影絵の様な物語。

影の喜怒哀楽は身に染みる事がなく、不気味さ、不信感が先立つ。
だから、主人公の行動の一つ一つはどこか不安定だ。

スクリーンが形を変えれば影も形を変える。影の本体が笑っても、影だけしか見れない読者は怒っている様に感じてしまうかもしれない。

それを文章から行間から読み取るのは難しくない。
口ではこう言う癖に行動ではああするみたいなものだろう。

その行間に潜む決定的な齟齬が主人公であり、ついてくるものであり、失踪した夫なのだろう。


ポール-オースターの様に覚えたくなる文章から物語は始まる。
その一行が目に留まれば自然と引き込まれる。読んでいる間何度もその文章を反芻する。そうすると、最後の文章を読み終えた時に影が一層濃く感じる。

センセイの鞄を読んで、行きついた私の真鶴は主人公の影だけが抜け落ちて、蒸し暑い。




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