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『色づく世界の明日から』アニメメイキングセミナー

2019年3月16日(土) 14:30~16:00

 

引き続き登壇者は

篠原俊哉監督

秋山有希キャラクターデザイン・総作画監督(P.A.WORKS)

山本輝アニメーションプロデューサー(P.A.WORKS)

のお三方。

 

第二部(90分)の構成

Ⅰ 第1話アバン(冒頭)

Ⅱ テーマ別(構図・位置関係/表情・シルエット/光と影/シルエット)

Ⅲ 象徴的な演出

Ⅳ 話数での対比(第1話と第13話)

Ⅴ まとめ・メッセージ

質疑応答

 

「Ⅰ 第1話アバン(冒頭)」について

●「地味な作品」なのでモチーフをなるべく入れることを心掛けた。

●カット(C)1-2

・唯翔の絵のモチーフとなっている(1話の最後のプレイメージ)。

●C3-4

・階段上る早さに気を遣った。瞳美の性格を見せるシーンであり、足元だけで性格をどう画に乗せるかがポイント。膝のクッションや軽やかではない歩き方に瞳美の心情が表れている。

・同時に坂の街であることを提示している。

●C5(二人で花火を見るシーン)

・瞳美と母の関係性の提示。

●C9(カラーの映像がモノクロに切り替わるシーン)

・モノクロの重要性を提示するとともに、モノクロの視点が今後どう変化するのかしないのか

●篠原監督はかなり練って考えたが、振り返ってみると凪のあすから14話の冒頭とかなり被ってしまっていて反省したとのこと。

 

「Ⅱ 構図・位置関係」について

●1話C156(将たちが瞳美に声を掛けるシーン)

・人と人の距離感を演出している。

・瞳美と将たちの間に街灯を置くことで瞳美の外部に対する心理的な境界線を表現している。

・一方で、胡桃はこの街灯を一瞬で超えて瞳美の側に行く。動きや髪のなびき方でも彼女の積極的な一面が見て取れる。

・あさぎは遅れてきて柱の手前で止まる。

・瞳美は地図を手前に持って防御感を演出している。

・「地味な作品」なので、こういう積み重ねを大事にしている。

 

●1話C198(まほう屋という異空間)

・まほう屋に続く道をトンネルを通すことで、特別な空間であると示す。結界や鳥居などのような役割だと思ってもらえれば。

・建物も周りを植物などで閉ざした感じにして、唯一開けているのが海側という構造にしてある。

 

●二人の対話シーンをどう描くか

・お互いの体の向き、距離、高低差や光がどこに当たっているかなどの要素の組み合わせで表現する。

・2話C232(瞳美が唯人に絵を見せてもらうように頼むシーン)では、唯翔が背中を見せて、瞳美が唯翔を見ている:瞳美から唯翔に向けての気持ちが強い。

・一方、3話C235(唯翔が着替えてきた瞳美を呼び止めるシーン)では、瞳美が背中を見せて、唯翔が瞳美を見ている:唯翔から瞳美に向けての気持ちが強い。2階から降りるときは影に入っていて、一旦光の中を通るがまたすぐ影に入っているという光と影の演出もある。

 

●瞳美の気持ちの共有

・上記の続き、唯翔が瞳美の背中越しに語り掛けるシーンで、瞳美は唯翔の方を見られないでいるが、背中が瞳美の心の障壁を表していて、色が見えないという秘密を守りたいという気持ちの表れである。

・そこから振り返っての笑顔は偽りであることが、こういった流れから視聴者が汲み取りやすい。

 

●無表情の表情

・瞳美の成長を描くため、1、2話は特に無表情にしてある。2話の最後の笑顔に持っていくためのもの。

・1話の花火を観に行くシーンで声を掛けてくるクラスメイトとの距離感に気を付けた。いじめられているというわけでも嫌いというわけでもないが、積極的にかかわろうという関係性でもない。なので怒っているような表情にはしたくなかった。すぐ目を逸らす仕草などで表している。また、眉毛の描き方で印象が変わるので気を付けた。

・3話のプール事件の後の無表情は、やっぱり魔法を使わなければという表情。

・とはいっても感情がないわけではないので表情の変化はある。ビックリしたとしても目を大きく見開くわけではないので、その辺の表現は試行錯誤した。

 

