私は人間が嫌いだ。中二な発言に聞こえるかもしれない。しかし言わせてもらう。
『わたしは人間が嫌いだ』。
『笹竹 奈菜(ささたけ なな)』。彼女はそう私に名乗った。
笹竹奈菜と聞けば私にだって聞き覚えがある。と、いうよりは、物心さえついていれば知らない方がおかしい程だ。
確か頭脳明晰、容姿端麗。文武両道。といった所謂『天才』で、その名、その在り方以上に彼女の不人気さは異常である。
別に性格が歪んでいるからじゃあない。いや、歪んではいるのだが、その歪みは『私みたいな人』から見れば同情せざるを得ない歪みだ。
聞けば彼女は10才という若さで人間が嫌いらしい。
何かをされたのかと訊ねても首を横に振る。じゃあどうしてかと訊ねると何も答えなく、悪い噂を聞いたのかと訊ねたら表情が少し変わった。
しかし、数秒。静止しているかと思ったら首を横に振りまたうつむいた。
なるほど。とそこで私は悟ったわけだ。
だからと言ってその答えを口にしない。別に意地悪をしているわけじゃあない。明確な回答のつもりだ。
すると、彼女は何も言わずに悟ったような表情をする私に、初めて口を開いてこう呟いた。
「……正解」
ビンゴ。大正解だ。
そう、どうもどうやら彼女は他人の本音が『聞ける』らしい。
いや、『聞こえてしまう』というべきか。
「でもお姉ちゃん、どうしてわかったの……?」
さぁて、ここで明確に答える必要は無いな。思えば良い。
けどまあ答えようかな。
「いやね、私も似たようなモンだから。あなたの話を聞いていてずっと引っかかっていたからね」
残りわずかになったジュースをストローで飲む。ズズズッと音を立ててコップは空になった。
「店員さーん。ジュースおかわりお願いね。オレンジジュースで」
にしても、人の本音が聞こえるなんてまた不便な力を持っていしまって可哀想に。
「今あの店員さん、何考えてた?」
「……お姉ちゃんのこと、変な人って」
……私なら一日だって耐えられないね。
それを彼女は十年耐えているんだ。そりゃあ人間だって嫌いになる。だって彼女には才能があって、その才能の妬みの声を聞かざるを得ないんだから。
「その……力さ、いつ気付いたの?」
「7才の時かな。うん、三年前に」
これまた驚いた。何故7年も気づかなかったんだ。という私の考えを悟ったのか彼女は話を続けた。
「だってこれが普通だと思ったから」
「でも違うって解ったわ。だって、『どうしてそんなこと思うの?』って訊いたら、『何で解ったの?』って言われて。両親に訊いたら慰めてくれたけど、人間は考えたことは伝わらないって教えてくれたけど、だけどね」
「心では私を気味悪がってた。覚えてるもん」
こりゃあ重症だ。私は今まで何人かこんな力を持った人間を見てきたけどもその中の誰より可哀想で重症だよ。
今までの奴等は自らの力に溺れて破滅する奴等ばっかりだったのに。この子ときたら。
使いたくもないいらない力を持って、友達も、両親も信じれなくなって。まだ十才なのに。こんなに幼いのに人間が嫌いだなんて。
「でもお姉ちゃんは私を気味悪がらないんだね。私を呼びだしたから、ほら。またからかわれるかと思った」
「私だってあなたと似た悩みを抱えているからね。気味悪くなんかないよ」
そうだな。彼女の能力。名づけるなら……。
『独身(ヒアリング)』かな。
「ふふっ。変な名前。どうしてそんな名前に?」
「あちゃあ……そっか。心が読めるんだもんね。良いよ、説明してあげる」
私は声に出すのも恥ずかしいので心でこう考えた。
hearって言葉には『聞く』って意味があるんだよ。
その『聞く』は意識しないで聞くって意味でね。道を歩いていたら呼び込みの声が聞こえたみたいな意味で使うんだ。君だって意識して聴いているわけじゃあなくて意識しないで聞いているわけだからね。だからヒアリング。
独身は独身(どくしん)で独身(ひとりみ)と読心(どくしん)をかけててね。
読心することで独身になってしまった……みたいな感じだよ。
……気を悪くしたかな?
彼女は私を輝いた目で見つめた。
「あはは。なんかお姉ちゃん面白いね。お姉ちゃんに会えて良かったかも」
「そりゃあ良かった」
私も、今日は少し、気分が良いかな。
笑顔で手を振り走る彼女に、私も笑顔で手を振り返してその場をあとにした。