑え、下に並んだ野菜を暗くすることで、視線がコンポートに向かうようにされています。楢重はこういう計算が、とても上手い。
1930年「六月の郊外風景」
適当な画像が無いのでまた図録の写真ですが、本物とは比べようもなく、色彩が違います。
実物はこの100倍は良いので、まだ期間は残っている(3月1日まで)ので、可能なら見ていただきたい。
実物はこの100倍は良いので、まだ期間は残っている(3月1日まで)ので、可能なら見ていただきたい。
夕方のほんの一瞬。
夕日が落ち、空が紫がかった色に変わる時。
6月の湿気を含んだ空気が、少し温度を下げた頃。
勢いのある緑の上にも影が落ち、じきに黒くなるでしょう。
実際の絵は手前が暗く、視線は空に誘導されます。
が、そこを黒々とした電線が遮ります。
楢重の絵は、湿度を感じさせるのが特徴なのですが、この絵には時間も閉じ込められています。
静物も風景も裸婦も、構成が緻密で、光の方向がはっきりしており、影も画面構成の重要な要素です。
だれもが評価する裸婦は、意外なところで苦心しています。
西洋画では、室内の裸体がさほど違和を感じさせないのですけど。日本家屋内での裸体は、そのままでは不自然に見えてしまいます。
周到に工夫を凝らし、寝台や厚い敷物、絨毯などで画面を区切り、横たわる女性は大抵、向こうを向いて、視線が鑑賞者とぶつからないようにされています。
西洋画では、室内の裸体がさほど違和を感じさせないのですけど。日本家屋内での裸体は、そのままでは不自然に見えてしまいます。
周到に工夫を凝らし、寝台や厚い敷物、絨毯などで画面を区切り、横たわる女性は大抵、向こうを向いて、視線が鑑賞者とぶつからないようにされています。
西洋人とは違う、日本人の骨格と肉付き。
健康的な肌の色、しっとりした質感。
健康的な肌の色、しっとりした質感。
エロスとは無縁の、地母神のようなふくよかさ。
(有名な映画監督が、日本の女優は裸で横たわっていると画になる、と言いませんでしたか?)
図録と、ミュージアムショップのお土産
外に出ると、朝の、雲が一面に広がった空が嘘のように、ぽかぽかした陽気に変わっていました。
まるで楢重の裸婦のように、明るく暖かな空でした。


















