まったく、くすぐったい小説だ。

この著者の作品なら多分大体読んでいる。
大体、前の感想だってそうだった。

『田村はまだか』の立ち読みから始まって、
『他に誰がいる』で充てられて、
この作品でにやにやしている自分がいる。


小説にくすぐられているような感じは初めてだ。
いちいち口元が緩んでしまう。

いやいや結婚したらこんなに甘くはないよと言われるかもしれないし、
むしろその通りだと思う。

だからこその小説なのだけれども、だからこそ思いっきり楽しめてしまう。

まるで、自分が結婚の先輩みたいな目で主人公を追う事もある。
それほどに彼女は浮ついている。

もちろん、彼女はシッカリと家計を切り盛りし、
旦那の大好物のきんぴらごぼうを作る。

彼女はそういったプレイを通して、
奥様もしくは妻になりきろうとしている。

真剣なのだけれども、顔の緩みは納まらない。

なーんかわからないけれどにやにやとしてしまう。

その浮つきさ加減が紙面では納まりきれず
読者に伝染してしまう。

どんなに現実が厳しいのかわからないクセに!!
とこわばった心もいつの間にか丸くなる。

いいじゃないか。幸せで。
いいじゃないか。とりあえず。

何とかしていくのは本人達に任せておいて、
老兵は去りましょう。

そんな心持にさせてくれる。




最後の章では
旦那の目線で物語が進む。

そこにある、

『俺にきんぴらごぼうをまだまだだなと言わせてくれている』

というような一言でこの二人はまぎれもなく夫婦なんだと思わせられた。

ままごとだろうがなんだろうが、二人は夫婦で、まだ絶頂ではないけれど、
間違いなく仕合せだ。



夫婦一年生 (小学館文庫)/朝倉 かすみ

¥560
Amazon.co.jp