水も湯に変わりそうなくらい、ジリジリと太陽の陽射しが降り注ぐ。
直射日光は流石に熱中症になるからと、庭には大きなサンシェードが張られていて。
取り合えず、直火焼きにはなっていない…。
「あっちぃ…」
さっきから、汗が止まらない。
だけど、涼しい部屋はない。
「なんで、こんな日にうちのエアコンは壊れるんだよ…」
2度目じゃねぇか…。
タイミング悪く、連日の猛暑のニュースが報じられたその日。
家の近所で建設中のマンションのクレーンがバランス崩して、電線ぶった切るって事故があって。
今は、俺のご近所さん全体が停電中。
だから、エアコンは壊れてない…。
壊れてないけど、使えない。
「あ~、だめだ。のぼせるわ」
そう言って俺は、手に持っていたホースを頭の上に持ってくる。
すると、ホースから出ていた水が頭から体までを濡らして。
「ああ…気持ちいい」
頭と身体が濡れて冷えた所で、またホースを持ち直す。
停電したなら、せめて停電していない所へ行って涼めばいいのに、午後に届く荷物を受け取らないといけないから出かけられない。
母さんが、それならコレやっておいてと渡されたホース。
「ちゅんあちゃんが、幼稚園から戻ってきたらプール入らせてあげて。大きいの買ったからアンタも入れるでしょ」
「母さん、俺…午後から荷物くるんだけど」
「荷物受け取って、ちゅんあちゃん見ててあげて。私とちゅんあちゃんのママは、この停電のせいで食材ダメになっちゃうから、買い物行かないとだから」
「まじかよ…」
「何?ちゅんあちゃんの面倒みるの嫌なの?」
「別にジェジュンの面倒見るのは嫌じゃないけど…」
「なら、しっかり頼んだわよ…」
汗だくになりながら、母さんはでかめのプールを出してきて、俺はそれを洗って、今は水を貯めてる最中。
お隣さんのジェジュンこと、ちゅんあは、男の子なのに将来の夢は俺のお嫁さんっていう変わった子。
だけど、色白で目も大きくて、まだ子供なのにふっくらとした唇は、艶めいてるみたいに赤い。
男の子だって知っているけど、女の子のにも間違えられるくらい、美少年。
自分の事を、ちゅんあって言っちゃうのが可愛い。
まぁ…取り合えず、俺のどストライクな好みの顔立ちをしているジェジュンは、何故か俺に懐いてる。
お嫁さんになりたいって言いだすくらい、好かれてはいる。
おばさんの所も、ユノくんならいいわよ~っていうし、俺の家も、何故か歓迎してる。
本当に、そのうち嫁に来そう…なんて冗談を言いながら、せっせと水を張る。
「ゆのにーちゃ…ただいまっ」
「あ、ジェジュン…おかえり。お前、顔真っ赤じゃん」
「ちゅんあね、顔あっちーなの」
おばさんと手を繋ぎながら、俺の家に来たジェジュンの顔は、火照って顔が赤くて。
汗だくになっていた。
「ユノくん、ごめんなさいね。ちゅんあの事よろしくね」
ジェジュンを水着に着替えさせているおばさんも、顔赤くしながら俺にジェジュンの事を頼む。
「ジェジュンの面倒見るのは、全然いいんで…。おばさん、顔赤いから…これ、母さんと使って下さい」
渡したソレは、水で濡らしたタオル。
エアコン使えないから、冷たいモノなんてないし。
こんな暑い中、買い出しにいく母さんもおばさんも大変そうだから、少しでも涼んでくれたらって…。
「ユノくん!!ありがとう。チョンさん、ユノくんってば凄いいい男じゃない。早くちゅんあ貰ってくれないかしら」
「やだ、まだ子供よ…。可愛いちゅんあちゃん泣かせないように、きっちり躾けなきゃ」
母さん達は、なんかきゃいきゃい言いながら、頼んだからねと言い残して、買い出しに行った。
「ママ、顔まっかだったの」
「ジェジュンも真っ赤。ほら、プール入るだろ」
「あい!!」
勢いよく手をあげて、ちっこい身体がプールに入る。
「ゆのにーちゃ、きもちーの」
ジェジュンが腕を伸ばした状態で、うつ伏せになってプールの中を動き回る。
