ウィングまん
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アツシパート3

「僕がですかっっ?!」

お客の居なくなったホストクラブでひきつった声がする。

ストライプの入ったクリーニングしたてのスーツを着た男が驚いた様子で叫んだ。
ウィングだ。



その声を聞き、店の奥で皿洗いをするヨレヨレのダブルのスーツを着こなす、ちっちゃいヤクザ風味な男がニヤリと笑う。
アツシだ…。



「ウィングも入ったばかりの頃、連れてってもらったやろ?」



(あんたが行きたいって言い出したんやん…あんとき俺、帰って寝たかったし…)


「ほら、思い出したか。」



「あー…思い出しました。」(めっちゃ眠かった事をね!)



…その日、ウィングが同伴をいいことに開店前の店ではアツシが他の先輩ホスト逹やオーナーに策略を仕掛けていたのだ。



「やっぱり、一度はピンクのお店に行かないとホストとしてダメだと思うんすよねぇ~。」

「この辺だとやっぱり名古屋の錦がいいってヘブンに書いてありました!」


「ウィングさんとなら歳も同じなんで、ウィングさん連れてってくれないっすかねぇ~?」


アツシの言う事は筋が通っている。


ホストクラブと言う所は一般の昼の仕事の子も遊びにくるが、そこはやはりホストクラブである。
キャバ嬢、ピンク嬢が大半を占めており話題も仕事についてのストレスなど必ず自分の仕事についての話をしてくる。逆に昼間の仕事をしている子は自分の仕事の事を言いたがらない。
その為にキャバ嬢やピンク嬢の席についた時、その子の仕事について話をしてきてもアツシは

「へ~そうなんすかぁ~」


「い、一緒に風呂入るんすかっっ?!」


「やべっ!たってきたっ!…」


としか、言えないのである。


これではアツシの息子が立っても、会話が成り立たないのである。



事態を重く見たオーナーはアツシの要望どうりウィングに「アツシを名古屋に連れてって☆」と言うお使いを言い渡したのである。


「ピンクなお店に連れていくのはめんどいけど経営者としては経験を積ませてあげたい」オーナーと、「オーナーと行くのは気まずいけどピンクなお店は行きたい」アツシ…
二人の利害が一致した瞬間であった。


こういう時だけ頭の回転が早いアツシであった。


ウィングはピンクなお店に行く為のお金を客から上手く集め、アツシは行く店を決める為のピンク雑誌をコンビニから集めた。


後日、二人は名古屋の中区錦三丁目のとある店にいた。


女の子のプロフィールを食い入るように見つめるウィング…



一人の女の子が目に止まった。


アリサ
20歳
Cカップ


写真を見る限りではかなりの美人。そこから逆算して三割引きでもまだ美人だ。仕事柄、ウィングはピンク嬢は平均三歳サバを読んでいると言う。
三歳足しても23歳…
当たり障りない。


そしてCカップ。
ウィングの持論では巨乳=デブである。
Cカップは当たり障りない。

「我が選択に一片の悔いなし…」


ウィングはアリサをチョイスした。


一方アツシは、ウィングの再三の忠告を無視し、23歳のFカップ巨乳が売りなチカをチョイスした。



待合室で自分の順番を待ち構えるアツシとウィング…

普通、初心者は緊張してしまいそわそわしたり固まってしまうらしい。


しかしアツシは初心者にも関わらずかなり落ち着いた様子である。
缶コーヒーのBossのおっさんみたいなダンディーな顔をして無料のコーヒーを飲んでいる。

(こいつ…将来相当なタマになるで…)


