髪長私学2 ~第5話~ 心の葛藤

 

ピンポ~ン 「は~い、お入りください」

週初めの月曜日。いつも通りに始まる一週間。坂本が結の自宅を訪れて、チャイムを鳴らす。程なく中から結の声がする。彼女のお出迎えが、坂本にとって頑張るエネルギーになっている。

結 「坂本先生、おはようございます!」

 

 

いつもの制服姿、いつものキュートな笑顔、そして足元よりも長く伸びた艶やかな黒髪。このルーティーンで坂本の心にスイッチが入るのであった。

坂本 「結さん、おはよう!」

噴き出しそうな笑顔を見て、結も笑ってしまった。

結 「先生、どうしたのですか。何か変ですか?」

坂本 「いやいや、ごめん。いつも朝から元気だなあと思ってね」

結 「そう、元気ですよ。昨日も母に褒められたの。勉強嫌いだった結が、ここまで続いているのが不思議だって」

坂本 「そうだよ。先生も最初は思ったよ。いつかは嫌になって、勉強しなくなるんじゃないかってね」

結 「えーっ、先生もそんなふうに思ってたんですか?!」

笑顔から一転して頬を膨らませて不機嫌な表情になった。

坂本 「悪かったよ。だから結さんは良い意味で、周囲の期待を裏切ったということさ」

結 「褒められてるのか、からかわれているのか分からないけど」

最後は苦笑いする結だったが、内心は嬉しかった。それも坂本に教えてもらったことが、よく頭に入ってくる。そして自分でも勉強がこんなに楽しいものだったのかという驚きと感動を覚えているからであった。

 

 

玄関で話をした後、二人は勉強部屋に向かう。結が階段を上がり、坂本がその後から上っていく。毎日、この光景に感動するのであった。

 

階段を上っていく結の足元よりも長く伸びた黒髪が、階段の段差に沿って引きずるように結とともに動いていく。こんな光景は誰もが目にすることができないものだ。何て長い髪なんだ!

心臓の鼓動が大きくなった坂本は、自ら冷静を装いながら授業を始めた。思っていたよりも数学をよく理解している。まだ1か月経ったばかりだが、方程式の単元を終えて、比例・反比例の単元に入っていた。

坂本 「思ったよりも早く進んでいるよ。比例・反比例のグラフも書けるし、変域も求められるようになったからね」

結 「先生の教え方が、とても分かりやすいから。それと苦手だと思っていた数学が分かるようになったので、勉強に自信がつきました」

坂本 「それは良かった。そしたら、このまとめのプリントを仕上げてから休憩しよう」

結 「はい、先生」

結はそれほど時間をかけることなく、すべての問題を解いて正解することができたのである。

坂本 「よくできたなあ! よし、休憩だ!」

結 「やったぁ。先生、休憩は下に降りてリラックスしよう」

そう言って、先に一階へ降りて行った。坂本も後からゆっくりと下のリビングに向かったのである。もう既に休憩モードの結は、大好きなミルクティーを飲みながらリラックスしていた。

 

 

坂本 「何を飲んでるの?」

結 「これ、ミルクティー。大好きなんです! これを飲むと、何だか気持ちが落ち着くの。先生は何が好き?」

坂本 「コーヒーだな。しかもブラック。読書好きでねぇ。本とコーヒーが無いと生きていけない人間なんだ」

結 「へぇー、そうなんですか」

そう言ってから、結が疑問に思っていたことを思い切って聞いてみることにした。それは何かと言うと、ズバリ髪のことである。結が坂本に家庭教師をしてもらうようになって1か月余り。勉強以外にも色んな話をした。しかし、結が自慢にしている長い黒髪については、何一つ話をしたことがなかったのである。

結 「先生、一つ聞きたいことがあるんですけど」

坂本 「数学のことか? それとも英語のことかな?」

坂本は数学と合わせて英語も結に教えていた。だから科目のことか勉強方法のことかなと思ったのである。

結 「違います! 数学のことでも英語のことでもありません」

坂本 「えっ、そうなのか。じゃあ、聞きたいことって何かな?」

坂本がどんな反応をするのか不安もあったが、結の心の中でこのまま見過ごしていられない感情があった。それは時に不思議であり、時に不安になることもあったのである。だから、坂本の気持ちを聞いてみたかったのである。

結 「先生、私が聞きたいことは・・・」

 

 

急に不安になり、途中で言葉を止めた。もし、意に反した答えが返ってきたらどうしよう。そんな気持ちがどんどん大きくなってきた。急に表情を曇らせた結を見て、坂本は驚いた。

