いやはやなんとも、堪らない。

噛めば噛むほど味が出る。

実を言うと、蒼穹の昴シリーズを最高傑作と感じてしまっていたため、浅田次郎氏のシリーズものには手が出しにくかった。

どんな、ワクワクを、というよりも、あの作品は越えないけど、やはり面白かった。と思うに違いないとうっすら感じていたからだ。

しかし、まぁ、私の貧困な想像力を当然の事ながらはるかにしのぎ、登場人物はもとより、その時代にすら愛着を湧かせ、更には、その時代に郷愁すら感じてしまう。

義理と人情の織りなす義賊一家の浪漫譚とでも言っても、ここに現れるまずはの一場面は、パタリと裏返り、パタパタと繰り広げられ終いにはステンドグラスのように窓枠にきっちりと収まり、陽光を通すその様に心を打たれる。

しみじみと職人技に魅入ってしまう。

良き小説には、
現実よりもはっきりとした爪痕を残すものがある。

潰れそうな満員電車ですら、急ブレーキでも踏まれない限り、読んでいる場面が全身を包んでいる。

そして、物語は現実よりもずっと早く時を刻んでゆく。

残すところ、後二巻。