憂鬱な季節が来る。

 それは晴れやかな夏を迎えるための溜めの期間でもあり、同時に試練の季節でもある。

『梅雨』と言うやつだ。


 私は風が吹けば倒れそうな見た目に違わず、低気圧というものにすこぶる弱い。

 いつもはプレッシャーをかけられることに怯えて暮らしているくせに、圧が無ければまた弱るのも不思議な話であるが、心理的圧と気圧は別物である。

 ジメジメとカビが生えそうな陰気な性格をしているくせに、どんよりと重たい雲が空を覆えば、途端に頭に緊箍児で頭を絞められた様に脳みそが悲鳴を上げ、身体的機能が体感4割程低下する。

 昔は雨が降れば「今日の体育は室内だ」などと喜んでいたのに、雨を楽しむことが出来なくなるだなんて大人になるということは残酷だ。

 身体的機能が4割も低下すれば体育はおろか勉学も生活もどうにもままならない。

 一日におけるタスクを最低限こなすことでやっと、むしろ「生き抜いて偉い」とハードルが地を這うレベルにまで自己を肯定したくなる。

 それほどまでに気弱体質にとって低気圧というのは強大なる敵である。




 嗚呼、今日は身体が怠く上手く行かなかった。

 部屋に篭り、鎧兜を着たように鈍重な手足を持ち上げることに必死で、また生産性のない日々を消費してしまった。

 きっと今日は気圧が低かった、空も身体のように重たくドス黒い雲が覆ってるに違いない。

 そう思って見上げた時に限って、空は晴れやかな夕焼けが「自分は関係ない」と言わんばかりに笑っている。

 そりゃお天道様の目も届かぬ室内に篭っていれば私が不調に悩んでいることなど知りもしないだろうが、無関心に燦々されてはちとムカつく。

 とはいえ、私も一切の否が無い空に責任転嫁をしているのだから「私の気を遣え」と言われても空は「知らんがな」であろう。

 雲は私を知らず流れていた。

 私は空に唾を吐く。