ひきこもり新聞編集長の発言です | つばさの会ブログ

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『ひきこもり』の子どもを持ち、何とかしようと役所や関係機関に相談に行っても、親身になって話を聞いてもらえず、挙句の果て本人を連れてきなさいと言われ、何の対策も出来ずにずるずると年月が経過するばかり…

「ひきこもりはメディアに殺された」元当事者が語る、報道の罪

木村ナオヒロ木村ナオヒロ

2019.08.01 コラム

 テレビや週刊誌でひきこもりに対するバッシングが止まらない。きっかけとなったのは、今年5月に川崎市の引きこもり傾向にあった男(51)が起こした「川崎20人殺傷事件」と、その4日後、東京都練馬区で元農林水産事務次官が起こした引きこもり長男の殺害事件だ。

こうした風潮に対し、危機感を抱くのは、自らもひきこもり経験があり、現在は「ひきこもり新聞」で編集長を務める木村ナオヒロ氏だ。ひきこもりに対する世間的イメージはどのように形成され、広まっていったのだろうか(以下、木村氏寄稿)。

変わらない「ひきこもり」への偏見

 ひきこもりは、犯罪予備軍というイメージとともに広まった。新潟少女監禁事件と西鉄バスジャック事件が起きたのは2000年。どちらの犯人もひきこもりとされ、凶悪な事件のイメージが「ひきこもり」に結びついてしまった。

 19年後、川崎の殺傷事件に続き、練馬で元農林水産事務次官が長男を殺害した。ここで再び、2つの事件が「ひきこもり」と結び付いた。しかし、事件はひきこもりが原因だったのだろうか?

川崎の事件は無差別の通り魔事件であり、練馬の事件は家庭内暴力に苦しんだ父親による殺人事件だ。だとすれば、2つは本来、通り魔と家庭内暴力のカテゴリーでそれぞれ考えるべき問題だった。

 ひきこもりという事実は、中年男性、無職、ゲーム、マンガ、TVなどと同じように、事件の背景にあった無数の事実のひとつであって、直接的な原因とは言えない。川崎と練馬の事件をひきこもりに結び付けた報道は「TVを持っていた人が殺人事件を起こしました」と伝えるくらい雑なものだ。

作り上げられた「犯罪予備軍」のイメージ

 しかし、メディアはひきこもりの事件として扱った。根本匠厚労相が安易にひきこもりと事件を結び付けないように苦言を呈した後も、「暴発予備軍は100万人」という見出しが週刊誌には踊っていた。

 なぜ、事件が起きるたびに、ひきこもりが関連付けられてしまうのか。それは、ひきこもりに対する根深い偏見にある。今回の一連の報道は、犯罪予備軍という偏見が20年近く経っても変わらないことを明らかにするものだった。

 では、犯罪予備軍としてのイメージを作り上げたのは誰か? それは、ひきこもりを分かりやすい説明や視聴率に利用したメディアと、宣伝のためにひきこもり当事者をカメラの前に晒し続けた引き出し屋だ。メディアと引き出し屋によって、ひきこもりは、事件が起きるたびに危険な存在として取り上げられ、この過程で悪のイメージを持たれていった。

間違った解決方法を広めたメディア

 夕方のニュース番組の特集などで、ひきこもりに説教をくらわし、寮に連れ出す行為を繰り返していた女性を覚えているだろうか。彼女の名は、長田百合子()。

 2000年代前半、ひきこもり問題を解決する救世主として持ち上げられていた。ひきこもることは許されない。そんな社会の価値観を忠実に受け止めて使命感に満ちているようにも見えた。

 長田が頻繁に取り上げられたのは、親に子供を殴らせる方法が、テレビ向きだったからだ。親が絶叫し、子供を引きずり回しながら何度も殴る。鈍い音と叫び声は、一度でも見れば脳裏に焼き付いて消えないほどだった。

