ワイルドが言った、自然とは第二の自然である。と言う言葉を思い出す。

人はそもそも見えてると思っているものしか見えていない。

それは何によるのかと言えば、思い込みだろう。
思い込みはその人の世界を作っている。それは、信念であったり、弱さでもある。

見なくても良い部分、見ようとしない部分、見えない部分…そう言った判断自体が既に思い込みにとらわれている事になかなか気付けない。

世界は複雑だが、単純でもある。
それは見方次第だろう。
その見方はいかように養うべきなのか本書は教えてくれる。

元中学の美術の先生がいかに生徒たちの個性を伸ばしたかというドキュメントだが、その内容は固定概念という邪魔者を排除する術としても読み取れる。

題名を読み解けば、
りんごは赤い色をしていないという事になる。

いや、赤だ。と主張するならりんごを見てみる。

そこに今まで見ていなかったりんごの色がある。

だから、りんごは赤じゃないと当たり前の事を彼女は生徒に教える。

いや、教えるというよりも、気付かせる。
草の絵を描かせ、
『本当にこんな形、色をしている?』と問い、外に出る。

本物の草を目の当たりにした生徒たちは驚く。草として認識していたものの多様さに。

上手に書けなくても構わない。けれど、自分に正直である必要はある。
そこで、また問う。
『あなたに見えている草は本当にその絵?』と。


この後、発砲スチロールと紙粘土を使って、果物を作らさせる。

その後には、環境破壊について、解決策を考えさせ、発表させる。

その中で、生徒たちは人に見せる工夫を考え始める。…。


その教育の成果は本書の巻頭にカラー写真で載せられている。
色にしろ表現にしろ発想にしろ、うまいだけじゃない。楽しんでいる事がよく分かる。

その楽しさと言うのは、友達と遊んでいる時の楽しさとは違うだろう。

辛さを乗り越えて、ようやく辿り着ける楽しさ。


岡本太郎の言葉で、
『ピカソを越えようとピカソの真似をしても超えられるわけがない』と。


超えるべきは自分でしかない。
人と比べる理由などどこにもない。
自分に嘘をついていれば何をしていても楽しいはずがないのだから。


教育というのは難しい。
けれど、著者は素晴らしい形で教師が教師足るが所以をここで見せつける。

離婚して36歳から始めたという教員業。
何事も遅くないと言う強い言葉はここでは空回りする。
遅いも早いもない。
『やる』それだけがある。

そうった気迫が授業風景からも伝わる。
厳しくしつけ、思いっきり褒め、相手の事を100%認め、自分で決めさせる、考えさせる。

言葉にすればそれだけ。
けれど、実際やる事にもの凄い気づかいが伴う。


教員だけでなく、親にも、経営者にも勧められる本だと思う。

何度も挫折したスケッチを再開してみる気になった一冊。




りんごは赤じゃない―正しいプライドの育て方 (新潮文庫)/山本 美芽

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