もう一作品書いたので

これも珠良をつくっている出来事。

羽琉も知剣も律騎も出てないような…?

 

 

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あまい沼
Sympathy
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可愛いことと、素直な事、そして純粋な事。
小学生の頃から私の勉強を見てくれる家庭教師の先生が口癖のように言う私の長所。

今よりずっと嫉妬深くて、毎日絶望していた小学生の私。

(うーちゃんはちーちゃんに、よしよしなでなでされててずるい!って思ってたっけ)

先生はそんな私を可愛がってくれた。
問題が解ける度、えらいねすごいねってなでなでしてくれた。
そうして、私に言うんだ。

先生はね、珠良が大好きだよ。
”可愛いことと、素直な事、そして純粋な事”

1つ教えたらそれを素直に吸収してくれること。
今までこんなに純粋に学ぶ生徒を見たことがないよ。
もうこんなに問題が解けた。すごいね珠良。

ママにもこんなに褒められたことはなかったから、
私はすっかりいい気持ちになった。
差し出される賛辞もお菓子もジュースも甘くて甘くて
どうしても私はふわふわしてしまう。
なでられるのはうれしい。きもちいい。
もっともっとってねだりたくなって、時にはねだって
先生はその度に少し難しい問題を私に出した。

小学生の頃は簡単にほめてくれたけど
中学生になるとそれもなかなか難しくなった。

私はそうして自分が少し周りより要領がよくないことに気付いた。
中学の同級生が簡単に理解できる教科書を何度も読んだ。
時には感情移入して、教科書の物語のよき理解者になったりもした。

幼馴染との関係が変化して不安定だった私を、褒めて励ましてくれた先生。
勉強をクイズにした小さなテストと、そのご褒美。
よくがんばったね、えらい、珠良はとっても可愛い生徒だよ。
ケーキより、人工甘味料のねっとりしたジュースより先生はいつだって甘かった。

しかし先生は中学2年生の寒い秋の日に家庭教師を辞めてしまった。
そんな素振り無かったのに急な話だった。
なぜなのかママに聞いても表情はこわばるばかりでわからないようだった。
パパが、先生は小学生までしか教えられなかった。と言った。

あぁ、そうか。
先生は無理して私に勉強を教えてくれていたんだ。と知った。


それから私は羽琉に内緒で病院に通うことが増えた。
風邪も何も引いてないのに、今はどこも痛くないのに
出血している恋心は病院では治りっこないのだから。

冬になるとママは少し過保護になった。
言い訳を言うみたいに何度も、
珠良と羽琉を愛していると言った。

その言葉もどこか淡白に聞こえた。
きっと私は、先生の甘さを知っているからだ、
知ると抜け出せない、甘い沼のような先生。

先生が私に教えてくれた勉強。
そして何度も言い聞かせた長所。

”可愛いことと、素直な事、そして純粋な事”

私、その長所をずっと大事にするね。