いつも診察の時に
必ず思い出す事がある。


今、共に癌と闘っている方々には

あまり気持ちのいい話ではない事を

許してください。


僕の母は7年前に亡くなった。

享年72歳。



母は胆管がんの手術をしてから

経過観察で5年が経とうとしていた矢先

体調不良で病院で検査入院。

がんの再発。そして肝臓に転移。

元々、白血球の数値がかなり低く

抗がん剤を試してみたものの

すぐに白血球の数値が下がって中止。

その繰り返しだった。


母が病院へ行く時は

僕はいつも母に付き添っていた。

そんなある日の診察での事… 

1月の初め頃の話。


診察室に入るなり、

大学病院の先生からいきなり

母は余命宣告を受けた。


「統計的に見ると持って8ヶ月です。」と医師。


「え、それは余命という事ですか?」と僕。


「もし抗がん剤治療ができたとしても

   変わりません、どうされますか?

   うちは積極的治療をされない患者さんは

   緩和病棟がある病院へ転院を薦めています。 

   次回診察の時まで考えておいてください。」   


今1月だから9月という事?…   


いきなりの宣告だったので

僕は唖然としてしまった。

しかし母は毅然としていた。

ように僕は見えた…  


だがその時、僕は母の手を見た。


自分で自分の手をつねっていた。

痩せ細ったその小さな手を

母は自分でつねっていた…  



このやり場のない気持ちや動揺、

しかも体調も悪い中

こんな話をいきなり聞かされ

自分をつねる事で

自分を傷つける事で 

平常心を繕い、装って

我慢をしていたのであろう…  



診察室を出て、

僕は母に何て言葉をかけていいのか

全くわからなかったけど、

母の顔は少し笑みさえ溢れていた。


帰りに処方せん薬局へ寄り

母が順番を待っている間、

僕は外へ出て余命宣告の事を

姉に電話報告をした。

僕は姉の声を聞いた途端

泣き崩れた。

涙がとまらなかった。

涙ってこんなに出るんだ

って言うくらい

泣いてしまった。


そして母が薬局から出て来た。

僕は必死に涙をこらえて

何事もなかったように

取り繕った。



母は僕に

「いつも一緒に来てくれてありがとうね。

帰りは何食べて帰ろうか?」 


母という人はそういう人だ。 


お母さん…