「夏への扉」/扉の外には… | 旧・日常&読んだ本log
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- ロバート・A・ハインライン, 福島 正実
- 「夏への扉
」
図書館のリサイクルコーナーから拝借してまいりました。
自分の中で、このタイトルは古典的SFとしてインプットされていたので、へっぴり腰で読み始めたのだけれど、SF的出来事が描かれるとはいえ、そんな風に怖がる必要もなく(バリバリのハードSFは苦手なんです…)、楽しく読むことが出来ました。
The Door into Summer.
実に印象深いこの「夏への扉」というタイトル。それは、主人公ダニイの猫、ペトロニウス(ピート)の性癖に由来している。
忌々しい冬が来ると、ピートはダニイに家中の扉をあけるように迫る。たくさんある扉の内、どれか一つは夏へと通じているはずなのだ。何度同じことを繰り返し、それが失望に終わったとしても、ピートは夏へと続く扉を探すことを止めなかった。
そして、この1970年12月の3日。ピートの飼い主であるダニイもまた、夏への扉を探していた…。自らが立ち上げた会社を乗っ取られ、発明は取り上げられ、旧友にも婚約者にも裏切られたダニイは、人生の冬を迎えていたのだ。自棄になったダニイは、冷凍睡眠(コールドスリープ)に入って、この現実をやり過ごそうと考えるのだが…。
技術一辺倒のダニイとは異なり、経営を任されていた旧友マイルズ、秘書兼オフィスマネージャーであった元婚約者のベルは、遙かに強かであった。とうとう、ダニイはベルによって、直前に取り止めようとしていた、30年にも及ぶ冷凍睡眠(コールドスリープ)へと押し込まれてしまうのであるが…。
窮地に陥りっぱなしだった、ダニイの反撃には胸がすく。
30歳になるダニイだけれど、何よりも発明を愛する技術者だからか、年齢から考えるよりは、ちょっと子供っぽいところもある。であるからか、ちょっと変形の青春物語にも読めちゃうんだよね(30歳の青春小説って、ちょっと薹が立ってるかもしれないけど)。
ダニイの夏への扉は、希望へと繋がっていた。手酷い裏切りにあったダニイだったけれど、人間を信じることを止めず、復讐に血道をあげることもなく、最初に読者の前に現れた時の腐った感じから、瑞々しく生き返ったよう。ま、最初は信じていた二人に手酷く裏切られたせいで、ちょっとおかしくなっていたのだけれどね。このなんだか瑞々しいところにも、やっぱり「青春」を感じるのだ。
相棒のピートも素敵! でも、ジンジャーエールを舐める猫なんて、ほんとにいるのかしらん。ジンジャーエールを飲む猫がいたら、それはどこかの扉を開けてやって来たピートなのかもしれないね。
2000年を迎えても、ダニイが発明したような機械は未だ現れてはいないけれど、そのネーミングも含めて、彼の発明した機械は魅力的。実際にあったら、私も欲しいよう。笑 にしても、彼の機械の重要なパーツの一つである、"トーゼン記憶(メモリー)チューブ”って、原語ではどうなっているのでしょうか…。やはり、これって、日本製品なのか?(この頃のメイド・イン・ジャパンは、どういうイメージだったんだろう。安かろう悪かろうからは、脱却してる?)
古い作品で、今では”未来”として描かれた時代さえ追い越してしまったけれど、全く古さを感じさせることなく、今でもキラキラと輝いているような物語。楽しかった!