名篇「月と六ペンス」で知られる
英國の作家W. サマセット・モームは
MI6のスパイとしての顔も
近年著名に
僕は、007の上司「M」には
モームの面影があるな‐
中東戦争の種を蒔いたのは彼‐
勝手に思ひ込みを抱いてゐる
ゲイである/小説通だつた/孤児時代/顔をこんなに持つて

ご苦労様、モームさん!
#詩

 

羊齒生ひ茂る湧水地
‐清澄な水の中
野生の山葵も生えてゐた
どんな味がするのか?
僕は大事にそれを折り取つた
だが、夢では
夢では味までは分からない
僕は何となく夢の中で夢想した
野趣溢れるその味
僕は羊齒を踏み踏み小髙い山を降りた
心がひりつく
舌の替はりに
夢でも苦味だけは分かるのだ
#詩

 

僕は何くれとなく世話してくれる
女人ニヨニンを探してゐるのです
稲垣足穂の奥さんとなつた人は
使用濟みの原稿用紙を集め
その裏に足穂の文を
書かせたと云ひます
貴女と僕とでは
駄目と駄目がかち合つて
穏便に行きさうにない
足穂はお蔭で傑作が書けたのです
二度目の人生に
踏み出せたのです
#詩

 

詩とは、詩的現象を総括する謂ひであり、この場合の詩的と云ふ言葉は、私的、とほゞ同義語である。それならば詩は藝術ではないのか?藝術とは、何かしらの感動を人に傳へるものではないのか?ギヴアップだ。僕の頭が惡いと云ふより、問題が難し過ぎる。たゞ中途半端な事は云へない‐ 要はこれが詩。#詩

 

冷たい骸ムクロのやうになつた
女の子の形をした物を
掻き抱き、僕は
泣いた
嗚呼、東京の水に溺れさうになつたら
帰つておいでよ
大埼玉に
坂戸發、徒歩で約2時間
東秩父村に至る
思ひ出ははきとせぬ
茫洋たる埼玉
冷タイ骸
待ツテ
僕は何にでも參加する方だつた
勿論テニスコート裏の
喫煙にも
#詩

 

一杯のグレープフルーツ・ジュースで蘇る
甘みも包含するそのほろ苦さ
アメリカ資本の傀儡なのだ僕は
それは「お化けだざう」と
シーツを被つて子供を嚇す
そんな男の
だうしても
と云ふ氣分
水呑み百姓の血が
色濃い 誰も相手にしない
したくないこの男
白髪を金髪に染めるか
ブロンドの吸血鬼!
#詩

こゝに來て
膝の上に坐つて
膝の上からの
きみの含蓄ある男評を
訊きたい
こゝに來て
僕はきみのさり氣ない
でしやばらない
おつぱいが好き
きみがバツイチだと聞いて
弟子入りしたくなつた‐
僕の女性遍歴よりも
それは輝いてゐる
出産の經驗がある
膣の經驗は
僕にはない
こゝに來て
愛を垂らして
#詩

 

死神、画商
藝術家の死はカネになる
死に際に何點か繪を買つて置く
やがて没年の後何年かすると
画家の許容され得る時代が來るかも知れず
愛情を以て愛を語るより
Money honeyを以て語る
逆に生きた画家と付き合へば
血を吸ひ盡くされる
可能性もある
所詮他人だ
僕にはこれ以上を語る
膂力はない
#詩

 

のつぺりした自由だ
僕の顔をしてゐない
自分と云ふ
嫌らしい迄に
嶮岨な山脈を越えてきた
あの自由の顔をしてゐない
ピアスを外し、ピアスをまた着ける
その間に挟まる
沐浴なる時間帯
そこで流してしまふ
自分の垢
自分と云ふ垢
僕は気付く
のつぺりとした自由の國は
自分‐
だが遅い
やり過ごす
#詩

 

どんな経緯だつたか忘れたが
H.院長は僕に
「ロリコンは髙尚な趣味だよ」
と云つた事がある
醫者の癖に煙草は喫ふ
不用意な言葉も口走る
瘦身の彼
穏やかに語る面を打ち出し
何とか患者の興味を惹いてゐる
僕のDr.ロバート
嗚呼人間味‐
ニンゲン業が大變だと云ふ理由は
彼の勞作たちで
一目瞭然だ
#詩

 