ウィングはコーヒーを啜るアツシの横顔を見つめてそう思ったらしい。


「ってかアツシ、ホントにあの子でいいんけ?セオリー道理に行けば…」


「いいんすって!ウィングさん黙って爪切って下さい。」


アツシはウィングに爪切りを渡す。


アツシ曰く、無料のコーヒーを飲み、爪を切り、本棚に置いてある「美味しんぼ」を読みながらモチベーションを高める。
これがプロの待合室での過ごし方らしい。


一話完結型の「美味しんぼ」はいつ呼ばれるか分からない待合室では適している。
待合室は張り詰めた空気の流れる神聖な場所…
ペラペラ喋り他の客の気を散らすのは最低の行為だ…


ゴルゴ13のように寡黙に過ごす…


これが男のマナー…


「待合室に入った時点で戦いは始まってるんす…」


ピンを除外するとピンクなお店初日にも関わらず、すでに悟りを開いたアツシであった。


(俺の目に狂いはなかったな…)


「おーい竜馬」を本棚にしまい「美味しんぼ」を手に取りながらウィングは感じた。

自分の順番を待ちながら「美味しんぼ」を読む二人の「やらしんぼ」。


ウィングが呼ばれ席を立った。通路にいるアリサはそこそこ美人でスタイルは抜群であった。
(当たりだっ☆)


次にアツシが呼ばれた。
目の前にはウクライナの重量挙げの選手のような体格をした20代後半の女性が立っていた。
(えっ?!………なに…………このアスリートは…)


アツシはアスリートに手を引っ張られ部屋に強制連行された。


一時間後……

待合室でコーヒーを飲みながらアツシを待つウィング。


しばらくして通路からアツシとヘ×ス嬢が歩いて来たので一目確認する。


(きっつ~……だから言ったのに…)


アツシとヘル×嬢は親しげに手を繋いでいる。


次の瞬間アツシは予想だにしない行動をとった!


別れ際に×ルス嬢にキスをしたのだった。


アツシは僅か一時間の間にB専になってしまったのであった。この一時間の間にアツシの身になにがあったのであろうか…
なにがアツシを駆り立てたのであろうか…
この日を境に「ゲテモノ食い」の道を歩むアツシであった。

彼は一時間で二発の快挙を成し遂げた。

ピンク嬢曰く、初心者は立たないことが多いと語る。


初心者にも関わらず一時間に二発という快挙を成し遂げたアツシ…
プロ初打席初ホームランを打った清原にも、負けず劣らずの大偉業である。


「もう一発はいけたっす…」

大偉業を成し遂げたにも関わらずまだまだ満足の足りないアツシ…


この悔しさが今後アツシを成長させるバネとなるのだ。


この日、錦三丁目に一人の変態が産声をあげたのであった。

アツシパート2

200X年…7月




AM2:00



岐阜市のとある歓楽街…



気持ちよく酔ったサラリーマンやお店から見送りをするお水の人達。



昼と夜では別の顔をもつ歓楽街にスーツに身を包んだ二人が歩いていた。



「ちょっとコンビニ寄っていいすか?」





彼の名は、仮にアツシとしよう。



彼はつい最近、ピン××嬢に失恋したばかりであった。



…ホストなのに。
これからキャッチをする予定。



「なんか買うん?」



こう返すのは、ウィング。アツシの先輩ホストだ。キャバ嬢の客を迎えに行く予定だが途中までアツシも一緒についてくるらしい。



「いや、買うっつーか見たい雑誌あるんす。」



二人は近くにある赤ローソンに入った。



この時間帯のコンビニはキャバ嬢やホスト、酔ったバージョンのサラリーマンなど夜のお店に関する人達がほとんどだ。
アツシ達もその仲間だ。



アツシはコンビニに入ると一目散に雑誌コーナーの一番奥に陣取った。




そう、ピンクな雑誌ばかりある、大半の人は見てみぬフリをするコーナーである。



「アホか!そんな暇あるんなら女の子に声かけろて!」



ウィングの言う事は最もである。



アツシは新人ホストであるためにお客がいないのである。



「違うんすよ。これっす!ヒヒッ」



気持ち悪い笑い声を出しながら見せてきた雑誌は「ヘブン」であった。



ヘブンはキャバやホストなどのお水系や、ピンクなお店など夜のお店の事ばかりを載せた六法辞書並みの分厚さをもつピンク雑誌である。もちろん、大阪プリンものっている。
ちなみにウィングも一度ヘブンに載せて貰ったことがある。




