つかみとる実践力~暗黙知を駆動する「平づくり」「丸づかみ」の方法論~ -2ページ目

つかみとる実践力~暗黙知を駆動する「平づくり」「丸づかみ」の方法論~

組織が求めているのは課題を解決する人材だ。 それは新規ビジネスを開拓したり、複雑に絡まった状況を打開してくれる人だ。 そういう力=実践力はどうやったら身につくのか。 理論と実践、熟達者達の観察とインタビューで練り上げた、日常業務から実践力を高める方法論。

皆さま、こんにちは、




今日は仕事で盛岡に来ていて、今ホテルからこの作業をしています。



時々息切れしつつも継続し、今回で49回目となりましたが、「つかみとる実践力」の連載自体はこれが最終回となります。 ”実践の知”とは何なのか、それはどういう形で獲得できるのか。 私自身がずっと考えてきていることは、今日までの内容に入れたつもりです。 実践力をつけたい、仲間や後輩につけさせたい、職場を働き者の学習が起きる場にしたい。 そんな思いを持つ方々に、何らかのヒントになるものが届けられたのであれば、嬉しいです。


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新しい商品開発のサイクルを通じてS君が手に入れたものは、直(じか)のインターラクションを通じて得た生きた情報を手がかりに、自らの仮説をワンランク高い水準に押し上げた経験です。 途中段階では、色々な現実に出くわしました。 言葉では“嬉しい”と言いつつもどこかにもどかしさを感じさせるモニター達の反応、色を変えても新しさは感じない、という率直な意見、パンチがない、いまいちインパクトを感じない、という厳しいフィードバック、そして、KPT結果を正直に伝えた後の先輩方のリアクション。



これらに一喜一憂しながら悩む姿は、働く現代人が共通に持っているものかもしれません。そんな中、先輩の一言から小さな気づきを得て、S君自身の前に新たな世界が現れ出ます。 それは、何か特別に幸運が訪れたという訳ではなく、環境が激変したということでもありません。 変化したのは、S君自身に見える世界の姿であり、それは彼自身の変化の中に出現します。 この世界の出現こそが、S君が新しい「視界」を手に入れた結果です。 世界の見え方が変わることで、仮説そのものが高い精度のものに生まれ変わり、先を見すえた次の行動が見え始めてくるのです。



以前には不可能だったことが可能になった。 この時S君の内側に起きたことは、紛れもない「知」の獲得です。 そしてその「知」は、他者と簡単に共有することの出来ない「知」、しばしば私たちが“暗黙知”と呼ぶ、そういう類(たぐい)の知です。 自ら仮説を立て、外界に向けての働きかけを行い、外部からのフィードバックを受け取って内省を繰り返し、他者ともつながって多重な視点から自分自身の検証を繰り返す。 暗黙知とは、そうした実体験抜きに学習することが出来ない「知」なのです。



ケースの中でS君は、プロセスを通じて自らを取り巻く環境と新たな関係を築いたり、結び直したりしています。 つまり、自身の環境を変化させています。 この変化は、現実との遭遇を繰り返し思い悩む中で手に入れる「視界」の変化とも連動しているものです。 そしてそうした変化の中で自らの信念体系も幾度となく揺さぶられ、やがてはより強化された信念の形成へと繋がっていきます。 信念の変化、関係の変化、知の変化。 事例の中でS君に現れた変化が示唆していることは、人間存在と丸ごとつながる“実践力“の姿です。 これはもう、「生き方」と表現するしかないものなのかもしれません。



“実践力”がただ待っていても獲得できるものでないことは、ここまでで十分示せたと思います。 それは、生き方に引き寄せられて訪れるもの、そう呼ぶのが相応しい人間の力と言うべきかもしれません。 日々訪れる現実との対峙の仕方が集積されたもの。 だからこそ、日々のあり方が問われるのだと思います。



(『つかみとる実践力』 一応の完)




ひとつ補足させて頂きたいことがあるので、それは明日書きます。 引き続き覗いて頂ければ嬉しいです。