「穴」/Stanley Yelnats | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。

ルイス・サッカー, 幸田 敦子, Louis Sachar


Stanley Yelnats。前から綴っても後ろから綴っても同じ名前を持つ、スタンリーはいつだって「まずい時にまずい場所に」いる少年。実は「ツイてない」のはスタンリー一人だけの問題ではなく、スタンリーに至るイェルナッツ家の四代にわたってずっとそう。ちなみに、回文調の綴りが気に入ったイェルナッツ家の者は、この名前が大好き。息子は代々「スタンリー」と名づけられた。

初代スタンリー・イェルナッツ。つまりこの物語の主人公、スタンリー少年のひいじいさんに当たる人物のみは、その後に続く「スタンリー」のような負け犬ではなく、株で大儲けした人物だと、スタンリーの母はツイていない男どもを励ます。ひいじいさんは確かに成功したのだけれど、ニューヨークからカリフォルニアへ移る途中、無法者<あなたにキッスのケイト・バーロウ>に襲われて、身ぐるみをはがされた。ために、スタンリーたちは豪邸で生活するわけにはいかず、「ツイてない」まま貧乏生活を送っている。スタンリーの父さん、発明家スタンリー三世が現在熱中しているのは、おんぼろスニーカーを再利用する方法」だ。

さて、少年スタンリーは、やってもいない盗みのせいで、「グリーン・レイク・キャンプ少年院」に送り込まれる。グリーン・レイクとはいうものの、湖とは名ばかり。その昔、百年以上も前には、テキサス一のとても大きな湖があったのだが・・・。荒れ果てた不毛の大地で、熱と埃にまみれながら、スタンリーたち収容された少年は、毎日ひとつ穴を掘る。更生のためであると、所長たちは言うのだけれど、これは一体何のため?

この「キャンプ」では少年たちは、奇妙なあだ名で互いを呼び合う。スタンリーに付けられたのは、<原始人>というあだ名。<原始人>スタンリーは、一族に伝わる呪いの言葉、あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんのせいだ!」を吐きながら、ひたすら穴を掘り続けることになる。

イェルナッツ一族に伝わる呪いの言葉は、実はあながち間違いではない。スタンリーのひいひいじいさん、ラトヴィア生まれのエリャ・イェルナッツと、マダム・ゼローニの約束。山のてっぺんにある、上に向かって流れる小川。更にはスタンリーのひいじいさんが襲われた、<あなたにキッスのケイト・バルトロウ>が生まれることになった、グリーン・レイクの町でかつてあった悲しい恋の話。後にケイトとなるキャサリンの作る絶品スパイス入りピーチジャム、キャサリンと恋に落ちたサムのタマネギ畑。タマネギの匂いを嫌う、恐ろしい黄斑とかげ。<巨大な親指>(ビッグ・サム)に見える、山の上の巨岩。

一体何のことやら?、と思うこれらの断片が、全て重なり合ってピタリとハマる。

「ああ、もしも―」キツツキはため息ついた。
 「木の皮がほんのちょっぴりやわらかければ」
  その下で、ひとりぼっちの腹ぺこオオカミ、
   じれて、吠えたよ、おつぅ~きさまに。

「ああ、もしも―」
 ああ、もしも―。月は語らず、ひたすらに、
  映し返して、陽を、影を。
   立ち上がれ、疲れた狼、力をこめてふりかえれ。
    翔べ、小さき鳥よ、宙はるか、
     たったひとりの、わたしの天使。

あなたはどちらの歌が好きですか? 私は意味が分からないけど、おつぅ~きさまに」というフレーズが気に入ったので、上に引いた方。原語だとどうなっているのかなぁ。

ぐるぐる回って、ぴったりハマッて。奇妙な味わいだけれど、非常に面白く魅力的な物語。スタンリーの名前も回文だけれど、物語そのものも回文調の趣き。

この本は、「
喜八log 」の喜八さんの記事で知り、図書館で借りてきたものです。
ご紹介、ありがとうございました。

 ■喜八さんの記事はこちら→『


*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

■「みすじゃん
。」のおんもらきさんの記事にリンク