ひきこもりだからという理由で、こんなことが許されるのか? 強い疑問を持ちながらも、番組からは目が離せなかった。このように、TV番組と引き出し屋は、視聴率と宣伝というお互いの利益で結びつき、何度も同じ光景を流し続けた(編集部注:長田氏は20176月に不登校・引きこもり児童に対する指導を終了)。

「支援団体」に殺された事件も

ひきこもりは、暴力を使ってでも強引に引き出して、寮に入れてしまえばいい。そんな素人が思いついた解決策で、2006年、悲劇は起きた。長田の妹で、長田と同じようにひきこもりを寮に連れ出していた杉浦昌子が、男性を監禁し死亡させたのだ(アイ・メンタルスクール寮生死亡事件。杉浦代表は監禁致死罪で懲役36ケ月の実刑)。

引きこもり狩りアイ・メンタルスクール寮生死亡事件/長田塾裁判』(雲母書房)によれば、アイ・メンタルスクールの被害者(26)は、移送中の車内で手足を拘束されて猿ぐつわをされただけでなく、施設内では体を柱に縛り付けられてオムツをはかされていたとされる。

 ひきこもりを強引に寮に連れていくスタイルは、2000年前半には確立され、似たような支援団体が全国で暗躍するようになった。寮に突然入れられたことによって絶望し、自ら命を絶った事例も何例か伝え聞いている。自殺事例は事件化しない。しかし、知られていないだけで、多くの人が施設内で、もしくは施設を出た後に、家族と引き裂かれた場所で、一人で死んでいった。

引き出し屋に「都合のいいストーリー」が生まれた

 川崎と練馬の事件後、TVが頼ったのは、やはり引き出し屋だった。彼らは、事実上抜け出せない刑務所のような施設を運営しているにもかかわらず、「ひきこもりは犯罪予備軍ではない」とTVで解説していた。

 しかし、ひきこもりを犯罪予備軍や悪のイメージに仕立て上げてきたのは、犯罪者のようにひきこもりを施設に閉じ込めてきた引き出し屋だ。

 彼らが、ひきこもりを放置すれば「自傷他害の恐れがある」と視聴者の不安を煽り、ひきこもりの危険性をアピールしてきた。また、自分たちの施設が用意した職場でひきこもりを働かせ、「自分は甘えていた」とひきこもり経験者に証言させてきた。

「ひきこもりは危険で甘えている。だから我々の活動が必要だ」そんな、引き出し屋に都合のいいTVのストーリーを信じ、3か月で500万円、6か月で800万円もする寮に息子を入れてしまった親御さんは多い。

3か月で500万円の業者がTVで解説

 ある女性は、人気フリーアナウンサーが司会を務める朝の情報番組の映像をYouTubeで見つけ、引き出し屋を知った。

「変なところをテレビが放送するわけがない」。メディアを信用した結果、3か月で500万円という金額も「これだけ高いから、息子に良くしてくれるだろう」と考えて契約してしまった。しかし、女性の期待は裏切られた。施設のひどい扱いから息子はすぐに逃げて来て、お金は一部しか戻らなかった。

 こうした引き出し屋ばかりがTVに取り上げられるのは、まともな支援団体が、ひきこもり当事者にカメラを向けることを許さず、取材を拒否するからだ。すると、ひきこもり当事者を使って宣伝を企む自立支援ビジネス業者がTVで取り上げられることになる。彼らはTVで紹介される時は、美談にされやすい。コメンテーターも「こういうところに相談するべきだ」などと無責任に薦めたりする。

 しかし、引き出し屋の実態は美しくない。

TVで紹介されたことのある引き出し屋の被害者で、連れ去られた恐怖のために今でもまともに眠れ無いと話す男性は「基本的には、誘拐に当たるような虚偽の言葉を使って連れ去られ、行かないと意思表明をした人も、引きずられたり、手足を拘束されたり、お姫様抱っこをされて車の中にぶち込まれます」と語った。彼らは、説得や対話を謳っておきながら、説得がうまくいかなければ、本人の意向を無視して強制的に連れ去っている。