坂本 「結さん、どうした? 聞きたいことって・・・」

結は浮かない表情でマグカップを両手で持ち、恐る恐る聞いてみた。

結 「あのね先生。私、ずっと聞いてみたいと思っていたの。私のこの髪、どう思いますか?」

それを聞いた坂本は慌てた。一瞬にして心臓を撃ち抜かれたような衝撃だった。今まで故意に避けてきた話題が、目の前にいる結の長い髪のことだったからである。

 

初めて教室で結を見た時、あまりにも長くて美しい結の髪に心を奪われた。それと同時に、髪フェチとしての感性が芽生え、女性の魅力と言えば、長い黒髪だと確信するに至った。

しかし、それを素直に認められない自分がいた。黒髪超ロングヘアーは女性にとって最高の美しさであると言える。だが、それを公言するのに躊躇いと恥ずかしさが坂本の心の中に同居していた。

結 「先生が私の家庭教師をする条件に、絶対に長い髪を切らないことというのがありましたよね。あの時、とても嬉しかったの。先生が私の長い髪を認めてくれたと思ったから。でも、あれ以来、先生は私の髪のことには全く触れないから。もしかしたら、私の長い髪が好きではないのかなと思ったり、全く興味がないのかなと思っていたの」

坂本 「そ、そうだったのか・・・」

結 「だって、私と初めて会った人はみんな聞くもん。何年くらい伸ばしているの?とか、まだ切らないのですか?とか。でも、先生は私の髪のことを何も聞いてくれないんだもん」

結は自分の長い髪が自慢だった。それが自分自身のアイデンティティーだった。長い髪を話題にしてくれないことが、結にとって自分が本当に認められていないのではないかと思えてしまうのだった。結は泣きそうな表情になりながら続けた。

結 「先生、私の長い髪、嫌いですか・・・」

みるみるうちに結の目には涙が浮かんだ。私と長い黒髪は一心同体。この髪が嫌いだと言われたら・・・。これからは、悲壮感を漂わせながら授業を受け続けるのか。思いを一気に吐露した結は、居たたまれない気持ちで坂本を見つめた。

坂本 「結さん、本当のことを話すよ」

結は動揺した。まさか・・・。やはり坂本は結の長い髪に無関心だったのか。好きではなかったのだろうか。ますます不安が心の中に広がっていった。

坂本 「実は初めて教室で結さんを見た時、驚いたんだ。長い髪が足元まで伸びて、教室の床に広がっていた。こんなに髪の長い生徒を見たのは初めてだった。だから頭から水をかけることに随分と迷いがあったんだ」

結はマグカップを手に持ったまま、坂本の話を黙って聞いていた。

坂本 「そしてお母さんと一緒にウチに来てくれた時、ソファーに座った結さんがとても眩しかったよ。勿論、長い黒髪が一番印象に残っている。あれから1か月、毎回結さんと一緒に過ごしてきたけど、いつもその長い髪が魅力的だなあと思っていた。これが女性の最も美しい姿だとね。

 

今まではそう思わなかったけど、結さんと出会ってからは、黒髪超ロングヘアーの結さんがとても素敵な存在として心に刻まれているんだ。家庭教師を引き受ける条件に挙げたのも、その長い髪をずっと大切に伸ばし続けて欲しかったからなんだ。

 

今まで長い髪を話題にしなかったのは、結さんの長い髪が大好きだということを知られるのが恥ずかしかったんだ。でも、もうそんなことは思わない。今、堂々と言うよ。結さんの長い黒髪が大好きだ!だから、これからも絶対切らずに伸ばし続けて欲しいよ」

結 「先生・・・嬉しい! ありがとうございます、先生!」

やっと坂本に認められたという安堵感と、自分が一番大切にしている長い髪を好きでいてくれることが最高に嬉しかった。悲しみの涙が嬉し涙に変わった。

 

 

心の中にある思いを結に伝えられたことで、坂本も自分自身に素直になれた喜びを感じていた。これで何も躊躇することはない。髪フェチを知られても恥ずかしいとは思わない。美しいものは美しいのだ。そして魅力的なものは魅力的なのだ。これからも素直でいよう。坂本はそう思った。

自ら心の中に打ち込んでいた楔が外れた坂本は、思い切って結に言ってみた。

坂本 「結さん、その長い髪を触ってもいいかな?」

結 「うん。でも先生、ちょっと待って」

 

 

大きく頷いた結は、嬉しそうにブラシを取りに行き、先生に長い髪を触ってもらう前に綺麗に整えておきたかった。長くて美しい自慢の黒髪を、慈しむように丁寧にブラッシングする結であった。

 

※ 画像はイメージです。登場人物を特定するものではありません。

 

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感謝 by Roma Sakamoto