同じ家具調度を使い、同じ部屋で眠る幸福魔物の粒子を湯のなかに下宿させている。箱根塔之沢温泉福住楼は、明治の創業以来、漱石、藤村、露伴、康成など多くの作家が常宿として訪れた温泉旅館である。常連の福沢諭吉は、福住楼のための引札(広告文)を書き、「温泉の清潔は七湯中第一」と謳った。箱根は古くより温泉場として栄えたところだが、その後、奥へ奥へと旅館ができた。古きよき温泉町の情感を残しているのは、この塔之沢なのである。