〈闇汁や數寄者小判を忍ばせる 涙次〉
冬の笑まひは仄暗い
燈しは細くていゝ
大體、それで通る季節だ
ねつとり文學論する夜更けでも
一年の疲れは隠せず
手早く帰りの支度をする
そんな輩ヤカラに同情する
家が待つてゐてそれで良し
とされるのが、冬なのだ
夜食に饂飩でも拵へて
‐が余計な
暮れ

#詩

 

〈寒柝の夜を纏へる親チカしさよ 涙次〉
彼は離れ星
一人カレーを食べてゐる
石化した思ひ出が
彼の心に居坐る
I come and stand at every door...
死んだ少女
そして疑問符が
彼の心を舞ふ
なるべく矛盾を多く織り込むこと。
洗練された or 剥き出しの?
???
思ひ出せない‐
詩の作法のみ殘る
#詩

 

彼らはファッションモデルで皆貧しく着回しの事しか考へてゐなかつた
スタイリストは職掌柄助言を與へたが誰も彼女の提唱するスタイルに従はなかつた
彼らは一様にフェラーリに乘るのを夢見たが彼らの多くは運轉免許証すら持つてをらず
彼らは貧しいファッションモデル一様に長い手脚が邪魔だつた
#詩

 

ランボオは明らかに
佛文學の發展に寄與しやうと云ふ氣が
彼の戀人より尠なかつた
だからと云つて
彼は能く愛された男娼の
つもりもなかつた
彼の詩には秀才は秀才なりに、なる

衒ひはないが
その知識は男娼のそれとは違つていた
男娼のそれ‐
一夜の上がりの何割をヒモに回すか
と云ふ事に盡きる
#詩

 

Churchの靴は手作りで堅牢だ
但し重い
何故僕のやうな貧乏人が
この髙級品を持つてゐるか
市の福祉バザーで¥100‐で賣られてゐたから
これは畸蹟に近い
見逃さなかつた自分を褒める
危ふく人に盗られる處を
さくつと拾ひ上げ
僕にしては上出來である
もう一度
Churchの靴は手作りで堅牢だ
但し重い
#詩

 

赤い靴履いてた女の子
異星人さんに連れられて行つちやつた
確かに東京星は異星だつた
それからきみは
情死的なエクスタシーを持つてゐた
と思ふ
叛面とても堅実な生活人だつたのに
不思議な人だ
異星できみが話す言葉が
当時の僕に通じたかだうかは分からない
今では僕も
「パピポピ」と喋るんだ
#詩

 

僕はこの一家に育ち
一流の何かにならざるを得ず
詩の道を撰んだ
多分間違ひだつたのだらう撰擇
僕自身は髙卒だし甚だ凡庸な男だ
たゞ付いて回る形容が
美々しいと云ふに過ぎぬ
飽くまで形容詞に留まる
我が才氣は自ずブルーズと化す
それをしも一流の身のわざくれ
と申されるなら
多分さうなのだ
#詩

 

凡人56歳
大事に大事に
「私腹を肥やす」
確かに腹は大切なのだ
手鹽にかけた人生が詰まつてゐる
そして顔
丸みは年輪なのか
それとも‐
もしも太宰のやうな三十代でピークを迎へた才人が
僕の齡まで生きたなら
彼の物問ひたげな實は冷酷な
温顔はだう変貌したか
彼の腹は爛熟したらうか
それとも‐
#詩

 

あの人の博識が慾しい!
と云つても
返つてくるのは
お前には詩がある、だからそれで自得せよ
と、そんな言葉ばかり
〈子供らの鏡開きや甘く待つ 涙次〉
本当は甘く待つてゐたのは
お年玉だけ
なんてドライさは
僕には馴染まない
僕はお人好し
詩がある
それをよすがに何とか本当の
年明けが來る
#詩

 

日本海沖に暖流があり
それに彼は潜ると云ふ
二つの世界
鈍色と
原色
僕が不屈の詩人である為に
彼を取り込む
僕の胎内
母となり、僕は二つの世界を
持つ‐
鈍色
原色
彼の荒野が
僕の中で生きる
滿目の冬
彼は僕の中で生きる
一つの殺意が
母である僕の裡
解消される
不屈の詩人
だ、僕たちの歌よ
#詩

 

 

●川崎都市狼(かはさき・としらう)
1968年埼玉県生。埼玉県立坂戸髙等學校卒。
詩集に都筑郷士(つゞき・くにを)名義【『強霜が』とその他の詩篇】(22年・二月の雲雀舎刊)がある。