いちごちよこれいと | True Blood Love -Last Song-

True Blood Love -Last Song-

2人で奏でる歌

ああ…荷物が重い。
こんな事を言ったら贅沢だって思われるって解っているけど。
世の中は、なんでも程々がいいと思う。

朝起きたら、母さんに渡された紙袋を、溜息混じりで受け取って。
それからやっぱり、渡してくれて良かったと思う。

紙袋いっぱいに詰め込まれたチョコ。
どれも、これも、全部。

チョコ チョコ チョコ チョコレート。

「重い…」

靴箱に、机に、それから直接だったり…。
これでもかっていうくらい、渡されたチョコレート。

「バレンタインが重い…」

一応、直接手渡してくれたり、その…まぁ、告白なんてしてくれた子には、お付き合いも丁重にお断りをするんだけど。
せめて、チョコだけでも受け取って欲しいと言われたら、『はい』と言うしかなくて。
クラスメイトには、羨ましがられるけれど…。

好きな子から貰わないと意味がない。
そんな事を思ってる俺は、気持ちは嬉しいけど困るんだ。

「ただいま…」

あ~、重かったと呟きながら、リビングへ入ったら。

「ゆのにーちゃぁ!!!」

「おわっ!!」

俺の足に、飛び着いてきたのは、お隣のジェジュン。
白いうさぎの耳付きパーカー着て、おかえりなしゃいとたどたどしい口調で、にこにこ笑顔で、出迎えてくれた。
ぴょんぴょんと跳ねるから、その度に、被ってるフードに付いているうさぎ耳が、同じように跳ねて。


可愛い…。


「ただいま、ジェジュン」

いつものように抱き上げてやろうと、手に持ってた紙袋を床に置いた瞬間。
ザザーっと雪崩のように、床へ散らばった、バレンタインチョコ。

「……………」

ジェジュンは、ちらばったチョコを見て、一つ手に取ると、また床に置いて。
いきなり走り出して、リビングから出て行ってしまう。

「え?な!!ちょ、ジェジュン??」

突然の事に、驚いて動けないでいると、キッチンから出て来た母さんが、
ジェジュンと同じように、床に散らばったチョコを見て、呆れたように溜息を吐いた。

「は~。やれやれ…。ちゅんあ見ちゃったのねコレ」
「母さん、ジェジュン、どうしたんだよ…突然、出て行っちゃったんだけど」

ジェジュンが出て行っても慌てないのは、外に出て行ったのじゃなく、
リビングを出て、どうも俺の部屋に行ってしまったのだと、ドアの音で解るから。

「これよ。これ…」

そう言って、母さんが出してきたのは、小さな籠いっぱいに、入ったチョコレート。
正確に言えば、串に刺さった苺に、チョコレートがコーティングされてる物が、
一つ、一つ、丁寧に、ラッピングされて、花籠のようになっていた。

「昨日から、ちゅんあと一緒に作ってたのよ。あんた苺好きでしょ?だから、苺チョコレート作りたいって…。昨日から作って、さっきまで一緒にラッピングしてたの」

それなのに、よりによって、学校から持って帰ってきた大量のチョコ見ちゃったのね…と、
母さんが呟いてるのを背中で聞きながら、チョコレートの入った籠を奪い取るようにして手に持つと、急いで俺の部屋へと行く。

俺の部屋のベッドの布団の真ん中が、小さく丸まって盛り上がって。
くすん、くすんって泣く、ジェジュンの小さな泣き声。

「ジェジュン…」

布団をめくると、小さく、小さく、丸くなってるジェジュンがいて。
その小さな身体を、抱き上げて、自分の膝に乗せても、俺に顔を見せずに泣いてる。
背中を撫でながら、籠に入った、苺チョコを一つ取り出して、串に刺さったそれを口に放りこむ。

