すき
スキ
好き
すキ
スき


いくら並べても伝わらない。いくら叫んでも届かない。どんなにあたしがあなたを愛していたとしても、この気持ちがあなたに届くことは一生ない。

わかっているの。ちゃんと頭ではわかってる。でもね、心がそれをわかろうとしてくれないのよ。理解したくない、知りたくないって叫んでる。
いつか奇跡が起きて、あたしをあなたの側に導いてくれる神様が現れるかもしれない。そんなお伽噺のような夢を描いて、抱いてるから。だから拒むの。だから手を伸ばすの。

あなたへと伸ばすこの手は、絶対に掴んでなんかもらえない。
見えない壁に遮られて、すぐそこにいるあなたに触れられないもどかしさに涙する。

毎日毎日、あなたを思って過ごす日々。
日に日に増すこの想いは、もう爆発してしまいそうなくらい積もりに積もっているの。

たすけて

愛してるの

辛い

あなたしか見えない

苦しい

胸が張り裂けそうなこの想いは、いつしかあたしを壊していった。

あたしに辛い現実しか与えない神様がとても憎らしく感じた。
いつまでも夢を見てないで大人になりなさい、そう口酸っぱく言う親が目障りになった。
姉ちゃんおかしいよ、なんて言う彼女持ちの弟が鬱陶しく思えた。

こんなに愛してるのに、まるであたしが居ないかのように、あたしの存在があなたの中に無いことは百も承知なのに、愛するあなたが酷く恨めしくて。

気付いて
お願いあたしに気付いて

見えない壁に隔てられ、届かない声を懸命に出した。

ボロボロと情けなく溢れて止まない涙。
ぼやける視界であなたが振り向くことはなく、あたしに背を向けて走っていく。

いや、行かないでッ

壁を叩いても叩いても、あなたは気付かない。どんどん背が小さくなっていくだけ。

置いていかないで
あたしも連れていって

踞り叫んでるあたし。きっとはたからみれば滑稽だろうな。情けなく大泣きしてすがり付くように叫んでるんだもの。

嗚呼、今日も気付いてもらえなかった

ベッドに潜り込み、また今日も枕を涙で濡らすのね。



胸が高鳴る度にお腹の底がキュッと縮むような感覚がする。
これがなんて感情なのか知らない。

きみの笑顔を見る度に、つられて笑んでしまう。
これがなんて感情なのかわからない。

きみの姿を見つける度に視線が自然と追っている。
これがなんて感情なのか知りたい。

廊下ですれ違うだけで、胸が満たされる思いになる。
担任に頼まれた仕事できみの教室へ行くだけで、頬に熱が集まる。
授業中、ふと窓からグラウンドへ目を落とせば見えた体育中のきみの後ろ姿。つい目で追って授業なんて二の次。

こんな想い、初めてで。
自分が自分でなくなるような感覚がして怖くて、このよくわからない気持ちに蓋をした。
けど、蓋をしただけじゃどうにもならなくて。ましてや余計にこの気持ちに拍車がかかった気さえした。

この気持ちに名前があるのなら、知りたいな。

知らない今は、ただ胸に広がる満ち足りた想いを大切にしようと思います。


*真紅羅*

振り向けばきみが笑った。
ふわりと、綿毛のように柔らかく。たんぽぽのように温かく。
胸がぽわりと熱を帯びる。そしてその熱は瞬く間に身体中に広がり、まるで春の太陽に照らされたような温もりをくれた。

今日はどこへ行こうか

きみは小首を傾げて楽しそうに言った。それにぼくは笑みを浮かべ、いつものとこへと返す。するときみは、またぁ?なんて口では非難するけれど、顔にはとても楽しそうな表情を浮かべるんだ。

また、だよ。すきでしょ、あの場所

そうぼくが言えば、きみはひまわりのような笑顔を満面に浮かべて頷く。

さぁ、行こう

きみはぼくより二歩手前まで駆けると、ぼくの左手を拐う。そしていたずらな笑みで言うんだ。

足遅いからあたしが引っ張ってあげる!

素直じゃない言葉。
いつもいつもそう言って、楽しそうに嬉しそうに笑うんだ。
きっと、きみだけじゃない。ぼくだって同じだろうな。気付けばいつも弧を描いている口。弾む胸の鼓動。

ほら、見えてきた

きみが真っ直ぐ前を見て言う。
少し小高い丘の上。大きな一本杉を見て。








——ああ。今日も綺麗な空だ

一本杉の木の下で、今日もぼくはあの日のきみを想う。



*真紅羅*