「なんやー、ヘブンにピン××の娘載ってて見たいんか?ん?」



「ち、違うっすよ!…載ってますけど…」



ウィングはアツシが失恋したばかりなのに平気で傷口をほじくる心を持つ悪魔であった。




「俺、ピンクなお店行きたいっすっ!!!」



アツシは気持ちの入ったアホみたいな大きな声でウィングに言った。
アツシは普段から声が人より2、3倍大きい。理由はよくわからないが本人の中では普通に話していると言う。


このコンビニと言う比較的狭く囲まれた「場所」、普段から大きな声のアツシが気持ちを込めた為により「さらに大きな声」、そして俺、ピンクなお店きたいっす!と言う「アンニュイな言葉」



この3つが組み合わさり、なんのへんてつもないコンビニに爆笑の波が襲った!



ウィングは100のダメージをくらった!



たたかう
どうぐ
まほう
はなす←
にげる




「ちょ、やめろて!笑われとるやねぇか!大きい声だして、どんなけピンクなお店いきたいんやて!!」



ウィングとアツシは逃げるようにコンビニからに出た。


(こいつホントなんやの?頭大丈夫か?急にコンビニの客、全員に今の気持ちをカミングアウトするし、平気でピンク雑誌持ちながら街中歩くし………………って、なんでやねーーーーんっっ!!!)



ウィングはとっさに地元にあるアピタの屋上から「なんでやねーーーん!」と朝日に向かって関西弁で叫びたくなった。



それは、アツシの手には未だにヘブンがあったのだ。まるで初めから自分のヘブンだったかのように左脇腹に大事に抱えられている。



もしこれが、トルネコや風来のシレンだったら今ごろ店主にボコボコにされているだろう。



そうでなくてもこれは立派な窃盗、万引きである事には間違いない。



普通、万引きをする際は店員や客がいない時や見ていない隙をついて物を盗るはずだが、アツシはその逆で店員や客をあえて自分に注目させて笑いで判断力を低下させたうえで堂々と物を盗ったのだ。
これこそ、逆転の発想である。



「一応聞くけど…お前……ヘブン買ったん?」



「え?買ってな……あーーっっ!!!」




またもや注目を浴びる二人。夜中と言えど腐っても繁華街である。人が少ないわけがない。



「うっさいんやてぇー!もぅお前本当のヘブン(天国)行けて!はよ金払ってこい。」



ウィングはそう言うとスーツの内ポケットからお金を出してアツシに渡す。
アツシは特に驚いた様子もなく普通にお礼を言ってまた赤ローソンにヘブン所持状態で入っていった。



ホストは上下関係が非常に厳しい。例え歳が上だろうが下だろうが売上で全てが決まる。
自分より上のホストにはパシリや店の掃除、悪口や酒を沢山飲まされたりなどのイジメなど普通にされる。自分の方が価値が下なのだから。

しかし、先輩のホストは後輩ホストの面倒をみないといけない。
飯代からタバコ代、交通費などとりあえず一緒にいた場合、後輩ホストが買う物は全部先輩ホストがお金を出す仕組みなのだ。少なくとも彼らのお店はそういった決まりであった。だから、後輩ホストもなにをされても文句を言えないのだ。



無事、ヘブンと言う魔性のアイテムを手にいれたアツシは後日大人の世界にまた足を踏み入れるのであった。




最後に…万引きとかけまして、他の人の恋人ととく。



その心は?