甘酸っぱい苺に、甘いチョコレート。
口いっぱいに広がる、その味が、妙にくすぐったい感じがして。

「美味しいな、苺チョコ」

「ふぇ…?」

泣き顔のまま、顔を上げたジェジュンに、笑って。
もう一つ、苺チョコを食べる。

「沢山、作ってくれたのに、あっという間になくなりそう」

「ゆのにーちゃ…おいちぃ?」

「ん…美味しいよ。俺の好きな苺で、ジェジュンが作ってくれたんだろ?最高に美味しいよ」

柔らかい髪を撫でてやれば、泣いていた顔が、パァッっと花が咲くみたいな笑顔をくれる。

「あにょね…。ちゅんあね、ちょこ、くるくる~ってちて、いちごにちゅけたの」

「ちゃんと袋に入れて、リボンまでしたんだな…凄く上手でビックリした」

「えへへ…ちゅんあ、がんばったにょ」

頬を染めて、恥ずかしそうに笑いながら、作るまでの過程を一生懸命話してくれる。

「ばれんちゃいんは、しゅきなひとにあげりゅって…ちゅんあ、ゆのにーちゃ…に」

そう言い始めたら、さっきの事を思い出したのか、ぽろぽろと、また涙が零れて。
慌てて、その涙を指で拭いてやりながら…。

「あ、あれはな…俺のじゃない。アレは、父さんのだから!!皆に頼まれただけ!!」

「う?おじちゃ…の?」

「そう!!!俺にチョコくれるのは、母さんと、ジヘぐらいだから…」

「じゃ…ちゅんあだけ?」

「俺の事、好きって、こんなに美味しいチョコレート作ってくれるのは、ジェジュンだけだよ」

「…しょっか。ちゅんあだけ…えへへ。ちゅんあだけ」

途端に、にこにこと喜ぶ顔が、本当に嬉しそうで、心の中で父さんや、くれた女の子に謝りつつも、ジェジュンがこんなに可愛く笑うなら、まぁいいかと…結構、自分勝手な事を考える。

「はい。ジェジュン…」

「う?」

まだラッピングされたままの苺チョコを手渡せば、きょとんとした顔をして俺を見上げる。
ああ…さっき泣いたばっかりだから、目がうるうるしてるし…可愛い。

「ほら…あ~ん」

俺が口を開ければ、どうして欲しいのかが解ったみたいで、
小さな手で、ラッピングを、いそいそと外すと、

「ゆのにーちゃ、あい、あ~んちて」

「あ~ん」

俺の口に運ばれる、苺チョコを嬉しそうに見つめる。

「じゃあ、ジェジュンにも、あ~ん」

「あ~ん」

今度は、俺が、同じように苺チョコを食べさせるけど、俺には一口で食べれる苺も、
ジェジュンに小さな口だと、半分しか口に入らなくて。

「ふふ…あまいね~」

小さな唇の端にチョコをつけたまま笑うジェジュンに、

「チョコ…ついてるぞ」

両手が塞がっていたから、唇の端を、ペロリと舐めてチョコを取ってやると、
ただでさえ大きな目が、まん丸になった後に、顔を苺みたいに真っ赤に染めるから。

あ、しまった…これじゃキスみたいじゃないか…と、思った瞬間、動揺を隠す為に、
ジェジュンが齧った苺チョコを、食べて誤魔化す。
コーティングされている部分は、ジェジュンが殆ど食べたから、
口の中に広がるのは、甘酸っぱい苺の味。

ああ、どうしよう…なんだか、照れ臭くてしょうがない。

黙々と次から次へと苺チョコを食べて誤魔化してると、

「ゆのにーちゃ…チョコ、ちゅいてりゅ…」

下から、ちょっと背伸びしたジェジュンが、俺の下唇をペロンって舐めて。

「ふふ…」

恥ずかしそうに、小さな手を合わせて、唇を覆いながら笑う。

「チョコ…ついてたの…内緒な」

「あい。ないちょ…」

小さなジェジュンに、唇についたチョコを舐められて、すっげードキドキしてる自分に動揺しつつ、うっかり、こんな事をジェジュンが話してしまわないようにと、『二人だけの内緒』にする。
それが、ジェジュンには、嬉しいらしい。

「ホワイトデー、楽しみにしてろよ」

「あ~ぃ」

元気良く手を上げて返事をしたジェジュンに笑みを零して。

「来年も、苺チョコ…楽しみにしてるから」

「じゅっと、じゅーっと、ちゅんあが、ゆのにーちゃにあげりゅね」

「うん。チョコ、ありがとうな。ジェジュン」

「どういちゃちまちて…」

にこにこと笑うジェジュンを膝に乗せて、俺は、今まで一番、美味しいバレンタインチョコを食べた。


それから毎年貰っていたチョコレートは、相手が解るものは全部返した。
相手が解らない物は、そのまま全部、寄付したりして。

「ゆのにーちゃ。どうじょっ!!」

「お!!苺チョコにうさぎが描いてある。凄いなジェジュン」

「ちゅんあ、うしゃぎしゃんしゅきなにょ」

「美味しいよジェジュン」

「ゆのにーちゃ、だ~いしゅき~」

ぎゅ~っと抱きついてくる小さな身体に、まだ子供、まだ子供って胸の中で一生懸命唱えながら。

「可愛いな、俺の将来のお嫁さんは…」

「うふふ…ちゅんあ、およめしゃ~ん」

チョコレートよりも、甘い笑顔を見せるジェジュンを抱き締めて。
甘酸っぱい苺チョコレートを、今年も口に運んで貰う。


甘酸っぱい苺チョコレートが、とろけるような甘さに変わるのは……。




もうちょっと……先の話。









fin