こんなに暑い日が続いてるのに、相変わらず肌は白くて。
水で濡れた肌が、触り心地が良さそうだと思った。
「ゆのにーちゃも!!」
「ん?あ、ああ…」
ジェジュンに誘われて、めちゃくちゃ浅いプールに入って座って。
また頭から水をかぶる。
俺の煩悩が、このまま流れればいいんだけど…・
「ゆのにーちゃ、しゅごいね!!」
「え?これか…」
「ちゅんあ、お顔ねおみじゅつけれないの…こわいの」
頭から水を被る俺に、ジェジュンはキラキラとした瞳で、見上げてくる。
ジェジュンの方が小さいから、どうしたって見上げる視線になるのは解るんだけど。
キラキラした大きな瞳、火照った頬、薄っすら開いた唇。
男だし、敷地内だからって、上半身は何も身に着けていないジェジュンの白い肌。
薄い色の小さな胸の飾り。
「きゃー!!ゆのにーちゃ、おぼれちゃう」
水量をあげて、頭から浴び続けると、ジェジュンが慌てたように、俺の膝を叩く。
ああ、なんだよ…まだこんなに小さいのに、あったかいし柔らかいし。
「ゆのにーちゃ、だいじょうぶ?」
「ああ、大丈夫。煩悩が襲ってきたから、流してた」
「ぼんのー?悪いやつなの?」
「うん…。時々襲ってくる」
「じゃあ、ちゅんあ、ゆのにーちゃ、まもるね」
「お、おお…ありがとな」
可愛い笑顔で、俺を守るって言ってくれるジェジュンに、物凄い罪悪感。
『すいませーん。配達ですけどー』
「あ、すんません。受け取ります。ジェジュン。ちょっと待ってて」
ふいに玄関の方から掛けられた声に、慌てて受け取りにいく。
届いたものを、誰にも見つからないように、隅に隠して、急いでジェジュンの所に戻れば、
一生懸命、顔を水につける練習してるジェジュンがいて。
頑張ってるなぁって近くにいけば、水が器官に入って咽た。
「大丈夫かっ」
慌てて、ジェジュンを抱きかかえて、背中をさすってやれば。
「おくち…はいっちゃったの…」
涙目で、口元を小さな手が覆って。潤んだ瞳が俺を見上げる。
タラっと鼻下に感じたヌルリとした感触は、
「ゆのにーちゃ、ちー出た!!しんじゃう、ゆのにーちゃしんじゃいやー」
「だ、大丈夫。死なないから!!死なないから!!」
俺の鼻血を見て、パニックになったジェジュンが、泣きながら抱き着いてくる。
俺は、鼻を摘まみながら、死なないからと繰り返しながら、心の中では、頼むから離れてくれと叫ぶ。
ジェジュンの柔らかい肌が、俺の肌にピタリとくっついて。
滑らかで、気持ち良くて。
咽た時の表情が、邪なモノを咥えさせた時の妄想をして…。
のぼせた…。
「だ、大丈夫…暑かっただけだから…」
鼻血が止まってから、もう一度水を被って。
まだ涙目のジェジュンを安心させる為に笑顔を見せる。
「ちゅんあ、しんぱいなの」
「ごめんな。心配かけて」
ジェジュンは何にも悪くない。俺がどうしようもないくらい悪いだけ。
「ちゅんあ、しんぱいだから、きょうはおとまりするね」
「え?あ…いや、その…」
「だめ?」
「だめ…じゃないです」
「うわ~い。おとまり、おとまり」
お嫁さんだから、俺の事が心配だから、お泊りするんだと言われてしまったら、もう了承するしかなくて。
『DVD…どうやって、部屋に隠そう…』
ネットで見つけた、年頃の男なら絶対に興味のある、動画DVD。
ネットで偶然見つけて、思わず買ってしまったソレ。
なんとなく、ちょっとした表情がジェジュンに似てたから買ったソレ。
まだ子供、まだ子供。
呪文のようにそれを繰り返して、チラリと俺にくっつくジェジュンを見る。
「ゆのにーちゃ。ちゅんあお嫁さんだから、ゆのにーちゃのかんびょうするの」
にっこり笑顔で、俺を見上げるジェジュン。
『ああ…俺、DVD見なくても色々出そう…』
そんな事が頭によぎった俺に、プールの水音がパシャンと笑ったように跳ねた。