上遠野浩平
しずるさんと偏屈な死者たち
しずるさんシリーズ

富士見ミステリー文庫より発刊されているミステリー小説。書き下ろしの「騎士は恋情の血を流す」以外は、短編集の形をとっている。


僕が持っているのは
しずるさんと偏屈な死者たち(画像左)
しずるさんと底無し密室たち(画像右)
しずるさんと無言の姫君たち(画像中央)

ここに、
騎士は恋情の血を流す(書き下ろし)
しずるさんと気弱な物怪たち
が加わり、現在刊行されているしずるさんシリーズが揃うことになる。さがそうかな。
カバーイラストは椋本夏夜が担当している。
とにかく可愛い。絵柄が可愛い、着ている服も二人の顔も可愛い。

元は、僕が中学生の頃に亡くなった、大好きだった親戚のお兄さんが本棚に並べていたもの。お兄さんは百冊以上本を持っていて(ほとんどライトノベルスだったけれど)、お兄さんの本棚にはまだたくさん本が残っているそう。この本はその中から、お兄さんの弟さんが持っていっていいといってくれた。

以下、ネタバレあり

ストーリーは、よーちゃんとしずるさんの二人の会話で展開していく。
しずるさんは重い病気で長く入院中。数少ない見舞い客であるよーちゃんは、しずるさんのために、しずるさんのお見舞いに来るときは「事件」も持ってくる。世の中で起きる不思議な事件、不可解な事件。しずるさんが興味を示すのは、そんなものばかり。
病院から出られないしずるさんのため、よーちゃんは、現場へいったり警察に聞き込んだりと奔走する。

僕がこの中で特にすきなのは、何れも「しずるさんと底無し密室たち」に収録されている、
しずるさんと吸血植物
しずるさんと7倍の呪い
の二話。

吸血植物では、ムシトリナデシコという実在する可憐な花が登場する。どこにでもあるような、アスファルトの道の脇の草むらで、白いムシトリナデシコに囲まれた、ミイラ化した死体が見つかる。「この“白い花の密室”は決して破れないのよ」と、事件の真相を考えるよーちゃんに、しずるさんは諭す。

7倍の呪いでは、聖書に登場するカインという青年の話がわずかに語られる。それと共に、ハウス・オブ・メディチクラフトというカードゲームをしながら、過去に起きた「メディチクラフトの悲劇」と言う事件を紐解いていくことになる。「それはもう過去の事件で、もう終わっていて、人がそこに付け加えられるものは何もない」と、しずるさんは最初に念押しする。

この短編集の間には、「はりねずみチクタのぼうけん」という、よーちゃんが昔気に入っていた、おもちゃの時計のついたはりねずみの人形の、可愛らしいお話が入っている。よーちゃんとしずるさんが、二人で話ながら、穏やかで暖かい物語を紡いでいく。

しずるさんシリーズは、事件は凄惨なものが多くても、二人の会話に「犯人を追い詰める」と言う意思がないので、妙な安心感があって、落ち着いてゆっくり読める。個人的には。
しずるさんシリーズ、買いそろえようかなぁ。なかなか見つからないけど。