去年のゴールデンウィークに

雛を助けた

田舎に田植えを手伝いに行ってたんだ。

羽毛もなくて裸で小さくてね

地面に転がってるのを見つけたの

ピーピー鳴いてるのを見たら

ほっとけなかったんだ

心がどうしても助けたいって感じた

周りにいた大人は、

野鳥を拾うのは禁止されてると言ったし

野鳥の雛に死ぬものがあるのは当たり前と言った

けど、私の心は全然違った

この醜くて弱くて得体の知れないものが

親をもとめて一生懸命ピーピー言ってるのが

どうしようもなく可愛く思えた

私に世話をさせて欲しいって思った。

きっとこれも縁だと思った。

だから手のひらで温めながら

車で2時間かかる家まで連れて帰ったんだ。

朝早くから、暗くなるまでしょっちゅうご飯をあげなきゃいけなかったけど

あまりにも弱そうで、目を離した隙に死んでるかもしれないと思ったら怖かったから

側にいるのは苦じゃなかった

その子は勝手にスクスク育った

目も空いてないくせに

巣箱を汚さないように

お尻を持ち上げてフンをするのに感動した。

生きる術をすでに知ってるんだなって思ったんだ。

だんだん羽が生えてきてやっとシジュウカラだと分かった

何週間か前は

丸裸だったのに

とても立派な尾羽が生えてきて

すっかり飛べるようになった

私はいつまでも世話をしてあげることはできないって思ってたから

羽が揃ったら外を飛ばしてあげた

その子は家の近くを飛んでまわって

時々私のところにきてご飯をねだった

きっと、大きくなったら

近くの山の鳥と仲良くなって

来年は子育てするかもしれないねって

旦那さんと話してた

でも、死なせちゃったんだ

ちゃんとは確認できなかったけど

ぱったり来なくなって

私があんまり甘やかしたから

その子は警戒を知らなかったんだ

シジュウカラの親は危険が来たら

ちゃんと鳴き声で警告するけど

私にはしてあげられなかった

死なせるくらいなら

外に出さなきゃよかったと思ったよ

閉じ込めておけば良かったと思った

私のせいで死んでしまったんだから

でも、本当に因果っていうものがあるなら

雛が私の前に転がってたことも

私が雛を死なせちゃったことも

起こるべくして起こったことなのかもしれなかった

その子は、私に世話をする楽しさを伝えるためだけに生まれてきたのかもしれなかった。

役目を終えたからまた命の渦に帰っていったんだと思った。

その考えは命を失った私を慰めた。

私にとったら、あの子は火の鳥だったんだ。

たったの何週間かの間に沢山教えてくれたから。

それから1年経って、

この春に産まれた雛を何匹も連れたシジュウカラの家族がうちの庭に来た

鳴き声も、去年私が世話した雛と同じ声で鳴いてた。

私は、あの子と会った後、

シジュウカラの声がどこでも聞こえることに気がつくようになった。

特徴のある高い声は、

瀬戸内海の島々にいても聞こえたし

ブラタモリや大河ドラマを見てる時にもテレビから聞こえてくる

うちの近所にも一年中いる

私は外を歩くたびに

あの子の声を聞いているような気がして

いつも嬉しくなるんだ。

あの子は、生きて戻ってきてはくれなかった。

奇跡のようなことが起こればいいって思ったんだ。

まるで魔法のように、元気な姿が見られるんじゃないかなって期待もした。

でも、生きて戻ってきてはくれなかった。

そのかわり、

私にはその子が近くにいなくても

日本中の至る所で、その声を聞くことができるようになった。

毎年訪れる春が楽しみになった。

朝ゴミを出しに行くだけでも娯楽になった。

最初から、すべての命を救うことができないことくらい分かってたよ。

でも悲しかった。

だけど悲しかったから、その子は私の心の中に居てくれるようになった。

聖書の中のキリストの復活も、

銀魂の中の鬼兵隊に起こった奇跡も

私の心に起こった出来事と同じような気がしてる。

残された人が、"死"を乗り越える時に

どんな風に心が動くかを

あの小鳥は私に教えてくれた。

だから、悲しいことを感じられる心を持っていて嬉しい。

寂しいと感じられる心を持っていて嬉しいよ。

