浴びるようにウイスキーを飲んだものの、良いウイスキーだったためか、頭痛はほとんどなく、多少の体の気だるさだけで済んだ。
たっぷりと用意された朝食を平らげていく。
基本朝食べる習慣のない自分も小分けに色々な味が用意されると好奇心が刺激され、ついつい、つついてしまう。
つつくと平らげないと気が済まず、結局、ご飯をお代わりし、膳に用意されたおかずは全て平らげた。


膨れた腹を抱えながら準備をし、バスに乗り込む。

今日は樽焼きと樽詰めだ。

まずは朝礼を。

そのあと、樽焼き場へと移動する。

この樽焼きが迫力満点。

思った以上の豪炎が樽から吹き上げる。
火の粉が舞い上がり、ガラス越しのこちらまで熱くなっていくようだ。

聞けばこの樽焼きの機械も宮城峡工場の職人さんが作ったという。
そして、このために、奨励賞かなにかをもらったらしい。

ただ、樽を丁度いい加減で焼くための機械。
そして、職人の技を忠実に再現し、技術が拙くとも品質の良い樽を作っていく。

そこには昔ながらの頑固な職人の姿はなく、進歩、改善を日々心がけている職人の姿があった。

意外と長かった樽焼きが終わり、
次は樽にタガを入れる前のガマの葉を樽板と樽板の間に詰めていく作業を体験させてもらう。

かんかんかん。
コンコンコン。と
軽快な動作からすると至極簡単そうだ。

しかし、そうは問屋がおろさず、やってみると難しい。

さて、このガマの葉。
なんと、フランスから輸入しているらしい。日本でないわけではないのだが、経費がかかりすぎる。
その昔、余市工場近くでガマの葉を社員一同で刈ったことがあるらしいが、とんでもなく大変だったという。

刈り取って、洗って、乾かして。
それを笹が長くなったような葉で一枚一枚行っていくのだから、想像するだけで気が遠くなる。

この葉を板の間に滑り込ませ、丁度いい塩梅でスナップをきかせて、樽板の角を使って切り取る。

なにせ、正解がよくわからない。

液漏れを防ぐためなら、樽板の隙間にそって入れれば良いのでは?と思ってしまうが、そうではないらしい。

ただ、言われた動きをやれば、まぁ、見本みたいにはなる。
もちろん、あんまり綺麗でないけれど。


そのあと、職人さんがタガを入れて、樽のかたちを整え、最後にこれまた、特製の機械を使って、タガを打ちつけ、樽を締めていく。

一つ一つの作業に携わる人々の精一杯がその都度感じられる。

昨晩、宮城峡に就職してくる人達は、どういった動機の人が多いのか聞いた。
ウイスキーが好きだからとか竹鶴政孝に憧れてとか、そんな言葉を聞きたかったのだが、そんなドラマチックなものはないらしい。当然も言えば当然だろう。

新卒でとる場合などは、地元の若者が勤め口の一つとしてやってくるらしい。

それにしても、過酷な職場だなと想像に難くない。

何も知らないからこそ耐えられるほど長い長い時間がかかってようやく、自身の仕事の成果がわかる。

そして、その成果はその時にしてみれば遠い昔のこと。

次へ次へとウイスキーとともに自身の技術も円熟していく。

現代の仕事に求められるスピード感の蚊帳の外にある世界。

ひたすら朴訥に丁寧ウイスキーを作っていく。
そういう心がけこそが徹頭徹尾叩き込まれるそんな職場のような気がした。



さて、樽の作業を終え、いよいよ、樽詰めを行う。

直前に作った樽を使うわけではなく、あれらの工程のあと、洗浄した違う樽を使う。

鏡板に皆で寄せ書きし、そして、原酒を樽へ注いでいく。
これはあらかじめ、大きな金属製のポットに入れられた原酒をホースで繋がった樽へ注ぐためコックを捻るだけだ。

たまたま近くにいた私が栄誉ある捻り役を仰せつかり、特に上手いことも言えず、一言挨拶して、捻る。

捻ればあとは、待つだけ。

待っている間に、記念撮影。

しばしの歓談。

そして、コルクで封をして、貯蔵庫へ。

この作業も、皆で手分けして転がしていく。

二人一組で行うので、呼吸を合わせないと片側に曲がって行ってしまう。

しかも坂なのでそんなに転がす必要もない。どちらかというとブレーキをかける感じに近い。

ゴロゴロと重くなった樽を転がしていく。

実際に10年後自分が飲むウイスキーを転がしている。
一体どんな時にこのウイスキーを開けるのだろうか?
そんなことを考えていた気がする。

貯蔵庫へ着くと、歴代ウイスキー塾の樽が。まさにそろそろ出荷という10年もののウイスキーもある。

こういった貯蔵庫には電気が通っていない。
理由は火事だという。
確かに、ちょっとした火でも起こればあっという間に全てが燃え尽くしてしまうだろう。

当たり前といえば当たり前の心遣いだが、考えもしなかった。

ここで、これから自分たちのウイスキーの10年が始まる。
聞けばいつでも言えば見せてくれるらしい。
見に来るかどうかはわからないが嬉しい心遣いだ。

最後は職人さんが樽を綺麗に収める。
いつの間にかちゃんと天地を整え、コルクが上に向いている。

これにもコツが必要で、何回転で奥まで転がるかとを目測し、それに合わせて、桟に乗っける前に、位置を調整したりするらしい。

薄暗い貯蔵庫を後にして、最初の会場に戻る。

たった1日半過ごしただけなのに、これでお別れというのが少し寂しい。

席に着くと住所の確認を行う。
これからの10年住所は変わったりするのだろうか?
きっと、この10年で多くのことが変わっていることだろうと思う。
何がどんな風に変わっているのだろう。

そんな見えない未来には怖さすら感じてしまう。

おそらく誰もがそんなことを考えていたのではないだろうか。

そんな空気を感じ取り少ししみじみしていると、最後の挨拶が始まり、修了証を工場長から頂戴する。

これにて、ウイスキー塾は終了となり、
なるとともに、おみやげ屋へ。笑。

少なくなったウイスキーの在庫の中に今年の前半で終売された、竹鶴の12年があった。

目を疑った。一度飲んでとても美味しく、コスパに優れていたので、ためらうことなく購入。

恐らく、売るものが枯渇して、虎の子の在庫だったのではないかと想像してしまう。


ドラマもようやくウイスキーが出来上がり、販売に悪戦苦闘しているところだ。

この先、北海道へ行き、自らが本当に望むウイスキーを作っていく過程が描かれることによって、その精魂込めて作られたウイスキーを飲みたい人が増えてくるだろう。

シングルカスクなどのウイスキーは1人何本までと決められていたし、多分、通販も一次ストップしていたような気がする。

こういうブームは一過性のものだが、より一層ウイスキーが飲みやすくなるのはとても喜ばしい。

次は余市のウイスキー作り体験に!
来年当たりますように。


それでは、だらだらと書いてきましたが、だらだらなりに終わらせることができました。

ここまで、お付き合い頂きありがとうございます。

月並みではありますが、
皆さん良いお年を。