●プール掃除をしているシーンでの各キャラクターのシルエットについて(3話)

・瞳美は自己肯定感が低い性格なので腕や足は開かない。あさぎも似たような感じなので差を意識した。

・唯翔もあまりオープンな感じではない。逆に千草や将は活発な感じが出ている。

・こういったキャラクターが小さい描写ほどシルエットが大事になってくる。

 

●夜の屋上のシーンについて(4話)

・瞳美と琥珀は正反対で、瞳美は手を前にして脚は開かないのに対して、琥珀は基本的に(このシーンに限らず)手を前に組むことはなく、腰に当てたりしている。

・屋上の柵に肘を置くシーンがあるが、最初は少し色っぽく見えてしまう描写になっていたものを変更した(琥珀だけ本作において恋愛要素がないため)。

 

●街灯に明かりが灯るシーンについて(2話)

・独りで星を出す魔法を使っている瞳美をたまたま通りがかった将が見つける場面で街灯が灯るが、これは将の心の中に瞳美への恋愛感情が芽生えたことを示したもので、音響さんに頼んでわざわざ点灯時の音まで入れてもらったのに、SNSなどを見る限りあまりうまく伝わらなかったので反省点であるとのこと。

 

●光と影

・祈念坂をはじめ、路地のような幅の狭い坂ばかりで、こういった坂は太陽が少し傾くとすぐに影の中になってしまう。そして、開けたところだけが光があるという状態になる。影の中の色に注意して、本作においてはマゼンタを多用している。

・1話で瞳美をまほう屋に案内する際に、みんなが写真を撮りに走っていってしまうシーンがあるが、光の中にいる写真部のメンバーと影の中に取り残されている瞳美との対比が描かれている。

そのまま放置するといじめているようになってしまうが、この後すぐ胡桃が瞳美を光の中から呼ぶことで救われている。

 

●キャラクターのシルエットを光によって立たせる演出(2話の最後、唯翔からまた魔法を見せてほしいと言われた後の「魔法なんて大っ嫌い」と呟くシーンの瞳美の横顔)について

・横顔のシルエットに気を遣った。顎の下の部分に抜きを作って光を入れたり、背景の色を凄く明るくしたりしている。横顔が本当に美しいと監督の自画自賛。

・表情も良く見ると少し笑っていて、嬉しい気持ちの表れが見て取れる。

 

●色彩をどう作中に組み込むか、という試みについて

・縁日の色彩感について(1話C35~)、縁日はとにかく色をたくさん使った。そのことにより色のない世界の瞳美との対比を際立たせている。

・色に溢れる縁日と比較して、琥珀と待ち合わせている場所は色彩の中になく、背景もグレーを帯びていることで瞳美の孤立感を表現している。

・縁日のシーンの中でも特に印象的なガラス細工が並んでいるカットは、多くの色を使っているのに統一感があり、深度ボケが絶妙で非常にクオリティの高い描写になっている。対象との距離感やボケ具合が違ってしまうとリアリティが無くなるのだが、撮影の方とは「さよ朝」で一緒にやっていたこともあり、そういった微妙なニュアンスのコンセンサスが取れていたので非常に助かった、とのこと。

 

●色を使った距離感の演出について(5話C209~)

・先述の通り、2話では瞳美から唯翔へのベクトルが、3話では唯翔から瞳美へのベクトルがあったが、5話で二人の距離が少し詰まった。その距離感の演出として、全体の色を「灰色の世界を見ている瞳美」と「色が溢れる世界を見ている唯翔」の両者の中間に設定した。彩度の低いちょっと淡い世界であり、黒レベル(画面の一番暗い所)が高めに描かれている。

・このシーンに限らないが、逆光ハイキーをシーンに応じて使い分けている。

・ちなみに、瞳美が渡した青い星砂の色には非常に鮮明な青を使っている。

・二人並んで立っているシーンでは、唯翔が心情を吐露する場面なので唯翔のリラックス感を出している。重心をちょっとだけ右にずらして寄りかからせていることで表現している。

・次の絵を楽しみにしていると告げるシーンでは、瞳美の髪のハイライトに海のキラキラがよくなじんでいて綺麗。

・唯翔の絵が特別であると話すシーンでは、影の部分にはハイライトを入れず、光の当たっている部分にだけハイライトを入れている。

 

