物語はさておき、
読んでいるのか、観ているのかわからないほど、
鮮明に情景が立ちあがってくる。

これが小説家の実力かと思い知らされた作品。

テーマとして、興味が惹かれるものではないし、
徐々に鮮明になっていく登場人物の背景も
私にとってはどうでもよかった。

美しい景色でもなければ、
心躍る話でもない。
車窓からの景色を眺めているのではなくて、
その場に押さえつけられているかのような印象を受けた。

観たくもないし、観なくてもいいけれど、
観る事を強要されている。

興味がなければ忘れてしまえばいいのに、
頭から離れない。

小説家がテーマと文章の対立を狙い、
自身の力量との対決なんじゃないかと思っている。

だから、この本では内容はある意味どうでもいい。
読まされてしまった読者は好き嫌い以前に
著者に力負けしてしまったという事なんだろう。

この著者のもう一冊も楽しみだ。


にしても、今日読んだ『ルパンの消息』は一気よみだったなぁ。



私の男 (文春文庫)/桜庭 一樹

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