読んでいて思ったのが、彼が作った住宅は本当に彼が望んだ建築だったのだろうか?

無駄な装飾を省き、自然に、素材に立ちかえる事を目指し、実践したライト。

だが、今までに見た事のある『自由学園』と『帝国ホテル』にそれを感じる事が出来るだろうか?と

自問してみた。

答えは『否』

むしろ装飾がうるさく感じるくらい。

それでも、彼の造り出す空間は居心地の良いものだし、なんとなく懐かしささえ覚える。

しかし、彼の思想と建築がどうしてもマッチしないのだ。

本書に紹介されているユーソニアン住宅等を見るとまぁ、わからなくもない。

落水荘なども自然に溶け込んだ住宅と大好きな建築の一つでもある。


だからこそ、彼のインドの極致的な装飾を髣髴とさせる彼の意匠が腑に落ちない。

大げさに言ってしまえば、自然に堕ちたと。

だが、そんなところには眼をつぶり、本に紹介されているものだけを追っていくのであれば、

そんな不信感は出てこない。

むしろ、これほどの事を考えていたからこその『ライト』なのだろうと思えてしまう。

住むにはどこが良いのかとクライアントから尋ねられたら、彼はこう答える。

『あなたが遠くと思っている、その10倍は離れなさい』と。

都会から離れるのに不自由を感じるのは都会に依存しているからだと言う。

その言葉にふと我に返る。

都会の便利さ、華やかさは決して自主的に選んでいるとは言えない。

流れてきたそうめんだけしか食べていない事に気づいていなかった。

その周りにある自然の食物に目を向けず、清涼感を感じる目先のそうめんに

よだれを垂らしていたのではないかと思ってしまった。

都会は大好きだ。

それはけっして便利だからではない。

街には華やかさがあり、その裏の泥臭さが透けて見えるからだ。

確かに人から離れ、安息の場所に遠くの大地を求めるのも悪くはない。

そんな場所に建てた家を想像しただけで心が躍る。

けれど、住宅の問題はもうそこにはない。

この都会をどのように快適に過ごしていかなければならないかを考えるべきなんだと思う。

ヒートアイランドに、花粉症、問題を解決すると副作用のように別の問題が出てくる。

それを根本的に解決するのは、科学者だろうか?政治家だろうか?

それとも、エコロジストだろうか?


いや、自分は建築家だと思う。


うん、これ良書。





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