●あさぎと瞳美が仲直りするシーンについて(10話C31~)

・全体的に彩度を抜いてグレートーンにすることでぎくしゃくした雰囲気を表現している。そして、仲直り後(二人で甘いものを食べるシーン)は彩度を戻している。

・あさぎが自己嫌悪に陥るシーンは曇天なのに影の中にいる。

・瞳美があさぎに声を掛けるシーンの距離感やお互いの体の向きも二人の気まずい空気を表現している。

 

「Ⅲ 象徴的な演出」について

●モノクロのコーティングが取れていくシーンについて(13話)

・10話で瞳美が描いていた絵には真ん中に川があるが、コーティングが取れると下には川が描かれていない(人間は描かれている)。

 

●胡桃の心情描写について(7話)

・7話は割と分かりやすい演出が多い。特に出港する船を撮るために走り出すシーンは分かりやすい例。

・キャンプ用具を捨てて走るという「物理的な側面」を描くことで、胡桃が「心理的な重し」を取り払って走り出すことを示している。

・また、走っていくうちにそれまで黒かった山肌が背景だったのが明るい街並みに変わっていくのは、胡桃の美しい心情を示している。

・余談だが、このシーンの走る絵が非常に素晴らしいので是非観返してほしい。

・これも余談だが、出港の時の写真を撮ろうとロケハンの時も試みたものの、距離感を誤って撮影に失敗してしまった。そういう意味で7話の描写は実話である。

 

「Ⅳ 話数での対比(第1話と第13話)」について

●1話と13話は時系列的には繋がっている。琥珀の視点からすると行って一瞬で帰ってきていることになる。

・花火は、1話では瞳美の見る世界の色の無さの象徴として、13話では成長と色覚を取り戻した瞳美を祝福するかのように描かれている。

・まさに最初の企画のキャッチフレーズで使っていた「気持ちひとつで世界は変わる」ということを地で行くシーンであると言える。

 

●1話で琥珀が立ち止まって花火を振り返るシーンについて、初見では何ということはないシーンだが、1周して改めて観返すとこのシーンの琥珀の表情の意味が分かるのではないか。

 

●バスの降り方の比較について、1話は恐る恐る降りているのに対して、13話では飛び降りている。ここを降りればどうなるかが分かる、経験がもたらした行動と言える。

 

●ハグについて、1話は琥珀から瞳美にしているのに対して、13話では瞳美から琥珀にしている。瞳美の成長を示す象徴的な演出。

 

●クラスメイトとの関係についても、坂で出会うという同じ状況で瞳美から声を掛けるようになっている。

 

「質疑応答」

●2話で瞳美が「もう一度唯翔の絵を見せてほしい」とお願いした時に唯翔の絵を映さなかった理由は?

→絵を見せてもらうのは2回目なので、1回目の繰り返しになってしまうと意味がない。また、作品を観ている人に参加してもらうというか、感情を共振してもらわないと楽しめない作品なので、全て提示するような演出はしていない。

 

●金の魚についての演出上の役割は?

→魚は心理学的に無意識の象徴であるとされているので、魚を使おうというのは初めの方から決まっていた。ただ、その解釈については観ている人によって変わるし変わってよいものだと考えているし、こちらから押し付けるものではないので、一応意図はあるがそれを示すことはしない。

 

●60年後の世界の設定について

→現代と60年後のギャップは面白い要素だが、作品的に前面に押し出すものではない。ざっと想像したものを書き出して、入れられたら入れるという感じにしてある。例えば空を飛ぶ自動車などはあり得るかも知れないが、そういうのを描くとSFっぽくなってしまい、それが嫌で作中のような演出や設定にした。

 

●唯翔がアナログではなくタブレットで絵を描いている理由は?

→現代っ子なのでタブレットでも違和感はないということと、唯翔の家は母子家庭なのでアナログの高い画材を買うのは大変だろうということでタブレットにしてある(自分でバイトしたお金で買ったものという設定である)。

 

●3話くらいからスケジュール的にも相当制作が苦しかったと思うが、監督にとってどういう作品になったか?(永谷さんより)

→絶対に手放すわけにはいかないし、終わった後に「またこのメンバーでやろう」と言える現場にしたいと思って取り組んで、そうなったのではないかと思っている。

 

以上です。