悲しい真っ最中の時は、うちに閉じ込めてカゴの鳥にしておけば良いと思ったし、起こるべくして起こるというなら、それを起こした神様を恨みもしたよ。

でも、今は

カゴの鳥にしておかなくてよかったと思う。

そんな飼い殺すようなことをしなくてよかった。

キリスト教も同じような気持ちを感じた人たちが起こしたのかもしれない。

イエス・キリストという一人の人徳のある多くの人に愛された人がいた。

その人は、争いの絶えない貧しい暮らしをするみんなを勇気づけて回ったんだ。

でも、そのために、目をつけられてしまった、キリストの存在が邪魔になった人たちによって

殺されてしまった。

キリストを愛していた人たちや、助けてもらった人たちは

きっとその死を乗り越えるのに大変だったんだ。

沢山のことを教えてくれた人を、自分たちを助けるために死なせてしまった。

その死をどうにか無駄にしない方法を探さなきゃいけなかったし、

その人の言葉を残さなきゃいけなかった。

だから神様にしたんだ。

私の鳥が何処にいても私の心の中にいるみたいに。

キリストも、死んでしまったけど

その死を悼んだ人の心の中で生きた。

聖書には、そのことが書いてあるんだ。

漫画も、聖書も変わらないんだ。

人は、死を恐れて悲しむから

それを乗り越えるために

文字に残したり、口述で伝えたりしてきた。

宗教と言っても、

戒律や教え

がなんのためにあるのかって言ったら

やっぱり

傷ついた心を癒すためだもんね。

キリストは、よほど人望に厚かったんだね。

その死を無駄にしたくないと願った人が大勢いるからキリストは、みんなを愛してくれるんだね。

キリストのために心を開く者が多いから

とても心が広いんだ。

何千年経っても、人の心は変わってない。

悲しんだり、愛しいと思ったり、

大切な人が亡くなることの辛さは変わらないんだ。変わったのは、多少は争いが減ったこと。

とてもいいことだ。

キリストの時代には、ギャグ漫画で笑えるほどの心の余裕はきっとなかっただろうな。

その後も戦争が沢山続いたんだ。

だから、宗教として、教えとして、人の心を癒してきた。

その時代に、必要なことが起こったんだ。

本当にキリストは、苦しい人たちを救うために生まれてきたんだと信じられるよ。

私の小鳥が、私にいろんなことを教えるために生まれてきたのを信じるみたいに。

宗教の解釈を議論することに意味はないんだ。

誰がほんものの神だとか、名前がなんだとか、どうせ真実を知ることなんてできやしない。

でも宗教や経典を知ることは、昔の人の心を知ることだ。

だから、私は聖書を読むのも漫画を読むのも一緒だよ。著者の心の音を聞くのはとても楽しい。

辞典や新書や物語もそうだ。

人が何かを思って、文章に残そうとした。その心を知るのは面白い。

宗教は選ぶもんだと思ってるかもしれない。

なにを信じるかどうか、

でも、宗教はすでに起こったことを教えてくれているだけだよ。その時代の背景によって、なにが起こったのか、人の心がどう変わったのかを教えてくれるだけだよ。

だから、宗教に良し悪しなんてないんだ。

その時の人々の心を知れば

自ずと、自分の心にも神様が宿るもんだ。

神様ってのは自分に利があるかどうか判断して選ぶもんではないんだよ。

漫画を読むみたいに、まっさらな少年の心で読めばいいんだ。

自分の心が感じたことを自分の耳で聞けばいいんだ。

心を閉じていても、相手の話はわからない。

著者が言葉にできなかったことも、あえて言葉にしなかったことも、心で見聞きすればよく分かる。

文章じゃなくて、相手が人間でも

テレビでも、SNSでもそうだ。

悲しさや、辛さや、恥や、恐れや、不安のために

心を閉じてしまったままだったら

私は、あの鳥の死になにも感じなかったかもしれない。

そもそも助けなかったかもしれない。

そもそも、その存在に気付かなかったかもしれない。

いろんな後悔も、何もできなかった自分を卑下する気持ちもあるけど

それでも、会えてよかったと思うんだ。

30歳になってから、まだ2ヶ月しか経ってないなんて！

もう心は婆さんだよォォォ

失うことと、またやって来ること