「人のものはとっちゃ(盗っちゃ)だめ。」

アツシとピンとマシュマロ

お水時代の時に当時、アツシと言う後輩がいました。オーナーとアツシと僕で飯食ってマシュマロ店に行った話なんですが。(マシュマロはアレの事だよん)


最初はオーナーと僕とアツシで飯を食ってたんですね。




アツシはまだ入って一週間くらいで僕の知り合いの高校のツレでした。




当時、従業員を募集してたので知り合いに探してもらい結局彼はお水をやりだしたんですが…



仮に名前はアツシにします。見た目は165センチあるかないかで短髪にライン入れてて、見た目はちっちゃい893です。見た目は。




彼は飯食ってる時に「最近、彼女出来たんスよ。ウヒッ」



「おー、やったやん。何やってる子なの?」




「ピンっす」




「まじでっ?!」


「まじでっ?!」




あまりの衝撃にオーナーと言葉が綺麗にハモったのも気付かないくらいでした。



その直後はまるでザ・ワールドがかかったかのような状態。オーナーと僕が動かず、アツシだけが黙々と飯を食うという動作をしている。




(こいつ!スタンド使いかッ!!)



入って一週間のちっちゃい893風味のお水がピンとはいえ、××嬢を捕まえる快挙をなしとげたのだ。

ピンがわからない人はお父さんかお母さんか僕に聞いてみてね☆


人は見かけで判断しちゃいけない。この言葉の意味が初めてわかった気がする。



「う、売り上げアップやな。どう落としたん?」




「んー店には呼びたくないンスよ。本気なんすよ。前から指名してて連絡先聞かれたんで交換した翌日付き合いました。」




…なるほど。そう来たか。そうです。アツシはバカなのです。




さらにアツシは語り出しました。



「週3は通ってますね」




「お水やる前にチャリで初めて行きました」



「仕事やめたいらしいんで、今お金いるらしんスよ」




(お前客やんけッ!!!!)





アツシは純粋で…社会の汚れを知らなくて…見たものを全て信じちゃう…そう、いいカモなのです。




(本物のカモでもこんな簡単に罠に引っ掛からんでッ!)




結局、オーナーと僕とで「お前は利用されてるんや!」

「ぶっちゃけ写メそこまで可愛くないやん!」


「もうそいつと連絡とるな!」


「この娘、歯茎出過ぎ!笑」

と説得し、アツシもしぶしぶ了承したもよう。



まさかのお水がカモられる。アツシは将来お気にのお水嬢の誕生日に、あげるための花束を持って街中を平気で歩ける素質を持ち合わせていると僕はにらんだ。
その後のアツシは心なしか元気がない。





飯食った後、オーナーが行きたいのかアツシに元気をあげるためかマシュマロ店に連れていってくれた。



場所は22号線沿いにある一宮の大阪プリン。この店は東京プリリも系列でマシュマロ好きの方には人気をもつお店です。



ピンは週3で通ってたがマシュマロ店は初めてなアツシ。このワクワクと初めての緊張感がたまならかった。と、後日談。




オーナーの広い顔のおかげでサービス・タイム中にも関わらず入店した。
店によって違いはありますが、サービス・タイム中に来店した場合終わるまでまたされます。



入店したアツシは驚愕した…




アツシの視線の前には憶千のマシュマロがあった。



サービス・タイム中という事もあり女の子全員の上半身がワァーオであった。



日常生活でこんなに沢山のマシュマロを一気に見ることなんて思春期の夢の時以外はまずない…



まるで無数のマシュマロに睨まれているかのようだ。
アツシはJr.がお元気になるを忘れて口をアホみたくあけ突っ立っていた。



いや、アツシのJr.はお元気になっていた。ジョジョに奇妙にスタンドしていた。


アツシのJr.には、確実に生命が与えられていた。



アツシはあまりの衝撃の強さに「Jr.がお元気になっているという事実」にすら到達出来ずにいた。




「これが、ゴールドエクスペリエンス・レクイエムの力かっ……!!」




アツシは思わず叫びそうになった。




(ジョジョ読んだ事ある人しか分からないネタですんません)
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